#4 彼女のプランと彼の決意(Yside)
その日は降ったり止んだりを繰り返している変な天気だった。
学校も行きは雨が降っていたのに今現在、いつもの三人で歩いている放課後は曇り空が広がっている。
梅雨が始まって、じめーっとした気温と湿度に機嫌も髪もやられている。もうほんと……髪、朝大変すぎ。
そういうのを最近ではヘアピンでとめてごまかしている。えへへー、このヘアピンかわいい……。お気に入りの猫のヘアピンをつけて歩くのがこんなに楽しいだなんて。
「なーんか楽しそうだね」
「ひゃ!」
横から急に言われて背筋が伸びた。おまけに変な声も出た。
隣では日向がニヤニヤしている。
「な、そんなことないけど!」
「えー、私達とカフェ行くのそんなに退屈なの……?」
「え? そ、そうじゃなくて別に私は綾人くんにもらったヘアピンをつけていることが嬉しいなーって思ってただけ……とかいうわけでもなくて!」
ついうっかり口をこぼしてしまった。日向がそれを見逃すはずもなく
「へー惚気ですか。やっぱり私達より水森かー」
どっちもだ大事だよ〜とかは恥ずかしいので言えるわけもなく、ただ恨み節を乗せた目で日向を思いっきり睨んでやった。
「睨んでるゆっきーもかわいいなぁ。そのほっぺた膨らませてるのもポイント高いなぁ」
は! 無意識。ていうか高校生で頬のことほっぺたっていうあたり日向もかわいい……。
かわいいなぁと思いながら見ていると日向が訝しげに見つめ返してくる。
「……なんでほんわかしてこっち見てんの……」
「えー? そんなことないよ〜」
「どうする、とも? ゆっきーがとうとう表情筋バグっちゃった」
「バグってないわ」
冷静にツッコミを入れると「お、治ったみたい」とか言ってケラケラ笑う。
「けどやっぱり、今日水森が休みだから体調崩しちゃったか〜」
「そこまで落ち込んでないし!」
なぜか今日綾人くんは学校を休んでいるみたい。公欠っていうわけでもないから連絡してみたけど未だに返信はない。
「おーよしよし。あいつのことは忘れてお姉ちゃんと遊ぼうねー」
「子供扱いやめて」
今日は一段と日向がうざい日だから綾人くんへの気持ちも散漫になりつつあった。
でも、この気持は本物だよ。綾人くん!
「戻ってこい」
カフェは雨だからか、あまり混んではいなかった。
「さーさ、勉強やりますか」
一回伸びをして気持ちを切り替える。もとより今日は今度の定期考査に向けての勉強会と称して三人で集まっているわけで、決しておしゃべりしに来たというわけではない。
しかし、向かいの日向はうぇー。とあからさまに嫌そうにテーブルにぐだりこんだ。ちょっと、邪魔なんだけど。日向の手が広域をとって勉強の阻害をする。
日向の手をどかして勉強に集中する。最初は数学から。
学校から支給されている問題集のテスト範囲を開く。見る限り数字ばっかで……酔いそう。
「……そういえば、梅雨を利用しておうちデートなんてものが流行ってるとか」
日向がポツリとつぶやく。
そして私は筆を置いた。
「……その話、詳しく聞かせてもらおうかな」
まさか梅雨というマイナスなことしか起こらないと思っていた季節にそんなメリットがあるとは……!
