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第四話 竜

「おおぉぉぉぉぉうりゃああああああああーっ!」


迷宮型のフロアにしては広い、天井は無く、四方に入り口を配した遺跡の大部屋。

粗方の敵を殲滅した空間の片隅から唐突な大声が届き、馬でも轢いたような音が続く。

目を向けると、ハンマーの一撃を受けたミノケンタウロスが水平に跳ね、壁との熱烈な抱擁の果てに光と化した。


「・・・・・・ん? おお。何だ、そっちはもう終わってたのか。遅くなってすまねえな。

 しっかしあいつらを2体まとめてってのは疲れるモンだぜ」


落とされたカードを拾い、凝ったように肩を回しながらガレフが歩いて来る。

ほぐしている方の腕は、

彼以外の全ての武器を集めても及ばない重さの戦槌(ウォーハンマー)を持っていた。

申し訳なさそうにしているが、良心としてはともかく、このゲームの常識としては謝罪すべき理由は無い。

今の戦闘においてはミノケンタウロス2体を相手にする負担の方がずっと大きかった。

魔法力を消耗したくないリティに、スキルを使わずに済ませたい僕。加えて回復中の2人。

そんな事情から最も困難な仕事を担当したのが彼であるからして、働きには文句のつけようも無い。



「・・・・・・・・・」


目を閉じて意識を集中すると、脳裏に色の付いた横向きの棒が2本セット5組の計10本、縦に並んだ。

映るのはパーティーを組んでいる時だけ使用できる機能、各メンバーの生命力=LPライフポイントと魔法力=MPマナポイントの残数表示。

ライフを表す上側のバーへ順番に目をやる。

現在は一番上にある僕が緑色で1割も減っておらず、2本目と4本目に到っては無傷。

5本目は5%ほど削られていたが緑色。唯一、3本目だけが6割程で黄色になっている。

これがガレフのものか。

先に戦闘を終えたこちらは幾らか回復しているとは言え、彼の請け負った負担の大きさがうかがい知れる。

対照的に、下側のマナの方は僕とガレフが全く消費していなかった。どちらも魔法スキルを持たないので当然ではあるが。


「回復が要りますね、ガフさん」


同じように見ていたのだろう。後ろで<聖域>を解いたリィーリアが立ち上がる。


「おう。けどよ、そっちもマナが不安だったら別にいいぜ? こちとらタフさが売りの重戦士だしよ」


「皆さんが戦っている間に少しだけ回復しましたからご心配なく。

 でも、もう暫く回復に費やす必要がありますから本格的に休める場所を探さないといけませんし、

 その間にまたモンスターと遭った時、戦力の要であるガフさんのライフが半分ちょっとでは大変です」


「そうかい。じゃあ頼まあ」


説得に従い、重戦士が重い腰を下ろす。軽い振動が周囲に走った。

聖女が傷付いた、しかし見た目(グラフィック)に変化はない背中に手を当てる。


「────────────────」


歌声に似て紡がれていく呪文。

詠唱の後、手袋に包まれた彼女の両手に光が灯った。

鼓動のように明滅する柔らかな輝き。

見るだけで癒されそうな光を受け、消費したガレフの生命力(ライフ)がゆっくりと回復していく。

纏う雰囲気と共に、重戦士の頬が僅かにゆるんだ。

治療効果のある魔法に独特の活性感(リフレッシュ)を味わっているのだろう。

実に羨ましい。

回復作業を続ける2人と対照的に、こちらの空気は肌に重い。

投げた武器の回収に向かったリティと、無言でたたずむウィラード。

手隙てすきの連中が放つ警戒心が低く高く、そして細かく網を張り、周囲に重苦しい空気が這っている。

運命共同体(パーティー)の役割分担としては正しいが、どうにも面白くない。

まあ、敢えて気合いを入れずに立っている僕が悪いのだが。

そうは言ってもどうしたものか。


基本的に、回復魔法は完了までに時間がかかる。

プレイヤー間の戦闘において、回復合戦の繰り返し(イタチゴッコ)を防ぐためだ。

そのために僧侶系のプレイヤーは魔術師系と並んで護衛を必要とするし、支援スキルにも富むから前衛職に重宝される。

詠唱の長さからするとさほど高位の魔法ではなさそうだから、全快には数分程かかるか。

ガレフとリィーリアが動けないその間、まさか無防備にこの場に留まるつもりはないだろう。

徹底した警戒も、所詮は後の先を取れる程度の対応に過ぎない。

今この瞬間にもモンスターが現れる可能性がある以上、索敵や移動は必須だ。


「取り合えずこの場での処置が先ですかね。ガレフ、“探知”をかけた方がいいですか?」


職業クラスを考えればやはりと言うべきか。

杖を携えたウィラードが伺いを立てる。


「そうだな。この階に魔力感知出来るタイプは出なかったはずだし、やってくれ」


「了解しました。じゃあ行きますよ」


先端が叫んでいる人の顔の形をした杖を構え、ウィラードが宣言した。


「天よ地よ、風よ光よ。

 汝らが瞳の映す世界、汝らが耳翼を震わす歌、汝らが手の触れる形を一時、我に共にさせ給え。

 エリアプローブ」


詠唱の終了と同時にマナの輝きが全身から腕へ、腕から魔法杖へと移り、収束の段階を踏んで放射される。

薄く引き伸ばされたマナの力場が、僕らの体を透過して迷宮フロアの奥へと吸い込まれていった。


広域探知魔法の一つ、〈エリアプローブ〉。

使用後は術者を中心とした一定範囲内部に結界のように張り巡らされ、

侵入者の存在や内部の存在の動きを逐一、使い手に感覚させてくれる魔法スキル

一見すると非常に便利だが、ダンジョン攻略に優れた“盗賊”等が持つ〈気配感知〉のスキルと違い、強力な効果に応じた欠点がある。

魔法を使うタイプ等、一部のモンスターには魔力の発信源を感知されて逆に呼び寄せてしまうのだ。

よって初のダンジョンで使うにはハイリスクであり、攻略の進んだ場所であっても使えない場合が多く、利便性は今一つ。

元々、迷宮ダンジョンより野外フィールド向きの魔法と言われている。


そうは言っても、この場合の有効性自体に疑いはない。

これで回復に専念するなり、モンスターのいない場所へ移動するなりの行動が格段にし易くなる。

同じ探知系でも円状ではなくドーム状に展開される〈エリアプローブ〉を選んだのは、

キラービー・クイーンのような飛行タイプも探知範囲に入れるため。

ここまで使わなかったのは、おそらく僕の実力を見る意味でも戦闘をする必要があったからか。


どうにも。試されていると言うべきか、上から見られていると言うべきか。

その程度のものしか示せていないと言われればそれまでなのだが。少々、気に食わないな。


「どうですか? ウィラード」


武器の回収を終えて来た双剣士が魔導師に尋ねる。


「今からですよ。もう少し待っていて下さい」


素っ気無い返事を送ったウィラードが額に指先を当てた。


「よし、来ました」


集中のために瞳が閉じられ、目蓋まぶたの下で何かを追うように眼球が動く。

閉ざされた視界に代わって口が開いた。


「ここから真っ直ぐ行った所、範囲ぎりぎりの場所に3体いますね。

 左後方約300mに5体・・・・・・その近くに更に2体・・・・・・・・・右約100m、右前方約150・・・130mに1体ずつ。

 5体のグループはこっちに近付いて来ていますが、ペースは遅いですね。角を幾つか挟むので接触は当分先ですか。

 それから、他のプレイヤーは近くに居ません。かち合うことは無さそうです」


「よっぽど後発でなけりゃ、他はもうちょい先を進んでるからな。何にせよ少しは休めるってことか。ありがてえモンだ」


