プロローグ
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「もーなんでなん?え?意味わからんねんけど。結構な自信作やったのに!心哉、なぁこれどうゆうことなん!」
突然にも美少女が目尻に涙を溜めて俺に食って掛かってきた。
あまりにも突然だったので、俺はそれに抵抗することが出来ず、美少女に両肩をがっちりと掴まれ前後に大きく揺さぶられる。ジェットコースターに乗っているかのような感覚になり、少しの吐き気がおれを襲う。
「なぁ、答えてーや!うちのんのどこがあかんかったんか!」
彼女は顔を耳まで真っ赤にしてもっと激しく俺に怒りをぶつけてくる。
激しすぎて彼女も俺も、もう何が起きているのか把握できなくなってきた。ただ無我夢中に、俺に怒鳴り続ける。
その勢いで彼女の髪が頬にあたるのがくすぐったい。
サラッと滑らかに頬を駆け抜け、ピリッ、と電気が走るような心地よさ。その肌触りが、揺さぶられ気持ち悪くなっている今の俺の心をやんわりと慰めてくれる。
ショートカットなのにも関わらず、髪があたっているのだから顔はかなり近い距離にあるはずだ。でもそんなことは気にせず、彼女は俺を理不尽にも揺さぶりつ続ける。
耳が真っ赤に染まっているのも別に顔が近いからではないのだろう。
お互いの吐息がかかり合っているのに気づいているのは俺だけなのか、なんか俺のほうが彼女より、顔が熱くなっているかもしれない。
彼女はそんなことには一切気を向けず、ほんのり涙を流しながら俺に身体をもっと近づける。
その近づけた反動で何か柔らかいものが胸のあたりに当た……らなかった。
本当なら、いやそんなこと言ったら失礼かもしれないが、本当なら少しでも胸が当たる距離に俺たちの身体はあるはず……だが、お世辞でも豊かとはいえない彼女の胸は俺にかすりもしてこなかった。
俺は揺られながらも大きくため息をついた。もう少し大きければなー、顔はすっごいいいのにな。顔だけは。
本当に失礼だが俺は心の中でそう思うのであった。
そんなこんな言っているが、今の状況は俺にとっては何の嬉しいものでもご褒美でもない。どんなに顔が近くにあろうと、胸が当たる距離にいようと(本当なら)、何のトキメキも欲望も湧いてこない。
さっき「胸がもうすこし大きければいいのに」とか考えてたじゃないかと言われれば反論できないが、まぁとにかく興奮もしないし特にラッキーとか思わないってことだ。
一部の人からしたらこれ以上ないご褒美になるんだろうが、俺にはそういうマゾヒズム的感情は存在しない。
確かに今俺に顔を急接近させてきているのは美少女だ。誰が見ようが言おうがやっぱり美少女って感じの美少女である。
けれども彼女にはいろいろと難があるのだ。
俺がこんなどーでもいいことを考えていた時間も彼女は俺に謎の罵声を浴びせ続けていた。
「なんでなんよー!なぁぁぁ、せつめいしてーや!」
先ほどまでよりも大きな声を出し、ぎりぎり収まっていた涙もボロボロと溢れ出した。より一層ジェットコースターの高低差が高まり本気で意識が飛びそうになる。
ヤバイ、本当に気持ち悪くなってきた。これ以上脳を揺さぶらないでくれ。
俺はそう心の中で思いながらいつ終わるのかわからない手動のジェットコースターに振り回されていた。
「お、おい……も、もうやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
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散々、脳みそを物理的な意味でフル回転させられた俺はやっと魔の手から解放された。
首と肩を順にぐるぐると回す。
「なーなんでなんって聞いてるやんか?」
少し落ち着いた彼女は真剣に元祖関西弁で聞いてきた。だが俺は脳を揺さぶられた腹いせに少しからかってやることにした。
「何の話だ?」
「もー!わかってるくせにやめてやほんま!」
彼女の言うとおりだ、俺は彼女が掴み掛ってきた理由も半泣きになっている理由もすべて知っている。それは彼女のノートパソコンに映し出された文字によってのものだということも。
『○○文庫ライトノベル新人賞一次落選のお知らせ』
この文字によって俺はついさっき食べた昼食をリバースしそうになったのだ。この文章には彼女と同じぐらい強い気持ちが(俺の場合は怒りだが)こもっている。
『ライトノベル新人賞』ライトノベル作家になりたい者なら今の時代では必ずと言っていいほど通らなければいけない道。そしてたくさんの作家志望者の心を折る悪魔の金棒。
毎期、大量の作家志望者が『ラノベ作家』という目標に向かって希望を託す。でもその中でも入賞する作品はほんの数作。
そしてこの激戦に勝ち抜いた者こそがラノベ作家となり、自分の作品が一冊の本として世間に売り出されるのだ。
もちろんその仕事だけで生計を立てている人もたくさんいる。だから何も知らないやつや、生半可な気持ちで書いている人間が生き残れる世界ではない。
俺も人のことは言えたものじゃないが、そういう厳しい世界なのだ。
で、そんな過酷な世界に泣くぐらい踏み入りたがっているのが、目の前にいる美少女、『青春小説』だ。
俺はこいつと出会った時から驚かされまくりだ。さっきの急に掴み掛ってきたときもかなり驚いたが。
こいつはこんなに美少女なのにラノベ作家を目指している。それは俺がほぼ原因なのだが……。
この物語は美少女がラノベ作家を目指す、そんな物語であると言っておこう。
「ちょっとー?さっきから話しかけてんねんけど気づいてますかー?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事を」
「いい加減教えて、うちの作品のどこがあかんのか。現ラノベ作家の『昼丘心』先生!」
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