思い切り聞き入る体制になると、日向が当初の調子を取り戻してきた。
「おやおや〜? 由紀さん、まさか彼氏さんのお宅にお邪魔したいんですか〜?」
「え……え⁉ い、いやまあそのなに? 参考までに聞こうかなというか最近ジメジメしてるから家のほうが快適だしというか、私じゃなくて綾人くんがご所望だったときに使えそうだなって思っただけで!」
できる限りの言葉をまくしたてる。
その焦りが逆に己を陥れるというのに。
「へぇ〜」
「な、なによ」
「いや〜? ふ〜ん?」
日向はこちらを見てずっとニヤニヤしたり、何も言っていないのに相槌を返す。揶われていることはもはや明白だった。
「……っ日向〜‼」
カフェ・モカを飲んでほっと一息、落ち着きを取り戻す。
「……それで、おうちデートってどうやってやるの?」
「うーん、私も詳しくは知らないんだよね」
まあそうだよね。と言おうとしたけど、それを言ったら日向が拗ねると知っているから苦笑いで返す。
「だ、か、ら〜やっぱり上級者であるともに話を聞こうじゃないの!」
一斉に朋美の方を見る。だが、朋美はうつむいてぼーっとしている。
「……? え、ごめん話聞いてなかった。なに?」
「ちょっとちょっと聞いといてよー」
「ごめんごめん。で、なにをまたやらかしたのさ日向」
「私を問題児キャラにするな。だから……」
日向はさっきの話を朋美に伝える。その時もなんだか朋美は元気がないような……。
「朋美、体調悪いの? 大丈夫?」
もしそうならちゃんと休まないといけない。私のおうちデートなんかの話よりも友人の体調のほうが今は重要だ。
しかし朋美は微笑んで
「ん。大丈夫」
「そっか。じゃあ、おうちデート講座。お願いします!」
勢いよく頭を下げ頼み込む。うん。悪ノリです。
「いや無理」
「………え?」
望んでいた答えと違うことに驚きを隠せない。
「な、なんで?」
そうは聞いたが、顔を上げたときの顔を見れば一目瞭然だった。
「い、いや、私もそんな発展した関係までは行ってない……から」
彼女は頬を赤らめ、普段の無表情を恥じらわせていた。
か、かわいい……!
恐ろしいほどそう思った。なるほど、これが世に言うギャップ萌えか。
そんなことを思ったのは私だけではないらしく、日向は朋美の肩に手をおいて
「とも。これから私達と一緒に学んでいこうな……!」
「日向は学ぶより先に相手を見つけような……!」
日向に今日一番の大傷を与えた一撃だった。
「で、結局おうちデートってどうやるのかなぁ」
「うーん……やっぱりスマホで調べてみるか」
「まずは誘い方からだけどね」
今まで頑張ってどうにか一緒に帰ったり、LEINで夜遅くまで話したり。結構今までも頑張ってなんとかしてきた人、どうも火野由紀です。
それが今度は何? おうちって。つまり家に上げるか上がるってことでしょ? それってどっちも容認してるってことじゃないの?
『私の家、今日誰も居ないの……(頬染めながらちらっとみる仕草)』
とかやったらもう確定やん。ていうか、誘っているのが私って。私は、はしたなくなんかないし!
「もう、ほんとに全然はしたなくなんか……でも……!」
「おーい、帰ってこーい」
日向が私を呼び戻す。危ない危ない。
「……乙女はムッツリに進化しました」
「してないから!」
咳払いをしてこの嫌な空気を断ち切る。
「それで、どうやって誘えばいいの?」
「なんでそんな上からなんだよ」
いいから早く答えてと催促すると、日向がため息を吐いてから語りだす。
日向の場合
放課後、いつもどおり彼と一緒に帰る中
「あのさ、Aくん」
「どうした、Y」
「いや、この雨じゃどこもデート、行けないなって……」
「仕方ないよ。天気には勝てないし」
「でも、私……」
そう言って、私はAくんの裾をつまんだ。いつでも振りほどけるくらいの弱々しい力で。
それでも彼は止まってくれる。
「私、これからデートしたくなっちゃった」
「Y……」
「Aくん……」
見つめ合う二人の間にはほんの数センチの距離しかない。
