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グランバニア戦記  作者: 葛の葉
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第5話 俺は学ばなくてもいいのか?

暫くして炭焼き小屋に戻って来た三人の話によればベルーナへと続く街道には追っ手の来る様子は無いらしい。

見ていた間に通ったのは主に旅人や行商人が殆どだったそうだ。

だが手傷を負った様子の騎士が一人西へと向かって行くのを見たと言う。

遠目から見た限りでは帝国軍らしいから俺達と同じように逃げて来たんだろうぜ。

其奴が帝都に向かわなかったのは少し気になるがな。

まだベルーナまでは数日かかるだろうし、その道中も油断ならねぇのは分かってるつもりだ。


「この先の宿場町まで行けば何か情報も入るかも知れねぇ。 幸いにも馬もある事だし、今から出れば日が暮れるまでには辿り着く筈だ」


マリアナから各地へと依頼に出る時には何度も通った道だから距離なんかも把握している。

だが逆にマリアナから西には訪れた事は無い。

そもそも西にあるベルーナは城塞都市と呼ばれているだけあって特殊な環境下に置かれているからだ。

人間以外の他種族が住んでいる地域の監視役と言う役目を負っていた。

北にはドワーフ、西にはエルフ、南には獣人の国が存在する。

それをアイゼン・クラウ辺境伯が城塞都市ベルーナに陣取って睨んでいる形だ。

噂じゃ他種族国との戦争も近いなんて噂されていたからな、そりゃあ誰も近寄ろうとはしねぇよ。

依頼があれば俺達みたいな傭兵団も派遣されるがベルーナには辺境伯が手塩に掛けて育て上げた屈強な騎士団や兵団が揃っているからな。


「自由都市マリアナがヴァン達の拠点だと言っておったな。 帝都でも話には聞いていたが自由を冠した都市の由縁たる自由闊達で賑やかな町や港とやらを早く見てみたいものじゃ」


自由都市とは言うが少数の持つ者がいる分、大勢の持たぬ者がいる訳で貧富の差は激しいからな。

貧民街なんかは戦火を逃れて来た難民や浮浪者の巣窟になってやがるから危険な場所だ。


「ああ、俺で良ければ案内するぜ」


まぁ、そんな話を楽しみにしてる皇女様に言うのは止めておくとするか。


「ヴァン隊長、マリアナに着いたらルシェーラ団長の所へ行かねばなりませんね……」


そう口にしたダインをチラッと見れば苦笑いを浮かべてやがる。

出来れば俺も行きたくはねぇよ。


「ヴァン隊長だけでなく、俺達三人も辞めると伝えたら何を言われるか…… 考えただけでも恐ろしいな」


普段は健康的に日焼けした肌が印象的なカーズの顔色も悪い。

ルシェーラの奴は本当に嫌な性格をしてやがるからな。

現に金さえ貰えれば帰還不可能な死地へと部下を笑って送り出すような奴だ。


「あの人に何を言われようと私達はヴァン隊長と行動を共にするって決めたんでしょ? 二人共しっかりしてよ!」


三人の中でも一番肝が座っているのがウェルチかよ。

もしかして男を叱咤して動かすタイプか? そうなると将来的には副官向きかもしれねぇな。


「そのルシェーラとやらはヴァンの所属する傭兵団の団長だと言っておったな。 何をそんなに気にするのだ?」


皇女様が可愛らしく小首を傾げてやがる。


「それだけ嫌な奴だって事だ。 何処にだっているだろうよ」


「うむ、本来ならば部外者の妾が傭兵団内部の事に口出しは出来ぬだろうが、其方達を妾の家臣として迎え入れたいと願っておるのじゃ。 ならば妾が直々に交渉せねばなるまい」


皇女様が直々に会うのかよ。

金持ちと権力には弱い女だからな…… 恐れ慄いて床に這い蹲る場面が目に浮かぶぞ。

それはそれで気分が良いかも知れねぇな。


「まだ近衛騎士になるって承知してねぇ筈なんだがな…… 既に決まってるのかよ?」


「ふっふっふ、既に決まっておるわ。 まぁ、ヴァンには騎士叙勲の儀式が似合いそうもないがのう。 他の三人には従騎士として暫くは基礎から学んで貰う事になるが…… 構わぬか?」


騎士としての礼儀作法から心構えまでって奴か?

……俺はいいのか?


「ええっと…… 俺は学ばなくてもいいのか?」


皇女様が冷めた視線を俺に向けると横に首まで振ってから深い溜め息を吐いた。


「……本気で言うておるのか? どう考えても其方には無理な話であろう。 ならば三人に学ばせヴァンを補佐して貰うしかあるまい」


成る程な…… 納得したくはねぇが納得だ。

チラッとウェルチを見れば不安そうな顔をしてやがるぜ。

従騎士として学ぶって事は俺から離れて別行動になるんだろうからな。


「一体誰から学ぶんだ? そもそも三人とは別々に暮らす事になっちまうのか?」


生死を共にした仲間達だからな。

ウェルチの事もあるが……


「それには適任の者がおるのじゃ。 マグノリアと言う元々は妾の侍女を務めていた者でな、妾の役に立ちたいと言うので惰弱な帝国騎士団では無く屈強なベルーナ騎士団に送り込んでやったのじゃ。 今頃は逞しい女騎士に育っていよう」


何やら誇らしげに語ってはいるが…… 御付きの侍女を精鋭揃いの屈強な騎士団に送り込んだのかよ。

綺麗な花畑から一転して深い密林のジャングルに放り出されたようなもんだろ。

それって随分と血も涙も無ぇ所業じゃねぇのか?

まだ見ぬマグノリアとか言う奴に同情せずにはいられない気がするぜ。

楽しんで貰えたら嬉しいです。

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