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グランバニア戦記  作者: 葛の葉
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第6話 世の中って分からねぇもんだろ?

「おっ、ヴァンじゃないか! 激しい戦いだったと聞いたが無事だったのか…… 良かったな」


漸く自由都市マリアナに辿り着いた俺達は入口に立っていた顔見知りの男に声を掛けられる。

そいつの名はリカルドと言い、マリアナで衛士として働く元傭兵だ。

帝国への多額の献金によって自治を認められ、商人達の合議制で成り立つマリアナには騎士団や兵団が存在しないため、町の治安維持を目的とした衛士隊が設立されている。

衛士隊は専守防衛を理念として絶対に他国へは攻め入らない事を宣言している珍しい組織だ。

入隊には学科試験や面接まであるから腕っ節だけじゃ入る事は叶わない。

そんな理由から俺には縁の無い職業でもある。


「ああ、何とかな…… ローズウッド傭兵団でも生き残ったのは俺の隊だけだ。 全く酷い負け戦に参加させられたもんだぜ」


機に聡い商人の町だけあって流石に情報も早いんだな。


「レックスやロイド達は死んだのか…… 腕自慢の優秀な傭兵達だったのにな。 残念だよ」


レックスとロイドは同じ傭兵団で付き合いも長い奴らだったんだが…… 聞いた話によれば混戦の最中に隊の若い奴らが突出し過ぎて囲まれちまったらしい。

それを俺が知ったのは二人が率いていた隊が全滅した後だった。

きっと部下を見捨てられず何とか助けようと無理をしたんだろうぜ。

俺にはその気持ちが良く分かる。


「ああ、そうだな。 俺も傭兵家業は嫌になっちまったから辞める事に決めたぜ」


「お前程の男が傭兵を辞めてどうするんだ?」


「それはだな……」


「妾に仕えるのじゃ。 其方はヴァンの友であろうか? 妾はマリアナを訪れるのは初めてでな、宜しく頼むぞ」


俺が答えるのを遮るように皇女様が答えたもんだからリカルドの奴も何事かと驚いたようだ。


「おい…… ヴァン。 この子は一体何を言っているんだ?」


きっと訳が分からねぇだろうな。

幼女が腰に手を当てて偉そうに頼んで来るとか普通じゃねぇよ。


「信じられんかも知れねぇが…… 皇女様だよ」


「なっ、ヘンリエッタ皇女か! 何で皇女様がマリアナに居るんだ? もうすぐ帝都防衛戦が始まると聞いたんだが……」


目を見開いて皇女様を見るリカルド。

普通ならば平民の俺達が一生会わないような人物だからな。


「其処に居るヴァンに命を救われたからじゃ。 妾が勝ち目の無い帝都防衛戦の旗頭にでも担ぎ上げられた所で既に勝敗の行方は知れておるわ。 ならば妾は己が成すべき事を成すだけじゃ……」


最後は吐き捨てるように呟く皇女様。

負けると分かっていても帝都で戦わなきゃならねぇ者達への贖罪みてぇなものを感じてるんだろうな。

帝都に残った奴らは言わば新しい国の礎になる。

しかも本人達は知らぬ間にな…… それを知ったら皇女様を恨む者は必ず存在する筈だ。

その恨み辛みは半端なもんじゃねぇ。

それら全てを皇女様の小さな身体で背負い切れるもんじゃねぇだろうよ。


「安心しろよ、皇女様。 その荷は俺も一緒に背負ってやるからよ」


「……生意気な事を言うでは無いわ。 じゃが…… 今は何よりも嬉しく思うぞ」


悲喜諸々の複雑な笑みを浮かべた皇女様を囲むように俺達は立つ。

この小さな主君を俺達四人が守ってやらなきゃならねぇと感じなから。


「リカルド、済まねぇが皇女様の事は他言無用で頼むわ。 この町に迷惑を余計な迷惑をかけたくはねぇからな」


出来れば黙っていたかったが皇女様が自ら正体を明かしちまったからな。

俺のリカルドに対する態度を見て言っても大丈夫だと踏んだんだろうけどよ。

子供とは思えねぇ切れ者だからな。


「あ、ああ…… 勿論だ。 それにしても驚いたよ。 まさか皇女様に出会う日が来るとはな」


リカルドの奴め、漸く現実に引き戻されたのかガチガチに緊張してやがる。

俺なんか出会うだけじゃなくて仕える事になったんだからな。


「世の中って分からねぇもんだろ? 俺はつくづくそう思ったぜ」


無言で頷くリカルドに別れを告げた俺達は三頭の馬を預かって貰うと徒歩でローズウッド傭兵団の建物がある町の中心部へと向かう。

ウェルチ達の慣れない乗馬技術で街中を進むのは危ねぇからな。

だが流石に皇女様を歩かせる訳にいかねぇから俺が一緒に乗っていた。

馴染みの町に着いたからだろう、ウェルチ達の表情も幾分か晴れやかに思える。


「おおっ、あれか海か? 限りなく遠くまで見えるではないか。 ……やはり海は広いのだな」


坂の途中で遠くに見えた海を眺めて感嘆の声をあげる皇女様。

どうやら初めて見る海に視線は釘付けみてぇだ。

ウミネコが鳴きトンビがゆっくりと舞う港も見え隠れしていた。

遥か彼方に広がる白い砂浜も海に近いマリアナならでは風景だな。


「後で近くまで行ってみるか? この先ゆっくり見る機会なんて無いかも知れねぇしな」


海に見惚れ無言で頷く皇女様を見ると、やっぱり子供なんだなと思わず頬が緩む。


「あれだけの海水があれば如何程の塩が精製出来るかのう…… 魔水晶も使い蒸留装置を作れば儲けもかなりのものになりそうじゃ」


海を眺めて考えていたのはそれか!

……やっぱり考える事が子供じゃねぇよ。

ちなみに魔水晶って言うのは妖魔や魔獣の体内で生成される魔力を秘めた水晶の事だ。

火や水とかの属性を持つから煮炊きとかの日常生活でも使われる便利な代物で需要も高い。

だから妖魔や魔獣を倒して魔水晶を得て来る冒険者達が重宝されてたりもする。


「帝都には大陸各地から集められた魔水晶が山程あるんだったよな? 各国が血眼になって帝都を占領しようとするのも分かる気がするぜ」


色々な事に使える便利な魔水晶は金になる。

それを手に入れるのは莫大な富を手にしたのと同じだからな。


「過分な富は持たざる者からの妬みしか生まん。 この町でも同じであろう。 それを妾が作る国でも根絶する事は叶わぬかも知れん…… それでも国民が皆幸せに暮らせる豊かな国を目指してみたいと思うのじゃ」


「ああ、俺も見てみたいと思うぞ。 そんな国ならな」


「わ、私もです!」


「俺もです!」


「俺だって!」


我慢出来ずにウェルチ達も話に加わって来やがった。

クスッと笑った皇女様が天を仰ぎ見る。


「ならば…… やるしか無いねぇだろと言うべきかのう」


おいおい、わざわざ俺の口調を真似しなくてもいいだろうが…… 参ったぜ。

まぁ、何にせよ…… 笑顔になれるのは悪くねぇさ。

楽しんで貰えたら嬉しいです。

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