ゲージをほんの少し回復させたガレフが笑う。


「まあそんなところですかね────────・・・・・・ん?」


声を受けたウィラードが、振り返ろうとして止まる。

開きかけた目を閉ざし、再び魔法の効果へと意識を沈めた。


「どうした?」


にわかにガレフの声が鋭さを帯びる。


「いや・・・・・・一瞬、何かが映った気がしたのですが」


エリアプローブの使用は、脳内に三次元的なレーダーの表示が浮かび上がる感覚だと言う。

収めた瞳を脳裏の映像に巡らせるウィラード。


「っ。まただ・・・・・・でもこれは、しかし・・・」


「ウィラード?」


纏う空気を乱した魔導師を、いぶかしんだリティが呼ぶ。


「何かがエリアプローブの範囲内に侵入しました」


返答が場の空気が張り詰めせさた。


「モンスターですか?」


「間違いないでしょう。場所は前方、高度約50mの位置です。プレイヤーではあり得ませんね。

 この階層にこんな高さを飛ぶモンスターはいないはずなんですが・・・・・・・・・しかも、今は正確にここを目指して飛行しています。

 魔法を感知したようですね」


高度50mと言えばこの階層の天井ギリギリの位置になる。高くそびえる石壁の更に上だ。


「移動するか?」


報告を受け、癒しの輝きを受けたままのガレフが立つ。握られた大槌おおづちが、唸りを上げてその肩に乗った。


「無駄でしょう。こいつの速度、迷宮型のこの階で僕達が通路を移動するより明らかに速いですよ。

 壁を壊しながら直進でもしなければ振り切れませんね。無理ですが。下手をしたら逃げ場のない状態で上から攻撃を受けます」


「なら迎撃しますか?」


ガレフの回復に没頭するリィーリアと部外者である僕を余所よそに、ギルドという繋がりで結ばれた者達が話を進める。


「それしかないでしょうね」


「あとどれくらいだ?」


潤滑な意思の疎通は決断を円滑にする。

選択を決した重戦士が、行動の段階へ思考を移した。


「おおよそで30秒から40秒」


真紅の双眸を開いた魔導師が立てた指は、3本。


「短いな」


「ええ。昆虫系や浮遊するタイプではありませんね。引っかかったサイズもかなり大きい。

 出現の報告は上がっていませんが、地下四十階ならスカイドラゴンかキメライーグル辺りか・・・・・・。

 魔力を感知するタイプと聞いたことは無いんですがね」


「連戦の相手にしたいモンスターじゃねえな」


前者ならミノケンタウロスにも勝る敵だ。5人がかりとは言え、戦闘になるなら秒殺とはいかないだろう。

キラービー・クイーンもそうだったが、大多数のプレイヤーにとって飛行という能力は厄介だ。

飛行能力を備えた上級モンスターの討伐には、弓手系や対空砲火に優れた魔術士系が必須と言われる程に。


「仕方ありません。幸いにして数は1体、十分に対処可能な脅威です。

 接近中のモンスターの群が来る前には余裕で倒せます」


兜の位置を直した双剣士も武器を構える。


「ガフさんの全快には間に合いませんね」


回復の手を止めた聖女も、同じく戦闘体勢に移行した。神官風の衣装の裾を払い、後ろへと下がる。

横にウィラードが並び、陣形の先頭にガレフ、中間に僕とリティ、後方に魔法職2人という形を作った。


同時に、獰猛どうもうに空気を跳ね除ける羽音が響き始める。


「来ましたよ」


腰の鞘から愛用の片手剣を抜く。鬼が出るか蛇が出るか。

震え出した大気に、溢れ出す戦意が滲み始めた。











第四話 ドラゴン











古来より、竜や龍(ドラゴン)は強大な力の持ち主として描かれることが多い。

描写される側面が神的な姿であれ悪魔的な形であれ、それはベクトルの違いであって内実は変わらない。

ただ大きく。

ただ強く。

ただ雄雄しく。

人に語られるドラゴンという種は、自らの手に負えぬ存在として在る。


それは人の傲慢をいさめるために生まれた幻像であり、

それに滅ぼされるなら仕方がないという無力の赦しを得るために生み出された、大いなる終焉の具現なのだ。









「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!!!!」









滅びの美というモノが在るのなら、それを成す存在もまた美しいに違いない。

降り注ぐ光を受けて返す巨身。

まるで一つの鉱石から削り出したかのように、反射を妨げる鱗の模様は皆無。

背から尻尾の先端に到るまでが異様な透明度の角柱を連ね、輝きを跳ね返している。

鉄壁に勝る厚みを備えながらも向こう側を透かし見せる翼に軟らかさはなく、四肢の先には降り立った床を、紙のように貫く爪。

剥かれた牙の鋭さは刃に勝り、備えた硬度は比較にもならない。

あり得ない煌きに満たされた肉体は、事前に知っていなければ水晶クリスタルという格下の鉱物を連想させるだろう。

超重を支える両脚は太く、唯一全身と色をたがえた瞳は血色に禍々しく、遥か高みからの俯瞰ふかんを許す首は長い。


王者という、人の頂点さえ超えた威圧。

言葉による曖昧なイメージを吹き飛ばす、確かな幻想の現実感。

存在しているだけで感覚出来る、大気を軋ませる圧倒的暴威。




の存在そのものが至宝であり、至高であり、一つの絶対的な運命。




「ダイヤモンド・・・・・・ドラゴン・・・・・・・・・」


現れた光に照らされて口から這い出た言葉は、濃く暗い絶望の色だったに違いない。

金剛の名を冠した輝ける巨竜。ここにいてはならない破滅が、僕らの前にある。


「Dドラかよっ・・・・・・!」


「嘘でしょう!?」


呼応した叫びは悲鳴に近い。当然だ。

設定上は数回きりの超上位クエストか、特定最高位ダンジョンの低率ランダム出現でしか遭遇しないはずの相手。

ボスより強い普通の敵フィールド・エンカウンター・モンスター

全ドラゴンの中で最硬の防御力と五指に数えられる戦闘能力を持ち、

遺跡地下40階層のモンスターなど比べるのもおこがましい格上の存在、化物中の化物。


「まさか、遺跡に出るとは・・・・・・っ!」


知っていれば対策を用意しただろう。逃亡の確率を上げるために。

スカイドラゴンどころの話ではない。廃人だからこそ実感可能な戦力差がある。

即時撤退が叶わなければ、最悪全滅。

それがダイヤモンドドラゴン────────通称Dドラの力。

かつて一度だけ戦ったことがあるが、今のこの状況、逃走以外の選択は無謀だ。

最大数より1人欠けた5人組のパーティー、現状を想定していないアイテムのストック、連戦後の精神的疲労、回復を終えていない消耗。


何より。僕にとって、まだ仲間とは言えないプレイヤーが、すぐ側に4人。


切っていいカードの数は少ない。仮に切り札を出すなら9割を残したゲージが尽きてからだ。

最悪、僕はそれで構わない。

だが。もしも。

リティや他の3人が、僕より先に力尽きたらどうなるか。


『送信に用いられてる装置の出力が制御を振り切って君達の脳を焼くことになる。

 運が良ければ死なずには済むだろうが、脳を損傷して待つ結果は似たようなものだな』


八神老人の言葉が思い出される。この世界での死(ロスト)を迎えたプレイヤーの末路が。

彼の話が狂言だったという可能性も、あるにはある。

プレイヤーの隔離と強制という、彼が現実に行ったことを知っていてそこに賭けるのも一つの答えだ。

しかし。

結局のところ、この世界の神にしか死者の行く末は知り得ない。

この一月で消えていった数多のロストプレイヤー達。神のみぞ知る彼らのその後(エピローグ)

