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謁見のはずがお披露目会に

午後になり、レオナルドとユーリアスが迎えにきた。

対面は謁見の間で行われると思っていたが場所は執務室らしい。内輪だけの集まりにしたいそうだ。


完全な素の状態がよいと指示されていたのでフィーナの偽装を解き、用意してくれたレモン色のドレスを着た。


初めて素の状態で会ったレオナルドは、まっすぐセラフィーナを見て「綺麗だな」と一言呟いた。


嘘っぱちな貴公子対応でもなく、意地悪く笑うのでもなく、あまりにストレートな褒め言葉にセラフィーナはどきまぎして顔を赤くした。


「父上も母上も気さくな方だから大丈夫だ」


レオナルドはそう言うがやはり緊張する。後ろを歩くターニャが大荷物を持っているのも気になる。ユーリアスがいてくれるのがなんとも心強い。




辿り着いた豪華な扉の前でレオナルドがノックをする。


「失礼します。父上、母上、連れてきましたよ。セラフィーナ・ダウナー嬢です」


セラフィーナはこれでもかというほど深いカーテシーをした。


「よいよい、顔を上げよ。そう緊張するでない」

「まあ!なんて綺麗なお嬢さんかしら!大丈夫よ、この人顔は怖いけど優しいのよ」

「まったく、お前は。人の顔を怖いなどと言うでないよ。さあ、座りなさい」


お二人がとても仲睦まじいという噂は本当のようだ。それにたぶんセラフィーナの緊張をほぐそうとしてくれている。とてもありがたい。


現国王ガイル・クレイズは凛々しい顔立ちをしており、どっしりしていて威厳がある。


王妃レイチェルは若々しくとても美人だ。スタイルも抜群で、とても二人の子を持つ母とは思えない。

顔立ちはアレクセイが陛下似、レオナルドが王妃似といったところか。


ガイルの斜め後ろにいるのはロイズの父、宰相だ。


「失礼いたします」


向かいのソファにレオナルドとセラフィーナが座り、ユーリアスはレオナルドの後ろに控えた。


「アレクとレオの指示とはいえ、セラフィーナ嬢には色々面倒をかける。ティターニアを支えてやってくれ」

「もったいないお言葉です」

「ね、セラフィーナちゃんはあの香水の担当なのでしょう?私とても気に入っているのよ」

「こらこら。まずは儀礼の挨拶をしなくてはならぬだろう」

「あら、いいじゃないの。堅苦しいのはもうやめましょう。ねえ、セラフィーナちゃん」


同意を求められても何と言えばよいのか。セラフィーナは曖昧に微笑んだ。


「香水をお気に召していただけたようで、ありがとうございます。あちらの品は非常に人気が高いため、追加で発売することにいたしました」

「あら!それならいつでも購入できるのね」

「いえ、あちらは非常に高価なものです。希少価値を求められるお客様もいらっしゃるでしょう。ですので今回も限定とさせていただきます」


黙って聞いていたレオナルドが口を開いた。


「ほう。お前、意外に商売上手だな」

「レオナルド殿下、意外には余計かと思います」


二人のやり取りを見て、ガイルとレイチェルは顔を見合わせて笑った。


「なんだ、レオ。もう素を出しているのか。珍しいな」

「本当ね!セラフィーナちゃんをよっぽど気に入ったのかしら?」

「そうだな。確かに気に入ってはいるな」

「ほう!これは珍しいこともあるものだ」

「父上と母上も見ればわかる」

