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グランバニア戦記  作者: 葛の葉
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第7話 本当に許せねぇ……

「着いたぜ、皇女様。 ここがローズウッド傭兵団の拠点だ」


赤い煉瓦造りの建物の前に立つ俺達。

傭兵団の事務所は二階にあるんだが真昼間なのに雨戸が閉まってるな…… ルシェーラは留守か?

取り敢えず中に入ろうとガチャガチャとノブを回してみたが入口も鍵が掛かってやがる。


「これ、ヴァンよ。 何やら売約済みと書かれた張り紙が壁に貼られてるおるが…… 一体どうなっておる?」


「な、何だって! どう言う事だよ?」


俺達が依頼に出ている間に事務所を引っ越したのか?

そんな話は今まで一切無かったが…… どうなってやがる。


「ウェルチちゃんじゃない! 良かったわ…… 無事に帰って来たのね。 傭兵団の皆さんが出発した後に事務所は売りに出されるし、ルシェーラさん達は沢山の荷物を馬車に乗せて行ってしまうし…… 私は何があったのか心配してたの」


傭兵団の事務所の隣で猪鹿亭と言う名の定食屋を営んでいるステラ婆さんが俺達に気付いて声を掛けて来たがウェルチは随分と可愛がって貰ってたからな。

ステラ婆さんも孫娘みてぇな少女の無事を知って喜びのあまり涙まで流していた。

それよりも何やら聞き捨てならない事を言ってたぞ。


「ステラさん、ただいま戻りました。 でも私達にも何があったのか分からないんです」


そんなステラ婆さんの手を取りながらウェルチが微笑む。

誰かしら帰りを待ってくれる人がいるってのはいいもんだな。


「ルシェーラさんったらね、何やら傭兵稼業も潮時だとか帝都で儲ける良い機会が来たなんて言ってたのよ。 皆さんが戦いに出たばかりなのに何を言ってるのかと思ったけど、渋るタイトンさんやリーデルさんを急かして沢山の荷物を馬車に積むと慌ただしく行ってしまったわ」


帝都で儲けるだと? 何を考えてるんだルシェーラの奴は…… んっ、沢山の荷物とか言ったな。


「ちょっと退いてろ!」


体当たりで扉を吹き飛ばして建物の中に入ると予想通り何も残ってねぇ。


「ルシェーラの奴め! 本当に許せねぇ……」


予備の武器や防具なんかが保管してあった倉庫が空っぽになってやがるからな。

あの女…… 戦いを前に武器や防具が高く売れると踏んで売っ払いに行きやがったのか!

俺達の命を安売りした後は、我が家みてぇな事務所や商売道具すらも売りに出すとはな。


「暇乞いをする手間が省けたとでも思うしかないのう…… 因果応報と言う言葉がある。 そのような者ならば、いずれそれ相応の報いを受けるであろう」


これには皇女様も呆れ果てたらしい。

本当にルシェーラの奴には心の底から天罰が下って欲しいと願うぜ。


「ヴァンさん、これからどうするのかしら? これを機会に明日をも知れない傭兵稼業からは足を洗ってみたらどう? お仕事も力自慢なら港の荷運びだってあるわ」


荷運び人夫ね…… 命の危険はねぇが退屈そうな毎日が待っていそうだな。


「ウェルチちゃんはウチで看板娘として働いてたら良いわ。 きっと楽しいわよ」


確かにステラ婆さんの言うような選択肢もあるんだよな。

この三人が俺に付き合って茨の道を進む事はねぇんだ。


「ごめんなさい、ステラさん。 私はヴァン隊長と同じ道を歩んで行くと決めたんです。 だからお気持ちだけ嬉しく受け取っておきますね」


熱を帯びた眼差しで俺を見上げながら答えるウェルチ。

その姿を目にしたステラ婆さんも漸く気付いたらしい。

ウェルチの俺に対する思いにな。


「そう…… 決めたなら頑張りなさい、ウェルチちゃん。 私が応援してるわ」


何やらステラ婆さんから無言のプレッシャーを感じる気がしてならないんだが…… 俺を見る目が真剣なんだよ。


「俺だってヴァン隊長達と共に戦えるのなら、どんなに辛い訓練にだって耐える覚悟です」


カーズも決心は変わらねぇようだ。


「そうですよ。 俺達が三人でヴァン隊長を盛り立てて行くんだって決めたんですから」


ダインも同じか…… 俺なんかには本当に勿体無い部下達だぜ。


「妾も良い家臣を持って幸せじゃ。 ステラとやら、この者達の行く末を楽しみにしておるが良いぞ。 必ずや歴史に名を残す者達になるであろう」


皇女様が誇らしげに俺達の未来を語ってやがるが想像もつかねぇよ。


「あらあら、可愛らしい子ねえ。 ふふふっ、良い部下を持って幸せね」


どうやらステラ婆さんは子供の冗談だとでも思っているようだな。

ニコニコして皇女様の頭なんか撫ぜてやがる…… 実は皇女だなんて知ったら腰を抜かしちまうだろうし、それも面倒だから黙っておくとするか。


「酷い戦いだったそうね…… そう言えば少し前にラスティ平原から一人の騎士が落ち延びて来たそうなのよ。 酷い傷を負っているそうで今は病院に運ばれたと聞いたわ。 女性の身で戦場に出るなんて私には出来ない事ね」


女騎士か…… あの戦いで運良く生き残っても捕まったら陵辱されてたろうぜ。

戦場は狂気の場だ。

敵に村が襲われて幼い子供までもが犯されたなんて話すら聞いた事があるからな。

どうやら炭焼き小屋で話に聞いた街道を逃げて行く騎士って言うのが其奴に違いない。


「女性とな! その者の名は何と言う?」


皇女様が話に食いついたぞ。

帝国の女騎士なら皇女様の知ってる奴かも知れねぇか。


「ごめんなさいね、名前まで分からないの。 ルーベンス先生の病院に運ばれたそうよ」


ルーベンス先生の病院なら、ここから遠くはねぇな。

俺達は傭兵稼業なんかしてるから怪我は日常茶飯事さ。

それでウチの傭兵団は良くルーベンス先生の世話になっていたからな。

頑固で気難しいから俺は苦手なんだが…… 仕方ねぇ。


「皇女様、行ってみるかい?」


普段あまり感情を表に出さない皇女様が少し焦っているような気がするな。


「うむ、その場に妾を案内するのじゃ。 十中八九、妾の知っている者であろう」


下唇を噛みながら答えた皇女様が何やら痛々しくてならねぇよ。

最早風前の灯火とも言える帝都を非情にも切り捨てベルーナを目指す決断はしたが、目の前に傷付いた家臣が現れれば見捨てられはしねぇか…… その中途半端な優しさが皇女様の命取りにならなきゃいいんだがな。

まぁ、その時は俺が皇女様を守ってやるしかねぇだろうよ。

楽しんで貰えたら嬉しいです。

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