期待したい方にベッドするには、命というチップは重過ぎる。失われる時のそれは、コインのように軽いのだから。

50名ものプレイヤーがそうだったように。


そう。消え去った50名のプレイヤー、だ。

ようやく謎が解けた。


奇妙だとは思っていた。

以前にリティとの会話でも話題に上った、これまで姿を消したプレイヤーの数が50にも達するという事実は。

ただのプレイヤーならいい。

対人戦も日常である新世界オンライン(このゲーム)、ベテランであろうと敗北自体は珍しくない。


だが僕等にはあってはならない。


僕等は廃人である。

他人に自慢していい程度には精神も生活も狂っ(イカれ)た、

稼動一周年前という短期間で上限レベル100まで強さを極めた狂人だ。

中でもこのデスゲームの招待客は更に選りすぐられた1000人。

遺跡のモンスターは確かに僕らの目をして弱くは映らない。映らないが、普通に戦って敗北するかと言われれば別。

余程の不運が重なってもパーティーの半壊程度が最悪で、そんな不運もそうはない。

まして現状の攻略状況は最速の組(フロントライン)でも地下60階付近が精々。

もたらされる情報にも絶望的な敵は含まれておらず、情報の正否も常に検証されている。

命の危険を捨てきれないだけに、ただでさえ慎重さは増しているのが道理だ。

にも拘らず。

何故、同格のプレイヤーが50人もロストの憂き目に遭ったのか。

つまり。

こういうことだったのだ。


『レベルが上がることはないが、遺跡の中には新しいアイテムやモンスターも多数配置した。是非とも攻略の楽しみにして欲しい』


新しいアイテムに新しいモンスターの追加。なら、新しい仕掛けやトラップがあっても自然と言える。

この状況も同じなのだろう。

警戒していて然るべきでものを怠っていた。

仕込まれた製作者の意図を読み取れていなかった。

本来なら特定の場所にしか存在しないはずの、強力なモンスターの設置。

あの老人ならこの程度のことはするだろう。どころか、しない方がおかしい。

ともすれば、僕ら以上に異常な人間なのだから。

あの老人は。


八神老人の言葉からそこまで思考を伸ばすのは、考え過ぎと言えばそうなのかもしれない。

だが、あの創造主が僕らに期待したのは、真にゲームを愛する心。

都合のいいシステムや感動だけではなく、理不尽も不都合も、ゲームの全てを受け容れて楽しむ姿勢だ。

求められるのは果てしない積極性。一瞬の緩みも考察の隙間も見逃してはくれない。

選択肢一つのミスや、ボタン一度の押し間違いでゲームオーバーとなる作品さえ過去には多い。

ランダムにしか出現しない強力なモンスターに運悪く(たまたま)出くわすのも、オンラインゲームではあり得ることだ。

その程度の厳しさを、ゲーム作りの生き神と呼ばれ、己はゲームで死ぬとまで言ったあの男が求めないものか。

可能性は限りなく低い。そう読み切るべきだった。

おそらく、この仕込みが機能を発揮する確率も同様に低いのだろう。でなければ消えたプレイヤーは100や200でも済まない。

ゲームとは時に理不尽であり、プレイヤーに不都合な展開はいつも唐突にやってくる。

あくまでも不運だったのだ、僕等も。決して、僕等だけではなく。






開かれた口腔に集った光が思考を裂いた。






「しまっ・・・・・・!?」


時間にしてほんの数秒。

驚愕と緊張を、誰もが処理できない間に落とされた火蓋。


「グルォォォオオオオオ」


翼を広げたダイヤモンドドラゴンの中央、肉体の中心である胸部直下に、全身に浴びた光線が集約される。


「ッッッッッッッバァァァァァアアアアアアアアアッッッ!!!」


凝縮と開放。

透き通る巨体をレンズに集束された閃光が激流となって地を砕き、接触点から石片を撒き散らしながら駆け抜けた。

咄嗟に身を屈めたガレフの後ろに立つ僕とリティ、そして後方の2人を巻き込む軌道で光の奔流が迫る。

ドラゴンのブレスとは必殺の代名詞。

高位の竜が放つ殺意の吐息を、鎧を持たない魔導師と聖女が正面から受ければどうなるか。

剣士と双剣士、咄嗟に鎧で盾となるべく動く。


「────────よ盾となれ・・・・・・フォースシールド!」


完遂された詠唱が指向された現象を引き起こし、虚空にマナを固めた盾が生み出された。

身を呈した僕らの眼前、半透明の即席防具(マジック・シールド)が吐き出された光流を受け止める。

響いた声はウィラードのもの。

流石はプレイヤーの中でも戦術眼に秀でた者が多い遠距離攻撃職、

ギリギリのタイミングで詠唱を始めていたのだろう。

でなければ最短の呪文でも唱え終わる暇は無かった。絶妙な間の一手だ。


故に驚くべきは、あくまで敵の力か。


破壊の予兆が響いた。

無属性魔法下位、対物理障壁〈フォースシールド〉。

強度スキルレベルを最大まで上げただろう魔導師の魔法に、竜の息吹が亀裂を入れる。


「な!?」


ドラゴンのブレスは、必ず一つ以上の滅びを与える災厄の吐息。

背後の驚愕も虚しく仮初の盾が砕かれ、紙一重で防ぎ切った光線が止んだ。

欠片となった防壁の名残が、宙に流れて溶け消える。


「来るぞおおお!」


攻防の余韻の中、ガレフの一声いっせいが全員の視線を引き戻した。

初撃の発光が過ぎ去った視界、始まりの位置に金剛の体はなく、代わってぼんやりとした影がある。

