武器商人
最近、剣の切れ味がどうにも鈍くなってきたような気がする。そこでそろそろ買い替え時だろうと思って、俺はギルドのすぐ近くにあった武器商店で剣を選ぶことにした。
俺は店の中に入った。店の中には一人の店員と思しき男がいた。
「いらっしゃいませー……申し訳ありませんお客様、当店では育毛剤は取り扱っておりません」
「はげてねーよ、剃ってるんだよ、これは!」
俺は頭を掌でぴしゃぴしゃたたきながら怒鳴った。
何なんだ、こいつ!はげとみりゃ、誰でも彼でも髪を生やそうとしているもんだと思いやがって。世の中にはスキンヘッドという髪型だってあるというのに。
「剣を探しに来たんだよ」
「どのようなものをご所望で?」
「そうだな、重い剣がほしいな」
「わかりました。少々お待ちください」
しばらくして、店員が一本の剣を持ってきた。しかしその剣の見た目は普通の剣と同じようなもので、少しばかり古びているようにも見えた。
「なんだそりゃ」
「これはですね、ある女性が持ってきた剣でして。その女性の息子である少年は七歳の頃に父親を亡くし、その際にこの剣を受け継ぎました。そして十四歳になるまで母と二人でどうにか暮らしてきたのですが、十四歳になったその年に息子が死に、夫と息子の形見だからぜひ身の回りに置いておきたいと少年の母は思ったのですが、生活が苦しくてそういうわけにもいかなくなったというんですな。その方ときたら売るときには大泣きして――」
「重すぎるわ!ていうか、そういう重さじゃねえよ、俺が言ったのは!物理的な重さ!グラム!わかる?グラムってわかりますか?」
「グラムなんか誰でも知っているに決まっているじゃないですか」
その一言に俺はイラついた。よっぽど目の前の男をぶん殴ってやろうかと思ったぐらいだ。だがそれはかろうじてこらえた。
「今度は頼むぞ。ちゃんとした剣を持ってこいよ」
「わかりました」
店員はまた店の奥へといった。やがて戻ってくると、店員は一本の剣を持っていた。先ほどよりも大きい剣だった。
俺はそれを手に持ってみた。しかし満足のいく重さではなかった。
「もっと重い剣もありますが、そちらを試してみますか?」
「頼む」
店員は店の奥に言って、また剣を持ってきた。
「もっと重いものもありますが」
「頼む」
店員が剣を持ってきた。
「さらに重いものがあります」
「もってこい」
「これよりも重いものを試してみますか?」
「ああ」
「この剣で不足でしたら、これよりもさらに重いものも――」
「一ぺんにもってこいやぁ!」
俺は怒鳴った。
「馬鹿かてめえは!一本一本持ってきてたら時間がかかってしょうがねえだろうが!普通、二三本ぐらいまとめて持ってくるだろうが!もういい、この店で一番重い剣を持ってこい!」
「わかりました」
「変なもの持ってくるんじゃねえぞ」
「はい」
そう言って店員は店の奥へと引っ込んだ。やがて、ぎー、ぎーという音が店の奥から響いてきた。何事かと思っていると店員は台車に一本の巨大な剣を載せて持ってきた。その剣は人間の使うものと呼ぶにはあまりにも大きすぎた。
「なんじゃそりゃ?」
「モンスター用の剣でございます」
「俺はモンスターじゃねえ!」
店員がぽかんとした顔で俺の顔を見つめてきた。
「何だよ、だから俺はモンスターじゃねえぞ」
「お客様は海坊主っていうモンスターじゃないんですか?てっきりそうなのかと思っていたのですが」
もう我慢の限界だった。こんな店には一秒だっていることはできなかった。
「ふざけんじゃねえ!誰がてめえみてえなやつのところで武器なんか買うか!」
俺は店から出て行った。
その夜、店員の男は商売仲間と酒を飲み交わしていた。
「昨日は参ったよ。例の海坊主がうちの店に来て、もう滅茶苦茶でさ。一級品の剣を半分の値段にまで値引きさせられたり、修理費用を無料にさせられたりさ。よっぽど店から出て行ってもらおうかと思ったけどさ、図体はでかくて怖いしさ、何も言えなかったんだよな。お前も気を付けろよ」
そう言って友達は酒を口に含んだ。
「今日そいつ、うちの店にも来たよ」
「まじで!お前も災難だったな」
「いいや、そうでもないさ。あべこべなことばっかり言ってやったら、とうとうしびれを切らして、何もしないで帰っていった」
「まじで!いいなー、俺もそうすりゃよかったよ」
「お前も今度はそうするといいよ」
店員はそういった。