華麗
こんにちは!邪祓日常編最新話です。
本編第十六話【悪鬼化】のすぐあとの話となります。
本編ネタバレを含みますので、先に本編を読まれることを推奨します。
それではお話しをどうぞ!
額の汗を拭う。家一つ掃除するのは思ったより大変だ。長年お経を流し続けたラジオカセットレコーダーの電源を抜く、お父さんの遺骨もちゃんと埋葬しなければ。
「埃が凄いですわ、どうやって生活していたんですの?」
「んー……お母さん私より料理下手だからなぁ」
多分私より下手、というか実家でも一人暮らしでもろくな料理を食べた記憶はない。お父さんが生きていた時は、お父さんが作っていた気がするが、味は覚えていない、私ちゃんと食べてたっけ……?
「料理だけじゃないね、生活感が感じられないよ?」
床にこびり付いた赤黒いシミを見て薬蘑さんは顔を顰めた。
この家にある血の跡は、だいたい私だろうが、お母さんが怪我してなかったとは言い難い、あの人なら自暴自棄になっていてもおかしくはない。この家での記憶か……。
私が生まれた時、両親は既に暗かった。私が泣いても、笑ってもずっと真顔の二人、なんとか笑って欲しくて、色々試したのは覚えている。けれど、結局私が両親の笑顔を見ることはなかった。両親の知り合いなんて知らず、周りの同級生は、いとこがとか、親戚の話をしていたのを遠巻きに見ていた。この歳になるまで、私は二人の身の回りを知らなかったのだ。
いつだったか、両親が楽しそうに話しているのを聞いたことがある。内容は覚えていない、ただ、私には見せない笑顔を二人ともしていたのだけは覚えていて、あの時私はいらないんだと思った。二人の邪魔でしかないのだと、学校でも邪険に扱われていたのを知っている、何処にも居場所がないことを知った私は、その日から誰にも近づかなくなった。一人になれる場所を探して、近くの河川敷でぼーっと夕日を眺めていた。だからあの少女と過ごした一年間は少しだけ新鮮だった。極力人と話さないようにしていたのに、様々なことを私に語ってくれたから。
「おねえさま!」
黒子ちゃんが、クローゼットから何やら見つけたらしく、こちらに走ってくる。
彼女の手には、着物が握られていた。白地に足元にかけて青いグラデーション、大きく青いダリアの花が描かれ、雪の結晶が一緒に描かれている、綺麗な着物。
「綺麗な着物ですわ! これおねえさまのお母様が着てたものなんですの?」
「そうなのかも? 私は見たことないけど」
もしかしたら被花本家にいた頃は着物を着ていたのかもしれない、旧家だし、記憶では和風のようだった。
「被花本家……あの人って本家の人なのかな」
被花警部をふと思い出す。和服は似合いそうにないが、母の記憶の裕也さんってのは少し気になった。本家に生まれた男性……。
おっと、今は被花家のことを考えている場合ではない、掃除しなくては。
「この着物、おねえさまに似合いそうですわ!」
「へ?」
黒子ちゃんが着物を差し出す。その無邪気な笑顔があの日の少女と重なった。あぁ、そうか、あの少女は黒子ちゃんだったのか。
「ありがとう、今度着てみるわ」
黒子ちゃんの背に合わせしゃがみ、笑顔を向ける。私は昔から変われただろうか、逃げた先で少しは成長できたろうか……あの暗闇から抜け出せていたならいいな。
黒子ちゃんに、着物は外で干しといてねと頼み、窓を開け放つ。まだまだ、考えることはたくさんある。投げやりだったこの邪祓という仕事で、私は何を得るだろうか。
「ダリアの花言葉って、華麗だったけ」
似合いそう……か、私には少し重い気がする。でも、一回だけでも着てみてもいいかもしれない。
「おいミム、サボるなよ」
「サボってないわよ」
改めて箒とちりとりを取り出す。ここは私の居場所ではなかったが、それでも実家なのだ、両親が大切にしていた家。
「最後くらい綺麗にしてもらいたいわよね」
私が管理するのは流石に無理だから、片付けたら売る事になるだろう。多分更地にする。それならば、綺麗にしておきたい、せめてもの償いだ。
私が育った場所。ここからはもう巣立ってしまっている。戻ってくることはもうない。
読んでくださりありがとうございます。
本編に載せたかった話なのですが、短すぎたのと、キリが悪かったので日常編により投稿となりました。
次はバレンタインということで、未無と秀義のバレンタインエピソードの話を予定してます!
それでは次の話でお会いしましょう!