思うのは、翼を持ちながらも鳥には分類されない竜の、鳥類より遥かに太く頑丈な両脚。


「〈跳躍震動スタンプ〉か・・・・・・!」


強靭な下肢に任せて地面から跳んだ(・・・)敵が、滞空を終えて全体重を地に預けた。

〈アースブレイク〉さえ及ばない揺れが一帯を襲う。


「ルアアアアアアアアアア!」


「おらぁぁあああ!」


揺れ動く視界、震える四肢。

惑う獲物を前にして翼を広げた竜に、唯一、察知の間に合った重戦士が突撃した。

輝きに向かう鎧が鈍く光る。

パーティーにおける近接攻撃職の役割は、前衛での攻撃と後衛の護衛。

もう一度ブレスを撃たれれば魔法職の2人を中心に態勢が半壊するだろう今、

彼が狙うべきは攻撃によるダメージと注意の牽引けんいん

剣と盾の役割を担った槌が、鼓舞の咆哮を胸に巨竜を目指す。


「ガアッ!」


「どっせい!」


自らに突貫する勇者を、ドラゴンは横殴りの尻尾で迎え撃った。

地を打って跳ねた金剛の鞭が空間を薙ぎ払う。対して振るわれたのは金属の大槌。

人馬も叩き潰すウォーハンマーと大質量の塊が激突し、相反するベクトルが食い合い、弾き合い、反発し合って距離を生む。


「ルオァッ!」


「おおっとぉ!?」


乗せた体重を相殺された竜は即座に反動を足し、尻尾とは逆向きに繰り出した爪を叩き付けた。

ダイヤモンドドラゴンは全身が等しく同じ硬度であり、その爪牙そうが一本一本の威力が名剣、いや聖剣魔剣の域にある。

裂かれ貫かれれば重傷を免れない五爪、

鎧を紙屑と化す刃を備えた五指による斬撃を、しかし重戦士は裂傷一つなくかわした。

比較にならない小躯で相手と同じ反動に襲われながら、おのが小ささを利用して手を打った衝撃に身を任せ、横に身を投げる。

激突までに描いた直線から直角に近い進路の変更が行われ、

巨体を武器に数える敵は追跡叶わず、地を切り抉った手に空気だけを掴んだ。


「オオゥッ」


「来いやぁ!」


失敗した攻撃と成功した回避が対比される。片や体重を乗せながらも片手での一撃、片や迅速ながらも全身を用いた移動。

戻された手尾しゅびと跳ね起きた体、双方共に動作の硬直は半秒に満たない。

ここからの始動を考えれば、全力の一振りで漸く相手の一動作を相殺出来る重戦士が不利となる。


だが。


ここまでに幾度、秒針の振れる時間があったのか。

先鋒せんぽうが身を以て稼いだ数秒。僕等にはそれで十分だった。


「────────よ紫電の鎖となれ。ライトニングネット、装填セット・・・・・・・・・」


駆け足の音が、刹那と狭間を満たす。

始点から、鈴音の届く終点までは一呼吸。

過ぎ去った影の左右には、刃と紫電が煌めいた。


「有り難うございます、ガレフ!」


携えるは風の双剣、唱えるは雷の魔法。

整えた体勢からの疾走の先、疾風はやてと化したリティが駆け抜け、跳ぶ。

戦場の空気と押し合ってはためくスカート。

レベル100プレイヤーのステータスは、既に限界点のそれだ。

極限まで高められた脚力が跳躍を飛翔へ変え、両者の距離は瞬間に消失した。

風よりもはやく身を躍らせた双剣士が竜の眼前で刃を握り、燃やされた生命の光が彼女を覆う。


双破そうは────」


右手の剣を左肩の上に、左手の剣を右肩の上に。構えた刃が左右同時に振り下ろされた。

乱入者に反応したドラゴンの鼻先を、燐光を纏ったX状の剣閃が切り裂く。

爆発する光と衝撃音。剣撃の余韻を残光が彩った。

薄れ行く燐光が花弁と舞い、エフェクトの残滓が双剣を照らす。

目の眩む輝きを浴びながら、なお剣閃は止まらない。


「────穿せんっっ!!」


柄を握る両手が返され、クロスした両腕が戻された。

限界まで引かれた両肘の先、相手の体表に対して垂直に刀身が立つ。

足が用をなさない空中で、弓に似て張り詰める上半身。

直後、筋肉が終端まで発火し、溜め込まれた張力が剣先に伝達。

矢としてつがえられた武器が、牙となって刺突を見舞った。

竜鱗に沈み込む双牙の切っ先。

双剣用スキル〈双破穿〉。斬り穿つ双剣の軌跡が交錯し、発光のエフェクトが二度、彼女の背を煌かせる。


「ァァァアアッ!?」


沸き起こる竜の音声おんじょう

降りかかる大音を刀身に浴び、うち震える大気を裂き、更に剣閃は舞い踊る。


「まだ────まだあぁぁぁっ!」


突き立った刃が翻り、次いで響くのは裂帛の気合。

鮮やかに虚を突いた剣が左右へ走り、収まらない閃光の中で瞬速の追撃が始まった。

皓伯こうはくに亀裂を生む紅蓮。

光の中、影となった両腕に炎が宿る。

灯火から篝火かがりびへ、ほむらから火柱へ、目映まばゆい増大を見せる朱の胎動。

溢れる白光を浴びて照り映える刀身に赤色が溶け込み、灼熱が噴き零される。

燃焼された生命力が火片となって群をなし、真紅の陽炎が剣を染めた。

己が生命の火を双剣に纏わせる攻撃スキル、〈双纏火撃そうてんかげき〉。

魔法と異なり実際に炎の属性は無く、反して炸裂する威力に偽りは無い。


「喰らいなさいっっ!!」


超硬度の鱗を盾とする相手に突き出されたのは、猛る炎色を帯びた一対の矛。

彼女が竜の鼻を飛び越すまでの一瞬、攻防の接触点に爆裂の花弁が咲き狂った。


「ギャァァァァアアッッ!?」


吹き飛ぶ大気が伝える轟音。

光を吐くドラゴンが、連続した閃光と衝撃に悶える。

輝く鱗を貫いての連撃は、並の相手なら十分な痛手だ。