「そうね!さっそく見せていただこうかしら!」


レオナルドはセラフィーナを見てニヤリとした。


「まずはフィーナ・ガレントからだ」


やっぱりね……





宰相が案内してくれた執務室の続き間にターニャと二人でお邪魔する。


「それではセラフィーナ様、失礼いたします」


ターニャは朝やってくれたようにクールメイクをセラフィーナに施した。濃茶のかつらをかぶりメガネをかける。

フィーナ・ガレントの出来上がりだ。


「ねえ、ターニャ。この後ってさらに偽装するのかしら」

「はい。レオナルド殿下からそのように伺っております」

「そうよね、だからその荷物なのよね」


なぜ残念令嬢で国王と王妃に謁見するのかよくわからないが、もうあまり考えないようにしよう。ひとまず今の自分はフィーナだ。

よしっと気合いを入れて、皆がいる執務室に戻る。


「お待たせいたしました。コクーン国ガレント侯爵家第二子フィーナ・ガレントにございます」


ガイルとレイチェルは目を輝かせた。


「ほう!雰囲気が変わったな!」

「まあ!先ほどよりもキリッとしているわね!でも美人に違いないわ!」

「そうだな。ティターニアと近い立場になるのだし。レオ、よからぬ者が近づかないよう気をつけよ」

「わかってる。こいつの面倒は私がみる。ユーリもいるしな」

「そうであったな。ユーリアス、妹が心配であろう。皆で協力してやってくれ」

「ご配慮いただきありがとうございます」


ユーリアスが頭を下げた。


「それにしても、先ほどの綺麗なダークブルーの髪を隠してしまうのはもったいないわね」

「だが本来の姿を隠すためであろう。仕方あるまい」

「そうね。ティアちゃんの黒も神秘的で素敵だけど、セラフィーナちゃんの色もとても綺麗だったわ」

「あ、ありがとうございます」


王妃に褒められて嬉しくないはずがない。

笑顔が隠しきれないセラフィーナに、レオナルドは無情に告げる。


「次だ」





もう一度奥の部屋に入ったセラフィーナは、ターニャが持ってきた荷物を確認した。

なぜか残念令嬢になるための小道具がちゃんと入っている。


「セラフィーナ様、お手伝いいたします!」

「…お願いするわね」


目を輝かせてわくわくしているターニャに若干引いた。


まずはさらしを巻いてもらうことにしたのだが。さすがというべき王宮メイド、力が強い。ぐいぐい胸を潰されてセラフィーナは悲鳴を上げた。


「タ、ターニャ!ちょ、ちょっと待って!」

「はい、なんでしょう」

「あまりさらしを絞めすぎてはただの細い体になってしまうわ。昨日見たと思うけどぽっちゃり加減が大事なの。それが残念度を上げるのよ」

「なるほど!きつすぎず、ゆるすぎず、ですね!」


さらしが終わると次はタオルだ。

潰した胸からまっすぐ、違和感なく寸胴にするのだ。


四苦八苦するターニャにフィリアの手際良さを思い出し、フィリアはいつの間にか大ベテランになっていたのだな、と感慨深いものを感じた。

少し時間がかかったが、なんとかこつをつかんだターニャが完璧に近い形で仕上げてくれた。

学園の制服に着替えフィーナ用の化粧を落とす。


次は残念令嬢仕様だ。


まず紫色のアイシャドウを少しだけ指に取り目の下にのせてくまを作る。次にペンシルで鼻周りを中心に適度な量のそばかすを描く。更に血色が悪く見えるよう青みが入った口紅をうっすら塗る。その後に目を細くつり上げて白いテープを貼る。