視線は互いが互いを見つめていて、その間は時間も止まっている。
「Y……俺の家、今から行くぞ」
彼は途端に言い出した。
「え、でも……」
「家なら、雨なんて関係ないだろ。ほら、行くぞ」
そう言って、私の手を強く、けれども優しく握った。
もう雨の音は聞こえない。
心臓の音がうるさくて。
「乙女か」
聞き終えた私は第一声にいつか私が言われたことを言い返す。
「ていうか、それ絶対少女マンガの一節でしょ?」
「えーよくない? 特に最後。あーもー! 恋しーたーいー!ってなるじゃん」
なるかぁ? 絶賛恋する乙女の私には分かり得ない感覚。
「ていうかYとAくんって……馬鹿にしてる?」
「えーなんのことー?」
あくまでしらばっくれるってか。まあいいだろう。実際にやってみたら、たぶんこんなにきれいに事は進まない。そんな事は彼を落とすために奮闘した一年間が物語っている。
「ま、参考だし、一応考えとこうかな」
シチュエーション自体はいい感じだし。と、日向を褒める言葉は胸にしまっといて。
「いい感じって思ってんじゃん」
「な! ちょ、ちょっとしか思ってないし!」
「ちょっとは思ってくれてるんだ……」
これ以上日向に弄ばれないように話を戻す。
「じゃあ次は朋美! どうかな?」
朋美はいつもどうりの無表情フェイスを取り戻して語り始める。
朋美の場合
LEIN上でのこと。
『ねえ、Aくん』
『今度、うちに来ない?』
『一緒にこの間オススメしてくれた本について話そ?』
『いいよ』
『やった!』
『もし良かったらAくんのオススメの本他にも持ってきてくれたら嬉しい!』
『分かった』
『ありがとう!!』
『じゃあ、今週の土曜日うちに来て!』
『うん』
朋美が話し終わってもしばらく私達は言葉を出せなかった。それくらい驚いていた。
「……普通だ」
「……うん、普通の回答だ」
いつもスキあらばエロいこととか、ネタぶっこんでくるあの朋美が今日はぶっこんでこなかった。
「え、朋美やっぱり体調悪いんじゃないの……?」
「ね、熱でもあるの?」
本気で心配しだす私達を朋美は顔をむっすーとさせる。
「……私をなんだと思っているの?」
そりゃあ、普段全然感情起伏のない無口だけど誰よりもボケに徹し、ボケを愛しボケに愛された女。でしょ? とは流石に言わないにしろ、そういった感じでしょうとは思った。
「……別にこれは導入なだけであって、これからどう発展させるかは自由でしょ? 例えばしれっと家族を一日帰らせないようにするとか、友達の家にお泊りするとか言っといてホテルに直行するとか」
「やっぱりともはともか」
「……それはそれでムカつくけどね」
やはり私の気のせいなんだろうか。変わらずいじりいじられる二人を見ながら思う。
朋美を見れば、いつもの無表情が少しほころんでいる。そんな小さな変化にも今だけはなんだか敏感になっているみたい……ちょっとこの言い回しエッチかも。
「じゃあ次、ゆっきーは?」
「え、私⁉」
私、参考にする側なんですけど……
「当たり前じゃん。 結局本人がどんな感じを望んでるかがいちばん大事なんだよ」
考えていなくて戸惑う。ええいままよ! と、想像力を奮い立たせてシチュエーションをつくる。
由紀の場合
学校にて。
その日は雨が降っていて、その中でも綾人くん……AくんとYは一緒に帰ろうと話している。
「雨続くね……」
Yは憂鬱混じりでつぶやく。
「うん。梅雨だからね」
「デートも行くところ限られちゃうよね」
Yは苦笑いを浮かべながら冗談めかして言う。Aくんはこっちをずっと見ている。
「まあ、あんまり濡れてまで遠出はしたくないかな」
彼はとても正直に言う。
「あはは……だよねー」
Yはまたしても苦笑をした。そこで、一つ勇気を出してみる。
「あ、あのさ。綾人くん……」
こんなこと自分で言ったら誘ってるって思われるかな?
……でも、頑張ってみてもいいのかな。
「も、もしよかったら、なんだけど……わ、私の家、とか……こない?」
ちょ、直視できない。自分で家に誘うのとか恥ずかしすぎんだろ!