だが足りない。

超常の戦力を誇る金剛の体に、この程度では浅い。否、浅過ぎる。


「グルッ・・・・・・ウウウ・・・・・・ウウゥ! ッゴアァァアアアアアアアアーーーーッッ!!」


案の定、反射で閉じた目をこじ開けた竜は、すぐさま己の悲鳴を咆哮で掻き消した。

スキルの反動に襲われる身を重力に引かれ、虚空を流れ始めた彼女に赤濁した照準が合わされる。

たとえ魔法が存在する仮想世界でも、一度空中に投げた身を通常の手段で動かすことは出来ない。

翼を持たない人間にとって、地を離れることは常に命懸けだ。

このままなら彼女の着地は墜落に変えられるだろう。翼持つ竜の爪牙によって。


「ミナセ!」


だから僕がいる。


「請け負った!」


他の3人ならば兎も角、数度の依頼を共にした彼女となら、多少の範囲で呼吸は合わせられる。

合図まであれば万全だ。

返答に下肢の呼応を合わせ、加速の中で落とした姿勢を跳ね上げる。

全力の跳躍と肉薄する巨体。

見開いた視界を輝きが埋めた。

間抜けにも彼女に視線を集中させた竜の意識下、

上を向いて晒された急所────────無防備な喉へ、体当たりと共に剣を突き込む。


「ギャアアアアア!?」


削るような硬い感触が手に広がり、驚愕を乗せた竜鳴が頭上で轟いた。

〈不技不抜〉の名に従った攻撃にスキルの反動は無く、間を開けず、相手を足蹴あしげにして中空へ跳ぶ。

竜にすれば苦痛の原因が自ら現れた形であり、怒りに煮えたぎった真紅の瞳は逡巡なく獲物を切り替えた。

ブレスの輝きを伴わず、光る牙を生やした口内が僕に向けて晒される。

意図するところは一つ。

原始的だからこそ無駄のない最速の噛み付き、溜めのない攻撃で堅実に削るつもりか。

良い判断だ。


それが不可能でさえなければ。


「ライトニングネット、解放リリース


透かし見る竜の背後からの冷涼な声。

サポート役を交代、技の硬直を解いた双剣士が支援に回る。

刺し出した刃、紫電を封入した切っ先から展開される縦横の光条。

雷系中位の捕縛バインド魔法、

解放のキーワードに従った放電が巨竜の総身を包み込み、空間を巻き込んで網を張った。


「グルッ!? ウゥ、ルォ・・・・・・! オウゥゥ・・・・・・ウルァァァ・・・・・・ッッ!」


物質化された雷撃が領域内で荒れ狂い、吹き荒び、猛るドラゴンを押さえ付ける。


「────ォォォ────────ォォォオオッッ・・・・・・」


全方位から体表を打ち据える稲妻と、牙を食い縛るドラゴン。

しばし雷電と竜との格闘に広間が震え、しかし10を待たずに均衡は崩れた。


「ルォォオオオオオォゥゥアアアアアアアッッッ!!!」


怒り狂う暴竜が咆哮したそばから拘束の一箇所が弾け跳ぶ。

格上の化物に対しての使用に加え、術者が本職ならぬ魔法戦士とあっては当然の帰結か。

予想された結果に予感された必然。残る猶予はおそらく数秒。


それでは余りにも────────十二分に過ぎる。


「ぜえええええええぇぇぇぇぇぇぇぃいっっ!!」


ようやく地に両足をつけた僕の前で、体勢を整えたガレフが始動していた。

鉄塊を以て練り上げられる周回軌道オービタル・リング

両の腕に握られたハンマーが振られ、時計回りに流れ出す。

連動した全身が引き摺られるように従い、左へと移動した武具の先端が右へと回帰し、そしてまた左へ。

ドワーフの種族特性に重戦士の職業補正を足した怪力、無双の腕力で持たれた大鎚が虚空を流れ、

重量と勢いに引かれた持ち手の体が流され、流れた体によって再び武具が流される。


繰り返される円運動。加速する流転が加算する威力。


先ず両の腕を、次に手にした武器を、更に両脚を、最後に巻き込む五体の全てを。

駆動する筋肉が関節を歯車に全身を連結、集束されるベクトルが一つの技として起動し、終速へ至る旋回が暴風を生む。

重力と筋力と遠心力。

3種の力が合算された破壊力はドワーフの大槌へと集約され、凝集を経て大砲の炸薬へと転換。

燃焼される生命力の輝きを巻き込み、超重の武装が砲弾の速度で投げ放たれた。


「おおおおおぉぉぉうりゃぁぁぁぁああああああぁぁっ!」


重戦士系ハンマー用スキル〈ハンマースロウ〉。最も単純にして三指に入る威力を秘めた重戦士の技が、竜の胸に吸い込まれる。

一瞬の音の隙間。

遅れて裂き出でる雷鳴。

衝撃が産声となって爆ぜ上がり、大気の恐慌の中で雷の拘束が引き千切られた。


「ギャアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァーーーーーーーーッッ!?!?」


鳴動する天壌。

爆撃に等しい大音が鼓膜を揺らし、直撃を食らった巨体が宙を跳ぶ。

『く』の字に折られた背中から広間の壁面に激突したドラゴンが、盛大にヒビを入れながらはりつけになった。

迷宮の壁に繋がれた金剛竜。

輝ける肉体が束の間、神話のレリーフを思わせる荘厳なオブジェと化す。


「「ナイスムロフシッ!」」


〈ハンマースロウ〉は威力の代償に予備動作が大きく、命中率が低いために高位の敵に当てるのは至難の業。

優れたハンマー装備プレイヤーの代名詞、大昔にハンマー投げで世界を取った、伝説の競技者にちなんだ賛辞を送る。

魔導師と聖女の声は重ならなかった。


「────────ならば。炎よ、炎よ、炎の化身よ!