前髪と横髪を整えてテープを隠し、さらにもっさり感を出すため顔の輪郭がわからなくなるほど髪を前に流す。最後に後ろの髪を二つに分けて三つ編みにし、左右に垂らした。


鏡の前に立ってみれば、顔色が悪く地味で田舎臭い、くびれのないぽっちゃりした残念令嬢がそこにいる。



完璧だ。



一日ぶりだというのに、色々あったせいかなんだか懐かしく感じた。

横で興味津々の顔で覗き込んでいたターニャが絶賛する。


「素晴らしいですセラフィーナ様!とても同じ女性とは思えません!」

「ありがとう!ターニャが手伝ってくれたおかげよ!では行ってくるわね」


目を輝かせるターニャに笑顔を送り、隣の部屋に戻った。





「失礼いたします」

「あら、今回は時間がかかったの………」


昨日見たポカン顔が再び訪れた。


「え…。本当に、セラフィーナ、ちゃん?」

「これは、驚いた…な」

「………」


呆気にとられる三人にレオナルドがどや顔になる。


「すごいだろう。こいつはこの格好で学園を闊歩している。貴族令嬢が捨て身の体当たりだ」


レオナルドのその言葉に、まず宰相がぶっと吹き出した。それを皮切りにガイルとレイチェルが笑い出す。


「ふははは……闊歩…て……はははは」

「フフ……捨て身……フフフフ」


「そして婚約者を論破していた」


その後は止まらなかった。

ガイルとレイチェルは顔を真っ赤にさせお腹を抱えた。宰相は壁に手をつき、顔を隠しているが肩が大きく揺れている。アハハアハハと笑い声が部屋に響いた。


レオナルドはその様子を満足げに眺め、ユーリアスは労りの目をセラフィーナに向けた。




一通り笑いが収まったところで、ガイルとレイチェルはセラフィーナに向き合った。


「いや、すまない。セラフィーナ嬢。笑うつもりはなかったのだが。ぷぷ」

「そ、そうねフフ。女性を笑うなんて失礼だわフフフ」

「いえ、どうかお気になさらないでください」

「せっかくだけど、その偽装を解いてもらっていいかしら」

「そうだな。元に戻してもらおう」


再度奥の部屋に戻り、全て落として髪を整え、最初のレモン色のドレスに着替えた。


「すごいな!本当に別人だ!」

「ええ!同じ女性とは思えないわ!」


テディはセラフィーナの顔を気に入っていると言っていた。それを隠すための偽装だ。まったく別人と言われるのはセラフィーナにとって何より嬉しい誉め言葉。


「ありがとうございます!お褒めにあずかり光栄です!」

「いや、誰も褒めてはいないと思うぞ」


レオナルドの呟きは聞こえない。






謁見を終えてティターニアの部屋に戻ったセラフィーナは、事の詳細をティターニアに話した。


「それではフィーナの偽装を両陛下は喜んでくださったのね」


喜ぶというのかわからないが、最後は皆優しい笑顔で送り出してくれたので問題なかったのだろう。


その後はティターニアとリンカと少し話した。

リンカの勉強ノートを見せてもらったが、びっしり埋められていてセラフィーナは感動した。

今後三人でいるときは単語でもよいのでクレイズ語で話すようにして、細かな勉強方針を決めた。


夕食の時間になり、アレクセイが来るというのでセラフィーナは部屋に戻ることにした。ティターニアは一緒にと誘ってくれたが、馬に蹴られたくない。


ゾーラに案内された新しい部屋は昨日よりもずっと豪華で、手前から応接間、寝室、衣装部屋になっている。圧倒され、こんな部屋ではおそれ多いと嘆いたが、ゾーラはこれでも抑えたのだと。他国の客人にしては質素らしく、受け入れるしかなかった。


部屋ではターニャが食事の準備をしてくれていた。

今日の出来事を二人で笑いながら話す。続きの間で待機していたターニャにも、ガイルとレイチェルの笑い声が聞こえていたらしい。

特に残念令嬢の仕上がりにターニャは大満足のようだ。


「アレクセイ殿下の執務室で拝見させていただいた時の衝撃が忘れられません!本日はお手伝いができて光栄でした!」


レオナルドがまた何を言い出すかわからないので、その時は手伝ってもらうことを約束する。

ターニャとも今日一日でずいぶん親しくなれた気がした。



部屋で美味しい食事をいただき湯浴みをした後、フィリアの手紙を読んだ。

王宮は色々大変だろうがセラフィなら大丈夫との言葉にじんわりきた。


ええ、ええ。本当に。今日も色々ありました。


セラフィーナはいそいそと返事を書き始めた。


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