「ど、どう……かな?」
「もちろん。いいに決まってるだろ!」
「ゔぇ!」
変な声を出してしまって、急いで口を塞いだ。
「ちょっと日向、変にアフレコしないでよ!」
日向が低い声で綾人くんに似せて声を出していたせいで驚いてしまった。
「ゆっきーが途中から妄想全開モードに入ってるのが悪いんだって。途中から実名出てたし」
確かに、私もちょっと自分の世界に入っちゃったところはあるけども。
でも妄想ですら返事が分からないなんて……綾人くん、やっぱり強い。
妄想ですら綾人くんに勝てないことに肩を落とす。
「まあでも、一番良かったというか、リアル味があったしいいんじゃない」
ひ、日向……!
アイスコーヒーを飲んで照れているのをごまかしている日向を見る。かわいいしイケメンだし……最高かよ!
「日向」
「な、なに」
「ありがと!」
素直にお礼を言うと、日向が気恥ずかしそうに視線を外した。
「お、おう……」
やっぱりかわいい。
「それで、その後はどうすんのさ」
調子を取り戻した日向が聞いてくる。
恋愛が告白したら終わりでないように、デートだって誘って終わりではないのだ。むしろここからが本番と言ってもいいだろう。
「家って特に何もないんだよね……」
小学校のとき、よく友達を家に上げていた記憶がある。その時は決まって何をしていたというわけでもないが、ゲームとか漫画とか当時ハマっていたものを夢中でやっていた。
でもそれ女の子同士の話なんだよな……。
しかも”小学生だから”というのも一つ挙げられる。高校生の今になっては友達といてもただ話したり、スマホいじっているくらい。
「強いて挙げるなら本か……」
本は私と綾人くんの数少ない共通の趣味の一つ。これならお互いのおすすめの本を読んで感想を言い合うだけでも数時間は潰せる……けど
「デート感……というか恋人感はないな」
「だよねー……」
ただ読んでる時間は一人で集中している時間だからそれは個人が同じ空間にいるだけ。あまり予想しているデート感はない。
「もっとこう……イチャイチャするものないわけ?」
ちょ、日向ってば何を言ってるの! そんなイチャイチャだなんて……!
「なんかアクションゲームの一つでもあれば動きに乗じてボディタッチできるかもしれないのにな」
「そ、そんなボディタッチなんて……!」
し、刺激が強すぎる!
「なーに興奮してんだよ」
「し、してないし!」
ガタッと音を立てて立ち上がる。周囲の視線で熱を冷まして、代わりに頬を茹で上がるくらいに熱くしながら静かに席についた。
「と、とりあえずもっと健全なのがいい!」
初めてなんだからもっと慎重に、清く正しく節度を保ってより良い関係性づくりを。が大切なんだよ。
「真面目ゆっきー出てきてる……」
「さーさ、どうすればいいか考えよう」
他にも案があれば困ることはない。
「んー。でもやっぱりゲームは必要じゃない?」
「まぁ確かに」
さっきは使用用途が完全に的を外していたから足蹴にしたが、実際にはとてもいい案だと思った。
時間を潰せることに加えて話題にも繋がりやすい。ただ問題があるとすれば……
「私、ゲーム持ってないし、綾人くんてゲームとかやるっけ?」
「あー……」
私と綾人くんの間にゲームという文字が介入したことはない。私もやらなければ、綾人くんもそういった話は出してこないからだ。
「あーでもアナログゲームとかなら行けるか……?」
すごろくとか、ボードゲームとか知ってれば遊べるだろうし。電子よりもハードルは低いのでは?
そう思って、どうか。と確認をとるために日向に視線を向けた。しかし彼女は俯いて、何やら肩をプルプルさせている。空調が効きすぎてるのかしら?
