陽だまり
――チリリリリリリンッ、チリリリリリリンッ
私の頭の上にある目覚まし時計が甲高い音を立てる。
「うーん、あともう少し」
寝返りを打ちながらそんなことを言う私。どうして、朝は起きるのがこんなにもダルいんだろう? 早起きは三文の得ってママは言うけど嘘だって思う……そんな事を考えてると――。
「コーラッもう朝よ、早く起きて」
と口調は怒っているけど優しい声音が私の耳に聞こえる。
声のした方に顔を向けると眩しいくらいの笑顔を浮かべたママが立っていた。
私と同じ綺麗な長髪の黒髪、女性の平均身長より高い背丈、何より誰もが振り返るような美貌の持ち主……お姫様ってこういう人なんだろうなって当時9歳の私はそう思っていた。そう思うほどに綺麗で可愛らしい人だったから。
「おはよう〜」
間の抜けた声が部屋に響き渡る。
「おはよう……もう奏はお寝坊さんなんだから、困ったものね」
そう言いながら私の元まで来るとまだ布団で横になっていた私の頬を撫でる……少しくすぐったい。
私はママ、山岸香那の手をやんわりと振り払って見つめる。
「ママ今日も楽しい一日になるとイイね」
「なに言ってるの? 奏と一緒なんだから私にとってはもう楽しい1日よ……。さぁ早く着替えて降りてきなさい。パパも待ってるわよ」
「うん」
これが幼い頃の私……山岸奏の一日の始まり。朝になればママが優しく起こしてくれる。そんなどこにでもあるような有り触れた朝の始まり。
でも、この時の私はまだ知らない。もうすぐ、こんな日々が訪れる事がなくなることを……。