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呼ばれたから。

作者:

「はく」

ご機嫌な声で呼び掛けてくるその子。


僕の方だけ向いて可愛らしい声で話しかけてくる。


僕は今、とっても幸せ。


胸のほわほわした感覚で表情も綻ぶ。


僕達は今カフェに来ている。室内の温められた空気に包まれる。


やっと落ち着いた空間で2人だけの時間を堪能出来る。




ーーーーーはずなんだ。


ピリリッピリリッ………。


さっきから携帯の通知音が鳴り止まない。


僕は恨めしそうに自分の腰ポケットに入った携帯に目を向けた。


きょとんとした表情でこちらを眺める彼女。


一旦彼女をなだめるように制止し、通知の音量を切りにした。


言っておくが僕の彼女はほわほわしているようで、実は割と冷静。分かるよね?なにこの状況。


僕は心内でえらく客観的な実況を始めた。



電話の主は取引先の会社の人。


仕事の案件はこの前断ったはずなんだけどなぁ。



一人で頭を抱え悩んでいると、その心情が少し外に漏れていたようで………。



「はく?」


彼女が僕の手に、その手を重ね問いかけるように呼び掛けてくる。その手の温もりが愛おしい。


なんて事考えてる暇もなく彼女の不安そうな表情に注意を引かれる。


んふふ。嫉妬してるのかな。


「どうしたの?」


我ながらびっくりするほど惚気の返事をしてしまった。


それが彼女に安心とふらふらしていることでの心配を与えてしまったようだ。


ん”と不満げな表情を浮かべた後、何かを飲み込むように乗り出した体を元に戻した。


何か言いたげに僕から顔を逸らして考え込むから。


「……っ」

ポケットの中で携帯が振動した。音は切ってもバイブで通知出来ないようにはしてなかった。


彼女に手を伸ばしかけたままそこを向いた。


僕が口を開きかけたところで携帯が震えたんだ。



こう流石に何回も鳴るから何かあったのではと心配になってきた。


「ごめんね、ちょっと連絡」


スマホを覗き込むとそこには


ーー今すぐ会社に来て貰えませんか。


というメールが。


呼び出しを食らったので僕は彼女の側から離れなくてはいけなくなった。



まるで散歩をねだる犬のよう。


うるうる見つめる瞳に引っ張られて心が痛い。


後ろ髪を引かれる思いだ。


僕は会社に向かった。



着くとそこにメールの主、小谷さんが居た。


「お久しぶりです」


手短な挨拶を終え、僕は渡された資料に目を通した。


僕が盛大なミスを犯していたようだ。これから取引先に謝って回らなければ。


実は前にも同じようなミスを犯していた事がある。


一緒に謝罪に回る事になっている小谷さんに道中つらつら話しながら、済ませていった。


小谷さんはというと僕が連絡に応答しなかった間、一人でいろいろ確認作業に追われていたようで………。


あはは……。申し訳無い……。


頭に酸素がいっていないような苦しみが僕を襲う。


もう二度としないよう。心内で堅く誓った。




「今日はありがとうございました。」街中もすっかり暗くなった頃に、作業を終えた小谷さんと僕。僕は小谷さんに礼をつげた。


肌寒い……。素直な感想が脳裏に浮かぶ。コートを羽織っていても夜の涼やかさには堪える。


「僕今日は凄い疲れちゃいました。」

自嘲的な笑みを浮かべ、

「帰ってゆっくり休もうと思います。」

と、雑談する。


「そうですか宇佐さん、最近忙しそうでしたもんね。」と小谷さんがねぎらってくれた。


「じゃおやすみなさい。」


僕は家路に着いた。



階段をとんとん金属音を立て、登っていく。


「ただいま」


玄関を開けリビングに薄く明かりの灯った部屋の中、彼女の姿を探す。


光の届いていない暗がりのベッドの上、蹲って横になっている彼女を見つけた。


彼女の体を僕の方に向けた。


「柏人ぉどこいってたの……」責めるように、問いかけるように彼女は言葉を発した。


どこに行くかは言ってあったんだけど……。今はそんなことどうでもいい。


彼女の頬に涙の跡を見た。


泣いたことに気づいたことを悟られないようにそっとぬぐってあげる。


寂しかったんだね………。


僕は口付けを一つ落とした。


至近距離で見つめる彼女の表情が和らいだのが分かった。


愛おしくて胸がきゅっと絞まる。


ごめんね今夜は寝かせてあげられないよ。


僕は帰ってきたまんまの鞄とを脱力したように放り投げた。


明日起きたらちゃんと説明するから、ね。



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