「アナログゲームを侮るなぁぁあ!」
「うぇっ! なに急に……」
バンッと机を叩く日向。目が厚い信仰をしているオタクのそれだった。
「アナログゲームだってな、知略と戦略を巡らせるとても奥深いゲームなんだよ。ルールもそんなに簡単じゃないし自分たちで面白くなるようにルールの変更だって楽しめる要素の一因なんだ。つまり、一概にアナログゲームといえどそのジャンルは多岐に渡るわけで……」
つらつらとアナログゲームのなんたるやが日向の口から出てくる。しかし、これから長くなるだろうところではっとした顔をし、次第に紅潮、だんだん縮こまっていった。
「日向……」
「………なに?」
人にはそれぞれ好きなものがある。好きなものには一入の想いがあるし、それを人が強制したり矯正したりはできないもので。だがしかし、一度熱が入ってふと冷めたときの恥ずかしさというか、誰もついてきてなかった感は異常。
たぶん日向も今その状態だろう。そんな彼女にどう声をかけていいのやら。
まぁとりあえず。
「今度、一緒にボドゲやろうぜ!」
「……………うん」
可愛いかよ。
「でもそっか。ゲームは厳しそうだね」
となると、他に思い浮かぶのはなんだろうか。
一緒に料理とか……? 私できないけど。
「映画みるとか?」
日向がアイスコーヒーをストローでちびちび飲みながら言った。
「それだ!」
ナイスアイデア日向! と勢いよく言う。
確かに映画なら時間が潰せるし、感想共有といった面でも読書と近いものがある。しかもびっくりとかしたりスリルあったりすれば偶然を装ってハプニングが起こること請け合い。
「きゃっ!」とか言って綾人くんの腕に飛びついてみたり、彼と肩がくっつくくらい近づきながら見たり……いや、最高では?
「戻ってこーい」
「いいねぇ映画。何見ようかなぁ」
ここは多少の怖いを覚悟してでもホラーとかスリルがあるのを選ぼうかな。
「怖い系の映画は濡れ場が多いって聞くけど」
「うん。怖い系はやめよう」
そんなシーンを一緒に見るとか誘ってるって思われるじゃん。
なら恋愛系……? 私全然知らんのだけど。
「水森が好きなジャンルってなんなの?」
日向がもっともなことを聞く。
「うーん。結構いろんな本に手を出してるんだよね。純文学とかも読んでるしラノベも漫画もこの間なんか新書読んでた」
「雑食か」
特にこれといって好きなジャンルはないんだろうか。気になったものを読んでいるという印象だし。そのおかげで幅広い話のタネを拾えるんだけど、こういったところで裏目に出るとは………。
「まぁたぶん綾人くんは私の勧めた映画もちゃんと見て楽しんでくれると思うんだよね」
今までもそうだったみたいに。お互いがお互いの好きを知って、それを受け入れて私達は私達二人のカタチを見つけていたのではないか。
そう思っているのが私だけならそれまでだけど、きっと綾人くんもそうだろうと、願った。
「………ま、いいかもな」
わがままな考えすぎて呆れたのか、日向がそう言う。
「ちゃんと助けてよー」
「なーにいってんだか。助けなんかなくても、二人はしっかりやれるよ」
日向にしてはくさいセリフを吐くなと思った。
「なにそれ」
「別に。ただ、幸せそうだなって」
日向は誇らしげに、嬉しそうに微笑んだ。
いつの間にか、日向には心配をかけていたのだろうか。思い返せば何でも一番に私の気持ちに気づいていたような。
友達のことになるといつも大げさに心配しては、無策にも突っ込んでいって。
本当は気が強いわけでもないし、私よりよっぽど乙女チックなのに私に背中を見せてくれる彼女はやっぱりかっこいい。
たぶん私は運がいい。こんなに最高な友達を持てたこと。しかも寄り添ってくれる友達がもう一人もいること。
だからこれは日頃の感謝も含めての言葉。
ちょっと気恥ずかしいいけど、必ず言いたい言葉。
「日向、とも」
