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リンカを応援しよう

少し緊張気味のセラフィーナにティターニアはにっこりと微笑んだ。


「改めてよろしくね。フィーナ」

「はい、よろしくお願いいたします。ティターニア殿下」

「ふふふ。私達は従姉妹だからティアと呼んでちょうだい」


はにかむティターニアのなんとかわいらしいことか!

アレクセイのことをちょっとどうかと思っていたが、あんな顔をされたらたまらない。


「それから侍女のリンカよ。彼女はクレイズ語を聞き取れるけど、うまく話せないの」

『ティターニア様付き侍女のリンカと申します。よろしくお願いいたします』

『はい、リンカ。こちらこそよろしくお願いしますね』


セラフィーナが淀みなくコクーン語を使うことに、ティターニアは喜んだ。


「フィーナがコクーン語を理解してくれてとても心強いわ。まずはお茶にしましょうか。リンカ、お願い」

『かしこまりました』


二人は別々の国の言葉で話している。ティターニアは勉強のためにもあえてクレイズ語を使っているのだろう。


「フィーナは16歳なの?」

「そうです。国立学園の二学年生です」

「では私達同い年なのね。でも私のせいで学園をお休みさせてしまって」


申し訳なさそうなティターニアに慌てて否定する。


「いいえ、ティア様。私はすでに第四学年までの課程を修了しています。ですのでスキップ制度を利用すればすぐにでも卒業できます。ですからどうかお気になさらないでください」

「なぜ制度を利用しないの?」

「私はどうしても婚約解消したいのです。先に卒業してしまえば婚約者と接点がなくなり、そのままの流れで将来結婚することになるでしょう。それを避けるために、あえて学園に残って嫌われるように仕向けていたのです」

「昨日ユーリアスが説明していた話ね。それにしてもあなたのぎぞう?ぎそう?には本当にびっくりしたわ」

「偽装です。驚かせてしまって申し訳ありません」

「偽装ね。いいの。ただ素顔がとても綺麗だったから。それにスタイルも良くてとても素敵だわ。ねえ、リンカ」

『さようにございます。姫様が羨ましがっているのがわかりますよ』

『もうリンカったら!言わないで!』


二人はとても仲が良さそうだ。ティターニアがリンカを信頼しているのが伝わってくる。


「最初はお化粧だけだったのです。ですが同室のご令嬢がやるからには完璧にと言って、体にタオルを巻き付けることを提案してくれたのです」

「ふふふ。面白い方ね」

「ロイズ様の婚約者ですよ」

「そうなの?ぜひお会いしたいわ」

「では伝えておきます。落ち着きましたらぜひお茶会をしましょう」


とても和やかな空気だ。ティターニアは見た目だけでなく、性格も穏やかでかわいらしい。


だがそのティターニアが表情を曇らせた。


「あのね、フィーナ。あなたにお願いがあるの。リンカの事だけど」

『姫様!駄目ですよ!』

『でも、だって……』


いったいどうしたのか。特にリンカは険しい顔をしている。


「どうされましたか?私でお力になれるのであればおっしゃってください」


眉を下げたティターニアはリンカにも伝わるようにコクーン語で話し出した。


『リンカは私の乳姉妹なの。子供の頃からずっと一緒にいたわ。私が巫女姫に決まった時も神殿までついてきてくれて、リンカのおかげで寂しくなかったの。サイプレスに留学するときも必死に勉強して一緒に来てくれて。なのに次はクレイズに来ることになって……今でも必死で勉強してくれているの。でも……』


専属侍女の仕事をしながら他国の言葉を勉強するなんて、とても大変だっただろう。


『リンカにクレイズ語を教えてほしい、ですか?』

『そうなの!私だけでは難しくて…』

『駄目ですよ、姫様。私はただの侍女です。貴族令嬢に教えを乞うなどもってのほかです。そしてフィーナ様にも大変失礼です。フィーナ様、申し訳ございません。どうか聞かなかったことにしてくださいませ』


頭を下げるリンカと落ち込むティターニア。

そんな二人を放っておけるはずがない。


『駄目ですね』

『そう…よ、ね』


悲しげに眉を寄せるティターニアに優しく微笑む。


『クレイズ語だけでは駄目だと言ったのです。コクーンとは文化やマナーが大きく違います。サイプレスで基礎ができているとはいえ、将来はクレイズを背負って立つティア様の専属侍女として、リンカには腕を磨いていただかなくては!』

『え?それじゃあ!』

『はい。もちろん協力させていただきます』


ぱあっと顔を明るくさせるティターニアがとてもかわいい。アレクセイが見たら感激しそうだ。

だがリンカの表情は曇ったままだ。そう簡単に頷ける話ではないだろう。仕事に真面目な侍女なら尚更だ。


セラフィーナはリンカに顔を向けた。ここは少し強めに言おうと決めながら。


『聞いて、リンカ。あなたがティア様のお側にいるためにずっと努力していることをとても尊敬するわ。そんなあなたなら、いつかきっと自然に話せるようになるでしょう。でもそれじゃ遅いの。婚約披露が終われば様々な方がティア様に謁見を申し込んでくる。そのときお側に控えている専属侍女がクレイズ語を話せないとなったらどうなると思う?

下手をすればリンカ、あなたはコクーンに帰らされるかもしれない』


リンカはハッと顔を上げる。


『アレクセイ殿下はティア様をとても大切にしていらっしゃるわ。ティア様が望めば無理をしてでも専属侍女でいられるでしょう。でも自国から連れてきた言葉の話せない侍女を、いつまでも手離さない王太子妃というのは評判を落とすだけだわ』

『そんな、私のせいで姫様が……』

『そうならないために私の生徒になりなさい。誰にも文句を言わせない完璧侍女になるのよ。そしてこれからもずっとティア様のお側に居続けるの』

『リンカお願い!フィーナはこんなに私達のことを心配してくれているわ!』


リンカは目をさまよわせながら俯く。

だが顔を上げ、迷いながらもおずおずと口にする。


『あの、フィーナ様。本当によろしいのでしょうか?』

『ええ、もちろんよ!でも私はスパルタだから覚悟しなさい!』


強気な笑みを浮かべてリンカをビシッと指差すと、リンカは涙を溜めながら笑って頭を下げた。

正面にいるティターニアの目が輝く。


『フィーナ、かっこいい!』


素直に言われるとかっこつけたのが恥ずかしくなり、所在なさげに手を下ろした。


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