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プロローグ

完結作品です!

よろしくお願いいたします!

「セラフィの婚約が決まったよ」


父ローレンの執務室で、セラフィーナは淑女にあるまじき口をポカンと開けてしまった。なぜ急にそんな話がでてきたのかさっぱりだ。だがセラフィーナが驚くのも無理はない。


政略結婚など今は昔、とは言わないが、昨今では貴族の間でも恋愛結婚が増えてきており、15歳から通う国立学園では出会いの場ともなっている。


そんな中での婚約話だ。


先日十歳になったばかりのセラフィーナには婚約なんてまだまだ関係ない話だと思っていた。二つ上の兄、ユーリアスも目を見開いて固まっている。


「ちょっと待ってくださいお父様。なぜ急にそんな話に?お相手はどなたですか?」

「お前達もよく知っているモルガン侯爵家のテディ君だよ。幼い頃よく遊んだだろう?」


その瞬間、一気に血の気が引いた。

まさかテディだなんて……


ショックを受けて青ざめたセラフィーナを、ユーリアスが抱き寄せて抗議する。


「父上!なぜセラフィとテディを婚約させようなどと?!私は反対です!」

「わ、私も嫌です!なぜ勝手に婚約なんて!」


涙が勝手に溢れ落ちてきた。

テディなんかと婚約なんて絶対嫌なのだ。


「考え直してください父上。今ならまだ間に合いますよね」

「お父様、お願いします!」


だがローレンは反対されるとは思っていなかったようで戸惑った様子を見せた。


「これはメイリーが望んだことなんだ」

「お母様が?どういうことですか?」


ローレンは大きな息を吐き、深刻な表情になった。


「実はメイリーはもうそれほど長くないんだ。何人もの高名な医者にも診てもらったし、他国からも様々な薬を取り寄せた。でも結果は同じだったんだ」

「そんな……」


セラフィーナとユーリアスは愕然とした。

メイリーの病状がまさかそれほど悪いとは思っていなかったのだ。


「メイリー自身も長くないことを感じていてね。将来のお前達を心配しているんだ。特に他家へ嫁ぐセラフィのことはね。だから懇意にしているモルガン家ならセラフィも幸せになれるだろうと先方に打診したところ、大喜びで受け入れてくれたんだよ。メイリーは安心していたよ。これで自分がいなくなってもなんとかなるとね」


涙を浮かべ悲しそうに笑うローレンに、セラフィーナもユーリアスも何も言えなくなってしまった。


テディとの婚約にメイリーの病状のこと、セラフィーナは頭が混乱している。しかし沈黙を了承と受け取ったのか、ローレンは残酷な言葉を告げた。


「一週間後、婚約証書を交わすために侯爵家のご家族がいらっしゃるから、二人とも準備しておくんだよ」









◇◇◇



ダウナー伯爵令嬢セラフィーナとモルガン侯爵家嫡男テディが初めて会ったのは遡ること五年前。セラフィーナの母メイリーがきっかけだった。


テディとセラフィーナは同い年で、ユーリアスも入れて三人が遊び相手になればと思ったからだ。


侯爵邸で初めて顔を合わせたテディは、淡い蜂蜜色の髪にオレンジの瞳を持つかわいらしい男の子だった。

だが五歳になるというのにまともな挨拶もできず、急にセラフィーナの腕を引っ張りモルガン邸の庭に連れ出した。


「どうだ!うちの庭はすごいだろう!」

「そうね、とてもすてきね」

「ふふん、お前の家じゃむりだろう!ぼくの家はえらいんだぞ!だからお前はぼくのいうことを聞くんだ!」


とてもじゃないが仲良くしたいとは思えない言葉にセラフィーナは黙りこんだ。

後からついてきたユーリアスが見かねて、セラフィーナをメイリーの元に連れて戻ろうと手を繋ぐとテディは急に怒り出した。


「どこへ行くつもりだ!ぼくのいうことを聞けと言っただろ!大体なんだこの髪の色は!気持ちわるいな!」

「いたいっ!やだ!やめてっ!」


あろうことかテディはいきなりセラフィーナの髪を強く引っ張り出した。

あまりの乱暴さにセラフィーナは泣き出してしまう。ユーリアスがテディを引き離そうとしたが、それでも怒鳴り続けるテディにメイド達は慌てて夫人を呼びにいき、その日はその場でお開きとなった。