 猛り荒ぶる汝が御魂、火獄の焔を以て我らが敵を滅ぼさん!」


代わりに熱く強く、朗々と声が響く。

見ずとも感じられる魔法力マナ顕現けんげんが背を焼き、巻き込んだ大気を焦がし尽くした。


「サラマンダーチャージッ!」


駄目押しに展開される炎属性上位魔法。

大半が広域攻撃となる上位魔法の中にあって範囲を中規模にまで圧縮した、対巨体モンスター用の殲滅魔法が放たれる。


「・・・・・・っ!?」


熱風が頬を撫で去る。

爆炎の翼で横を翔け抜けた火炎の竜人が、火線の羽根を散らしながら突撃した。

陽炎に歪む世界。

視界を紅蓮に染め、鼻をつく焼けた空気の臭いを残し、烈火の化身が示された敵へと猛る。

揺れる火焔を曳き、触れる空間を溶かし、踏み締める大地を赤熱させた絨毯じゅうたんの果て。

劫火を煮詰めた紅槍を突き立てたサラマンダーは、葬る敵へのはなむけに抱擁を残し、仮初の身に秘めた焦熱を解放した。


「────────────────────────」


大火の衣が喉を包み、絶叫さえも焼け爛れる。

広がる最中にシルエットを覗かせた炎のカーテンが、瞬く間に竜巻となって逆巻いた。

漏れ出した炎が波となって氾濫し、襲い来る熱気に身を固める。視界が赤い。

流石に火の大精霊の名を冠した魔法、余波にしてこの威力。

彼方からの炎熱でさえ頬が焼ける。鎧ごと炙られるようだ。

堪え切れずに目を閉ざすと目蓋越しに太陽の塔が浮かび、灼々とした世界に混じった、爆ぜる音が鼓膜に届く。

もしも僕ならば。元凶の火中には、刹那であっても身を置きたくない。


魔法。


接近戦の能力を犠牲に、回復を始めあらゆる防御的支援を代償に、

詠唱という枷を十字架にした魔術師系が手にした、唯一にして必殺の技。

威力なら近接職の通常攻撃の数十倍、スキルと比してなお数倍以上。

同じプレイヤーに使用すれば必滅の域にある現象は、ただ凄まじいとしか言いようがない。


「セラフィムコール」


紅蓮の光景に涼やかな声が吹いた。脳裏の熱感が冷涼な感覚に洗われ、火照った意識が冷まされる。

開いた視界が鮮明さを増した。

何かに体を包まれる感覚。囁かれた祝福に力が漲り、握る武器が軽くなる。

神聖魔法として別格の扱いを受ける、僧侶系のみに使用を許された光属性の上位魔法。

物理・魔法両面の攻防力と敏捷性を上昇させ、更には短時間の自動回復も付加された高位支援スキルの効果だ。

近接職の戦いを助けるために存在する魔法の発動、戦場での応援を受けて戦闘の実感が甦る。

まだ、戦いは終わっていない。


リティと僕で計1回。ガレフで2回、ウィラードで4回。


相手がミノケンタウロス程度なら、七度は殺し切っている。

それでもダイヤモンドドラゴンの打倒には不足だ。ちらりと見えた、今なお火炎の向こうでもがく影がその証拠。

2割弱と言ったところか。

敵のライフゲージの残り────────ではなく、与えたダメージの量は。

対ドラゴン戦はダメージを与えてからが本番と考えれば、ここからが本当の地獄だ。




「ォォォォォォォォ・・・・・・・・・」




周囲の大気を根こそぎ焼いた炎のヴェールを脱ぎ去り、曇らない輝きに満たされた巨体が進み出る。

思った通り、透明な体躯には『火傷』などない。圧倒的な状態ステータス異常耐性を有するドラゴンには当然か。

予想はしていたが、期待もしていた。呆れた楽観だ。そんな生易しい相手のはずはないのだから。


「ォォォオオオオオ・・・・・・」


鎌首をもたげた巨竜が、血色のまなこを開く。


「オオオォォォアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーッッッッ!!!」


大気が鳴動し、天をく赫怒の雄叫びが肌を打った。

垂直に首を伸ばした竜の全身を、怒りを具現化したかのような光が覆い、次の瞬間に消える。

直後に怒号も途切れ、直前が嘘に思える無音が降りた。

急速に目に映る世界が暗くなり、全ての音が遠ざかったように感覚する。

褪せた感覚の中、竜の存在だけが濃く、大きい。

瞬きをした瞳で捉え直した敵に、見た目の変化はなかった。

ただ。ここにいる5人は知っている。今、何が起きたのかを。


逆鱗げきりん〉。


本来の意味は目上の人間の怒りを買うことであり、

顎の下で一箇所だけ逆さになっている鱗に触られた竜が、触れた者を食い殺したという故事から生まれた語。

遥か格上の生命である竜が、無礼を働いた人間を食らう引き金(トリガー)のことだ。

設定としてその概念を組み込んだ新世界オンラインにおいて、高位ドラゴン系のモンスターは等しく同名のスキルを有する。

効果は、負傷を引き金にした各種能力値の上昇。

手負いの獣は手強いと言うが、手傷を受け、怒りを糧にした竜はその比ではない。

能力の上昇率は受けたダメージに応じ、追い込まれれば追い込まれる程に力を増す。

万全な時点とライフ5割も削られた後とでは性能が一段違い、

ゲージが2割を切った状態にもなれば、もはや別物の強さを発揮する。

それが〈逆鱗〉のスキルであり、ドラゴンというモンスターの特性。別格の存在として生み出された化物の、化物たる由縁だ。

もう後戻りは出来ない。油断と死が、ここから先では同義語だ。


「グルルルルル・・・」


不意に。

腕を組み、胸を抱くように背を曲げたダイヤモンドドラゴンが翼で身を包むと、全身で浴びる光が集束を始めた。

鮮烈な純白の球体が胸の下部に浮かび、瞬きの間に光量を増大させていく。

その動作に遅れて。

質量さえ感じられるエネルギーの塊が膨張を開始した頃にようやく、僕らの意識は現実に追いついた。

鎧を鳴らして腕を振り、鉄の踵で床を打つ。今度は体勢に不備はない。

残る体力で劣り、纏う装甲で勝るガレフを守備に置き、剣を構えた僕とリティで左右から迫る。

壁際に立つ敵に対して僕等のスタート地点は遠く、初撃を潰すには間に合わない。

それでいい。

接近する僕等の、どちらかにでも照準を絞ってくれれば儲け物だ。

回復を終えずとも、重戦士ならば盾の役割は果たすだろう。

前衛の役目は盾となって後衛への攻撃を防ぐか、剣となって後衛に向く注意を斬るかの2つに1つ。

今の僕らが狙うべきは後者。

一撃目さえ凌げば戦況は変わる。

距離の長さは遠距離攻撃の担い手には味方、僕ら前衛が上手く立ち回れば彼らの逃げる時間も稼げるだろう。

そうすれば、他の4人をこの場から遠ざけることも可能。そこまでいけば勝算はある。


こんな程度の、いや、この仮想世界ゲームのどんな場所でだって死ぬつもりはない。

他人の思惑で決められた世界で、決められた戦場で、強制された戦いで死ぬのは真っ平ごめんだ。

僕はただ、自由に楽しむためにこの世界ゲームを始めたのだから。

ゲームとは、プレイヤーが自身に許された自由の中で製作者に挑むもの。

ならば製作者の代理にして手駒である目の前の竜は、殺してでも生き残る。この思考自体が、あの老人の思惑の内なのだとしても。


「させません!」


「間に合えっ・・・・・!」


その意思が届いたのか、光玉の臨界を前に到達した。

莫大な輝きを抱え込んだ竜に向け、2人、左右を上下に切り替えて斬りかかる。

リティが翼に遮られない頭部へ跳び、僕が光球を目指して突っ込んだ。

突き出した刃の切っ先が光に沈む。




気付けば、真っ白な世界にいた。




体の隅々までを照らし出す閃光の壁。鎧の隙間から入り込み、内部の影までを侵食する白色。

反射で閉じた目蓋の裏、遮った視界までが純白に塗り潰される。

光があり。

音はなく。

塊となった輝きの感触があって。

白に染められた意識が戻った時、瞳の遥か先に天井があった。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


