勘違い
こんにちわー!日常編第二話です。
一話目でも言いましたが、邪祓本編のネタバレを含みます、本編を先に読むことを推奨します。
先に言っておきます、直揮は菅原くんのことです。
それでは本文をどうぞ!
寒い冬のある日のこと。黒子ちゃんに呼ばれた私は、切ったばかりの短い髪をさっと整え、黒い上着を羽織った。少し男性ぽいかな? とは思ったが気にしないことにする。
「おねえさま!」
「久しぶり黒子ちゃん」
高校に入り、学生寮暮しとなった彼女は、邪祓休止中のため、会う機会が減った。それが寂しいのか、たまにこうして呼び出される。内容はその時々で異なるが、大抵はカフェでお茶したり、少し買い物したりと、至って普通の呼び出しだ。
「おねえさま、東西連合は大丈夫ですの?」
「ん? まぁ、大丈夫じゃないかな」
東西連合……。
薬蘑さんの仕事量が思ったより多く、勢いでまとめあげた裕也さんですら、目を丸くしていた、あれから一年では、体制が変わったばかりでまだバタバタとしている。
「わたくしが大人であったら、手伝えますのに……」
しゅんとする黒子ちゃん、こうして見ると、高校生というより、小学生にも見えなくはない。
「黒子ちゃんの心配には及ばないわ、大丈夫よ、裕也さんもしっかりしてるし、所属してる皆さんがフォローしてくれてる、そりゃ今はバタバタしてるかもだけど、慣れないだけよ」
公園のど真ん中、私は背をかがめ黒子ちゃんの頭を撫でた、撫でられたからか嬉しそうにする黒子ちゃんを確認し、手を掴む。
「さて、今日はどこに行きましょうか」
色々危ない格好をしているとは思っていたが、まさかこうなるとは……。私は、目の前で話しあっている男性二人を作り笑いで対応する。
時は戻り数刻前、黒子ちゃんと、学校で使うらしい文房具を買うため、文房具屋巡りをし、欲しいものが買えたので、解散した直後、私は警官二人に話しかけられ、そのまま見慣れた警察署に連行された。
「伊藤未無さん、事務職で二十五歳、女性」
「はい……」
髪が短く、少し丈の長い黒い上着に、黒い手袋、中の服は首元まできっちりと覆われている。まぁ、私の見た目だと不審者だと思われてもおかしくはない、まして黒子ちゃん見た目小学生だし。
「通報では、あなたと思われる男性が、小学生を連れて行ったとあったのですが」
「あの、私女ですし、黒子ちゃんは高校生です」
取ったばかりの運転免許証を見せながら、説明する。こんな事初めてなんだが。
「高校生? 嘘は言ってないですよね?」
「言いませんよ」
「……職場に連絡とか取れますか? きちんとした身分証明をですね……」
私は固まる。身分証明って職場連絡とかどうしようもないぞ、事務職ってあくまでも肩書きだし、東西連合とか怪しいことこの上ない。
どうしようか必死に頭をフル回転させる、この状況を打破する方法……。あ、一人有効な人がいるじゃない。
「あの……被花警視に確認取って頂ければわかります」
「被花警視に?」
「はい、知り合いですので」
どうせ東西連合に確認するなら、連絡は裕也さんだ、だったら今確認してもらった方が早い。
「わかりました、連絡を取りましょう」
警官二人は、裕也さんに連絡し、すぐに彼が取り調べ室に来た、苦笑いで。
「……彼女の身元なら保証しますよ、あと黒子さんが高校生なのは事実です、見た目確かに小学生ですけど」
やれやれと、呆れが言葉に滲み出ていた、そりゃそうだ、私だって呆れたい。
裕也さんのおかげでようやっと開放された私は、警察署内部を歩く。薬蘑さんの時は病院の九階客間を利用していたが、今の代表は裕也さんなので、いつものカフェか、警察署に直接出向き菅原くんに伝言を頼むかの二択のため、ここにも慣れた。
「全く、変なことで捕まりましたね貴女も」
「ほんとですよ、まさか通報されるなんて思ってませんでした」
きっと近所の人は、可愛い女の子が謎の男性に誘拐される! みたいな危機感を持ったのだろう、黒子ちゃんのゴスロリも変わらずだし、あの手の服を着てると狙われやすいのは理解できなくはない。
「ま、これからはお気をつけください、それでも未無さんは黒い服を好んで着てますし、次も助けられるとは限りませんよ」
「肝に銘じておきます」
何か明るめの服を買おうかな、仁菜とかに相談すれば若者ファッションくらいは教えてもらえそう、首元隠せないと今度は傷跡のせいで通報されそうだけれど。
「それじゃ裕也さん、ご迷惑おかけしました」
「今度は変な事で呼び出さないでくださいね」
私はぺこりと頭を下げようとしたが、停止した、裕也さんは構わず仕事に戻っていく。背を向け、離れていく彼を見ながら、私はボソリと呟く。
「裕也さんが普通に笑ったの初めて見た」
気味の悪い笑顔で警視が歩いてくる。
「警視、何かありました?」
「おや、直揮さん、えぇまぁ面白いことがありました」
面白いことですか……俺が恐縮しているのを悟ってか、そんなに怖い顔をしていますか? と聞いてくる、怖いというか不気味です。
「警視でも普通に笑う時あるんですね」
「人間ですからね、面白いことがあれば笑いますよ」
何当たり前のこと言っているんですかそう付け足される、いや、貴方普段張り付いた笑顔しかしてませんけど。
「未無さんが勘違いで捕まりましてね、確かに黒子さんの背は低いですし、格好からして高校生に見えないのはわかりますが、小学生に間違われるとは思っていませんでしたよ」
ククと、また笑い出す。黒子って子は確か、春水のとこの妹だったか、伊藤はいつも黒い服を着ているし、誘拐犯と間違われたわけだな。
「それはなんとも、災難な話で」
その災難な話を笑える警視も警視だと思うが。
ただまぁ、それなりに人当たりは良いが、一定の距離感を常に保つこの人が、唯一全くの考慮をしていないのは伊藤だ、それが良いか悪いかはわからないが、少なくとも警視としては良い事なのだろう、仕事的にも信頼関係は重要だ。
「あまり、伊藤をからかわんでくださいよ、あいつも苦労人なんで」
「からかってはいませんよ?」
どうだか、そんな言葉が喉まで出かけたが、飲み込んだ。こんな態度でも、一応は伊藤のことを気にかけてはいるようだし、二人がこれでいいのなら、俺が口出しすることもない。変な事に巻き込まれるのも御免だ。もう手遅れのような気がするが。
「ほら、仕事しますよ警視」
「わかってますよ」
伊藤と警視が一緒に仕事するようになって二年、何があったのかは想像はつかないが、上手くやっているのならそれでいいのだ。
読んでくださりありがとうございます。
二年経っても裕也さんは裕也さんです。黒子ちゃんも黒子ちゃんです。
未無と菅原くんがなんだか不憫な立場にいる気がします、裕也さんの部下ってやっぱり大変かもしれません。
次回は厄神についてのお話となります
それでは次の話でお会いしましょう!