だがそれでは終わらなかった。

メイリーがセラフィーナを侯爵邸に何度も連れて行くからだ。

その度にテディはセラフィーナを庭に連れ出し、自分の方がえらいのだから言うことを聞けと傲慢な態度で怒鳴りつけ、さらには「髪と目が気持ち悪い」「陰気臭い」と何度も貶し、セラフィーナの髪を引っ張る。

愛情豊かに育ったセラフィーナはテディの暴言と暴力にどうしてよいかわからず、ただ涙をポロポロと溢すことしかできなかった。


なぜテディがそんなことをするのか。理由はセラフィーナの持つ色が問題だった。


セラフィーナが生まれたクレイズ王国を含む中央大陸は、色素が薄く髪や瞳の色が淡いのが特徴だ。父ローレンも晴れた空を思わせる水色の髪と瞳をしている。

しかしメイリーの故郷である東大陸は黒や濃茶が特徴で、メイリーも黒目黒髪をしている。そんな二人から生まれたユーリアスは瞳は黒いが髪は明るい水色だ。


対してセラフィーナは髪も瞳も紺ともいえる深い青。


見る人が見れば鮮やかなダークブルーがとても綺麗だと誉めるだろうが、淡い色ばかりのクレイズ王国では見ない色である。


メイリーには何度もテディが苦手だと伝えた。だが逆に笑って諭されてしまう。


「テディ君は少しやんちゃなのね。でもお友達を作ることは大切よ。お母様はこの国でお友達ができてとても楽しくなったのよ」


実はメイリーはメイリーで、嫁いできてからは苦労の連続だった。


ダウナー家は異国の希少な輸入品を取り扱う商会を運営しており、父ローレンも若いころは他国を飛び回っていた。その先で出会った二人は恋に落ち、メイリーは東大陸サルーン国から中央大陸のクレイズ王国に嫁いできた。


だがいくら相思相愛だろうと、メイリーにとっては言葉も文化も食べる物さえ違う国。言葉も覚束ない上に目立つ黒目黒髪に遠巻きにされ、なかなか馴染めずにいた。


そのメイリーに手を差し伸べたのがモルガン夫妻で、特にモルガン夫人はメイリーの容姿を褒め、馴染めるようにと手を尽くしてくれた。そのおかげでメイリーは穏やかな生活を手にすることができたのだ。


そんな経緯があるため、メイリーは侯爵夫人に心酔している。そして夫人はテディに甘い。


「テディは少しやんちゃだけどとても良い子よ」


その言葉をメイリーは真に受けた。そしてローレンは“子供同士の喧嘩だから”と笑うメイリーの言葉を鵜呑みにした。


どうすることもできずにただ涙を流し、他人の目から自分の姿を隠すように帽子を深くかぶり、どんどん表情が暗くなっていくセラフィーナを、兄のユーリアスは放っておくことができなかった。


メイリーに似てパッチリとした大きな瞳を持ち、かわいらしい容姿で笑顔の絶えなかったセラフィーナが目を伏せ俯きがちになり、自信をなくしていく姿に耐え切れなくなり、メイリーに侯爵邸に連れていかれないようセラフィーナを祖父宅に向かわせた。


ユーリアスから事情を聞いた前ダウナー伯爵である祖父ガーレンは、俯くセラフィーナに笑顔を取り戻させようと、ユーリアスと共に商談の旅に同行させることにする。


このガーレンの決断がセラフィーナの人生を大きく変えることになるとは、このとき誰も思わなかった。


お読みいただきありがとうございます!

少し暗めですが徐々に上がります!


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― 新着の感想 ―
[一言] 2周目です。 改めてプロローグを読み返してみると、 ここに全てが詰まっている感じがして、 なんだか感慨深いです。 友達の家に行って、ちっちゃい頃のアルバム見てるようなそんな感じ。 ストーリ…
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