遺跡の床面に背中から叩き付けられる。衝撃が逆に意識を繋いでくれた。

急速に減少した生命力ライフゲージが、脳裏で明滅を繰り返している。


「がはっ!?」


酷い鈍痛が指先まで続いている。

P・F・Sペイン・フィードバック・システムの機能だ。

痙攣する体に反して痛みの再現機構だけが無慈悲に働き、受けたダメージの深刻さを容赦なく教えてくれていた。


「はぁ・・・・・・は・・・・・・痛ぅっ。くそっ、カウンター・・・・・・か!」


気付くべきだった。予想通りならば間に合わないはずの攻撃が間に合いかけた時点で。

溜めに溜めたブレスと見せかけて放つ、ドーム状の放射攻撃。

かつて、たった一度の戦闘経験では見なかった、だが知識としては知っていた技。

ダイヤモンドドラゴン級になると相手の行動パターンを熟知しているかどうかで戦況が変わってくるというのに、考察を怠ってこれ、か。

間抜けを晒してしまった。代償と言うには過大な苦痛が、仮想の肉体を通して意識をさいなんでくる。

鋭くはないが、骨身に重く響く独特の痛苦だ。

くそったれ。






リアルさを追求した新世界オンラインでも倫理や利益の問題から配慮し、結果として妥協せざるを得なかった部分が幾つかある。

例えば出血に類する表現の全規制や、ダメージによってプレイヤー側(キャラクター)に身体的欠損を起こさせない等々。

どれだけコアなユーザーだろうと千切れ飛ぶ自分の手足や、

こびり付く上に生臭くて汚い、わざわざ落とさねばらなない返り血を体感したいという人間はいない。

全てにおいて現実を再現するのはゲーム自体の否定。

リアルさは追求してもリアルと同じにしては意味が無いのがゲームであり、緊張感以上に不快感を生む要素は反って不要。

従って、新世界オンラインには故意に現実味を薄れさせたシステムが複数ある。

その1つが痛みを再現するシステムの具体的内容、厳密にはプレイヤー本人の脳にフィードバックされる痛覚のデータだ。

元よりコアユーザー(マニア)向けの設定と言っても、あらゆる痛みを忠実に再現するのは流石に刺激が強い。

プレイヤー全てが若く健康である保証は皆無であり、廃人ともなれば成人から中年が多数。

電撃や斬撃の感覚など、完全に模倣すればショック死が起きてもおかしくなかった。

その解決のために提案されたモノが2つ。

1つは痛覚の再現率の設定機能。

そしてもう1つが、一定以上のレベルにおける痛みの種類の一本化だった。

生物は、文明の発生に伴って生まれた火や刃物による熱、裂傷の熱感を始めとして普段は感覚しない、慣れていないタイプの痛みにほど弱い。

逆を言えば、慣れた痛みになら相応の耐性を発揮するということでもある。

文明を持たずとも、牙が、爪が、角がなくともあらゆる生物に共通する痛みの感覚。


鈍痛。


殴られる、ぶつかられる。

新世界オンラインのスタッフは、そういった、極論すれば触覚に最も近い原始的な痛みを、

ダメージの量に応じて一定範囲で受けるようシステムを組んだ。

焚き火や冷水程度のレベルならそのままに感じることが出来るが、

ダメージが『火傷』の状態異常になる段階など、設定された域を越えた時点で感じる痛みが変容する。

同様の理由や経緯で、モンスターやプレイヤーを攻撃した時の手応えも押すや叩くに似たものへと改変されていた。

それ等は、新世界オンラインというゲームにおいて崩してはいけない前提である。


だが、あの老人はそれを壊した。


ゲームの死と現実の死を繋いだように、架空と現実の痛みを結び付けた。

元々、現実と変わらない仮想空間を形成し、現実以上の要素を盛り込める現在の技術力なら、

ファンタジー的なモノも合わせてあらゆる痛みを体感させることは、決して不可能ではない。

実際、軍人や消防士の訓練に使われるシステムでは銃創や火傷の痛みまで再現していると聞く。

それはいい。

現実と同じ状況を作るためのシステムなのだから当然だ。

しかし。

あの老人以外、ゲームとしてのリアルさに、誰がそこまでを求めるのか。

痛覚再現率を上限100%で固定され、火炎や電撃の痛みまでを忠実に与えられ、

人や敵を斬る感触が生々しく、プレイ中に死ねば現実でも死んでしまうゲーム。

このゲームに招かれた廃人────内、生産系と商人系を除いた800名────から、

攻略を諦めて他人に生死を委ねた“脱落組”が出たのも自然な話と言える。

僕らはゲームがゲームだからこそ魂を捧げてプレイする。ゲームが現実ではないからゲームと現実を入れ替える。

なら────────ゲームが現実と同じになった時、それでも僕らはゲームを続けられるのか。

恐ろしいデスゲームが開始されたあの日の混乱には、間違いなく同じ疑問があった。

廃人プレイヤーが何百人もいながら遺跡攻略に一月以上もかかっているのには、

今までと変わった痛みや攻撃の感触、死への恐れ等の要素もあるはずだ。

それでも、それ以上に、僕らは最初に戸惑った。

或いは、ゲームの中で死ぬならいい。現実など遥か昔に否定している。そう考える人間もいたはずだ。

そんな人間でさえ、あらゆる感覚が『これは現実だ』と訴えてくるゲームを、果たしてゲームとして受け容れられたのか。

倒されたモンスターが消える点は以前と変わらないために、血飛沫を浴びることは無い。

流石に自分の四肢が千切れ飛ぶようなことも無い。

それでも、中には許容できる量を超えてしまったプレイヤーがいたのだろう。

純粋にゲームを楽しむだけの、『背負う物』の無い彼ら程そうだっのかもしれない。


いずれにせよ。


〈勇気〉スキルというささやかな飴に釣られ、従来のシステム下でプレイしていた時なら、

たとえマゾと言われようとも反論は出来なかった。

事実、程度の差こそあれ廃プレとはそんなものなのだから。

だが不快だ。実に不愉快だ。

今、砕けた骨の刺さるようなこの痛みを与えてくれたトカゲは、一体どんな感触を僕に覚えたのだろうか。







「このっ・・・・・・! ボスでもないノーマルモンスター如きが!」


無茶を承知で丸めた背を伸ばす。激化した痛みが走るが、気にする余裕も猶予も無い。

唐突に影の差した足元から渾身で横に跳ねる。

遅れて鉱石の氷柱つららを生やした尻尾が床を抉り、石の破片を振り撒いた。


「くううぅぅぅぅ!?」


ただの回避、いつもなら何気なく済ませる一動作が信じられないくらいに堪える。

食い込んだ鎖を手足ごと引き千切るようだ。

だが過大な負荷と引き換えに、どうにか追撃だけは受けずに済んだ。


「グルオオゥッ」


その認識が甘かった。地を砕いた竜尾が反動を以て軌道を変える。

獲物に合わせて斜めに走ったダイヤの鞭が、したたかに僕を薙いだ。


「か、は」


幸いと言うべきなのだろう。

強引に進路を曲げた尾は威力を減らし、咄嗟に握り締めていた剣を突き刺すことで相対速度は和らげられた。

防御ついでに一刺し程度は返せたか。

それでも五体は上空に投げ出され、削られたライフは数%。

支援スキルの上からの通常攻撃、加えて曲りなりにも防御に成功していてこのダメージ。

恐ろしい。

一瞬の油断、1つの判断ミスで死が這い寄る。それが数多の化物の最上で翼を広げる、ドラゴンという怪物との戦い。

僕の知るプレイヤー達も、かつて同じ思いをしたのだろうか。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