二人は私の方を向く。
「ふたりともありがと」
そう言ったら彼女は「なんだそれ」と茶化していた。やっぱりかわいい。
でも、彼女はとても悲しそうな顔を浮かべていた。
再びカフェのドアを開けたとき、空は今にも降り出しそうな顔をしていた。
傘は持ってきているから問題はないけれど。
「じゃあ、中臣鎌足と中大兄皇子らがともにして討った人物は?」
結局話しているだけでろくに勉強に手がつかなかったため、せめて帰るときくらいはと問題を出し合っていた。
「はい! 蘇我入鹿と……入鹿と……イルカと、シャチ? 蘇我シャチ!」
「サ●エさんか」
なんでそんなに魚介たっぷりみたいになっちゃうの? 蘇我の蘇を鮮度の鮮と書いてしまったことがあるのは、果たして私だけでしょうか。ちなみに答えは蘇我入鹿と蘇我蝦夷。
次々に問題を出し合いながら歩いていく。
相変わらずともは、ぼーっとしながら歩いている。なんでともはあんな顔をしたのかも気なるが本当に体調が悪いとかなら心配だ。
季節の変わり目とか、今日みたいな嫌な天気の日は体調を崩しやすいって聞く。
もしかして、あんまり日向とか私に心配かけないように無理してるとか?
そうだとしても、せめて私くらいは力になりたい。
そう思ってばれないようにともにLEINを送る。
『とも、やっぱり元気ないみたいだけど大丈夫?』
『私達に心配かけないようにしてるのかもしれないけど無理はしないで』
そう送ると程なくして既読がつく。
『大丈夫』
そっけなく返す。
心配してんのに……。むーっとして少し強く返す。
『大丈夫に見えない』
『大丈夫だって』
『何が大丈夫なの?』
『体調はなんともない』
『体調はって、じゃあ他になんかあるんでしょ』
なんだかケンカみたいになってしまった。
「ねぇ二人してなにしてんの? LEIN?」
「え、うん……まぁちょっと」
日向には言いにくいんだろうと思って答えをはぐらかすと、今度は日向が不機嫌になる。
「なに? 二人でなんか連絡してんの? ここですればいいじゃん」
「え、いやその、だから」
答えに詰まる。
「彼氏とLEINしてんの」
そう言うともを二人で見た。ともは彼氏さんとの今現在のやり取りを私達に見せる。
「たぶんゆっきーもそう」
とも……! ナイスフォロー!
「そ、そうそう! ちょっと綾人くんから来てね。それで返してて」
必死に言葉を並べる。ちょっと苦しいかなと思ったけど杞憂だったようだ。
「〜〜〜っ! お前ら……そういったのは私が居なくなってからにしろ〜〜‼」
うがーっと悔しそうに怒る日向を見て、ともと二人笑ってしまった。
静かにスマホが鳴った。
とものスマホだった。
ともは少し離れてそれを見ると、表情を変えた。いや、正しくは失くしたとか諦めとかに近かった。
それからすぐに私のスマホも私の手の中で震えた。ともからだった。
『今から私に付き合って』
「え……」
ともを見る。
彼女は何かを決意したような顔をしている。
いつも私が分かれる突き当りまでやってきて二人と分かれる。
少しそのへんを歩き、彼女が来るまで待った。
「………おまたせ」
運動が得意ではない彼女が珍しく息を荒げている。走って来たのだろうか。そんなに急ぎの用事なんだろうか。
「……じゃあ、行こう」
そう言って私の手をとり、若干の速歩きで知らない目的地に向かっていく。
あのー私なにも知らされてないんですけど……。そう言いたくもなったのだが、そこまで空気読めないバカではない。
一体どこに行くのか。なにがあるのか。皆目検討もつかない。
疑問をいくつも抱えたまま歩く道のりは、足が地に着いていないかと思うほど不安定に思える。
それに比例して私の心も次第に鼓動が速くなる。
ただ一つはっきりしていることとして、見上げた空は今にも降り出しそうな嫌な空だった。
よければブックマークお願いします