下から咆哮が襲ってくる。首を曲げ、下ろした視界には開かれた竜の口。

今の僕ならここで終わり、か。1対1の状況としては絶望的だ。

が、悪くない。

現状をかんがみれば、及第点以上には善戦した方だろう。

まだ続いている痛みも多少は和らいだ。リィーリアの支援の賜物だ。

おかげで、客観的に見て危機的な状況にいる割には落ち着いていられる。

やはりパーティープレイはいいものだ。


「・・・ダーストライク・ツイン────────双解放(リリース)ッ!」


こうしてピンチを救ってくれる仲間がいるのは存外に頼もしく、望外に快い。


「ルォォォォォォオ!?」


大口を開けて間抜けな横面を晒したドラゴンが、二条の雷に頬を引っ叩かれて怯んだ。

『麻痺』には到らないが数瞬の硬直を強いられた金剛の巨体の横、片膝をついた双剣士が小さく見える。

風の双剣が切っ先を上空、竜の顔に目掛けて揃えていた。

武器に宿した魔法を待機させておける魔法戦士の中、

二つの武具を持つ魔法双剣士である彼女にのみ許された、左右一つずつ待機させた魔法の同時解放。

支援の雷撃が一時、竜の気を引き寄せる。


「ゴーレムストライク」


共に死線を潜った相手、呼吸を知る仲間との真の連携に言葉は不要なのだろう。

僕からリティへ。竜が視線を動かす間、意識が移るまでの僅かな間隙を、狙い澄ましたタイミングで魔導師の魔法が不意打った。

迷宮の床から突き上げた巨岩の拳。

巨躯を吹き飛ばすだけの威力を持ちつつも味方を巻き込まない魔法攻撃、計算され尽くした豪腕が異種間のアッパーカットを決める。

地属性中位魔法のクリーンヒット。腕のみを露出させた石の巨人が、無防備な竜の顎を打ち抜いた。

上向きのパンチをもらったドラゴンが中途で僕を抜き去り、綺麗な直線の上昇を見せる。


「よっ、と」


翼のない飛翔が頂点に達するのを見届けてから地に降りた。

実際以上に久し振りの重力の手応え、ではなく足応えになる。

次に油断すればこの感覚も失うだろう。戦場の土を踏み締める。


「何とか間に合いましたね」


傍らにリティが立った。

竜による反撃で崩された前線を、先程まで共に担っていた仮の相棒。

戦陣を立て直すため、位置を下げた戦士が見詰めて来る。


「助かったよ。済まない────────いや、ありがとう」


「っ・・・・・・どういたしまして。ライフは?」


パーティー全体のライフを表示するには幾らかの集中が要る。

戦闘の只中でそんな隙を見せる余裕は無く、特に前衛は警戒しつつ口頭での確認をするのが常道。

前衛には話す暇自体が稀ではあるが。


「6割半だ。君は?」


「ぎりぎり7割5分ですね。貴方よりは炸裂の中央から遠かったので」


兜では隠せない顔を覆いたい。

見事に発光の中心に突撃した僕は本物の阿呆だ。いや。彼女の身代わりになったと思えばまだマシか。

通常の剣士装備より軽装の双剣士は、位置が逆だったら甚大な被害を被っていたことに疑いが無い。

追加で1割近く持って行かれていただろう。


「装備にも助けられました」


新世界オンラインの特徴の1つ、装備の組み合わせによる付加特典ボーナススキルの発生。

多くは同一シリーズの防具で身を固めた場合の特典であり、

彼女が揃えたのは、白のスカートが付いた金縁青色の鎧に銀の兜の『戦乙女』シリーズ。

付加スキルは〈大神の加護〉で、効果は防御力場によるライフ・マナ消費なしでの常時保護コーティング

装備の基礎防御力はこちらが勝っているから、それが無ければ彼女のダメージもどうなっていたか。

恐るべきはダイヤモンドドラゴンの攻撃力。

僕やリティとて廃人の端くれ。装備は最高峰、加えて支援スキルによる援護まで受けていた。

特殊攻撃の直撃だったとは言え、その上で2割ものライフを一撃で削るなど、やはり尋常ではない。

ボスドラを除けば、伊達にドラゴン系三指に数えられていないか。

輝ける高硬度の竜身。名剣に勝る爪牙。自在に振れる尾。閃光のブレス。

いずれも並のモンスターとは次元違いの脅威だ。下手なボスモンスターよりも遥かに強い。


ただ。

この場であの竜を難敵たらしめる最大の要素はおそらく────────。


「・・・・・・む」


気流。

双眸を僕へ向けるリティの顔の上、兜から零れた紅の前髪が額を離れた。

移ろい行く気体が髪先を撫でながら纏わり付き、触れる物をざわつかせる。

はためき出す彼女のスカート。気付き、目を見開く間にも勢いを増す風。

稲穂の野に生まれたうねりが迫るようにざわめきが強くなり、その源が近付いて来ていた。

熱の無い大気の指先が肌を刺す。

吹き付ける悪寒が、僕らの顎を跳ね上げた。


「「っ!?」」


上空から真っ直ぐに風が吹いてくる。

大気を巻き込む豪快な羽ばたきが、唸りを上げて気流を生んでいた。

鼓翼こよくの起こす強風が、圧力となって降りかかる。


「────────────────は。そうだよ、それがあった。いや、参ったね、どうにも」


見上げた天には、殆ど影をなさない透明な巨体。

間抜けを悔いたばかりにも拘らず、我ながら今の今まで失念していた。

大多数のドラゴン系モンスターが備える特徴。

ダイヤモンドドラゴンが出現する他のダンジョンでは、内部の地形故に見せ場なく終わる能力を。

そもそもどうやってコイツが現れたのか。何故ウィラードは逃亡を図っても無駄だと言い切ったのか。

左右の壁によって移動を制限される迷宮フロアを自在に移動し、地を這うプレイヤーを容易に補足して追撃を仕掛けられる手段。

ただのトカゲと竜とを、天地に分かつ境界線。


「ええ。これは少々・・・・・・・・・本格的に参りましたね」


遥か上空を映す視界の横、声を震わせた彼女が賛同する。











「グルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッ!!!!」











空を舞う両翼。

視線の先で翼を開いた竜が、高く高い空で咆哮を放った。















先ずは今話の投稿が大幅に遅れましたことに関しまして謝罪を。

楽しみにしていただけている読者の方には、本当に申し訳ありませんでした。

以後、このようなことがないように気を付けます。

次は全体の修正をしてから五話に取りかかる予定です。四話投稿時点で五話の書きためが二割程。

第五話の投稿は本日より30日以内を予定しております。

それでは、ありがとうございました。

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