表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある授業風景

作者: 桜乃倖

「はい。それでは生物の授業を始めるぞー。」


私は今日もいつもと変わらぬ教壇に立っていた。


「では、今日は絶滅危惧種についての話だ。」


そう言うと私は、これもまたいつもと変わらぬ使い慣れた教科書のページを捲った。

教科書の処々は破れていたり、走り書きのメモが残っていたり、もはや意味を持たぬドッグイヤーが

残っていたり、一見ボロボロだが思い出深い一品に仕上がっていた。


「はい。十三頁ですね。ここに現在確認されている絶滅危惧種がまとめてあります。

これはほんの一部で、現在絶滅危惧種に指定されている種類は一万六千種とまで言われています。」


私は短くなってしまったチョークを手に取り、黒板へある文字を書いていた。


〖ゴリラ〗


「ゴリラも我々と同じ霊長類ですが、絶滅危惧種とされています。原因としては人間の密猟や

森林開発による生息地の減少が指摘されています。続いては」


私は続けて黒板へ文字を書き加えた。


〖ゾウ〗


「これも有名ですね。象牙などを目当てに密猟が続き減少してしまいました。また移動しながら

生活するゾウ達にとって、人間が設定した国境と言う概念は存在しておらず、今まで生活していた

国では保護対象となっていても、移動先である隣の国では保護対象外なんてこともざらにあります。」


遂にチョークが書けないぐらい短くなってしまってしまった。

私は最後のチョークへ手を伸ばした。

こいつも絶滅危惧種だな。口には出さずに心の中でそう呟いていた。


〖マナヅル〗


「地名じゃないぞ。昔は日本でも普通に確認されていた鶴も狩猟や水田、干潟の減少により数を減らしている。」


私はここで黒板から教室内へと向きを変えた。教室内はいつもと変わらず静まり返っていたが、私は気にせず続けた。


「絶滅危惧種の多くは人間が原因で指定されている種が多いのは確実だ。だけど、人間の手により

保護され、数を増やし、絶滅危惧種指定を解除されるケースも存在している。」


開けっ放しになっていた窓から桜の花びらが数枚ひらひらと舞い込んできた。


「ただし、今も尚この時も絶滅危惧種というのは増えているのもまた現状。」


教室のすぐ傍に変わらず佇んでいる桜は今年も変わらず美しい花を咲かせていた。


「そこで、今日は教科書には載っていないが、近年新たに絶滅危惧種に指定されてしまった種を君たちに教えようと思う。」


私は再び黒板へ向き、その種族の名前を一際目立つように書きしるした。


〖ニンゲン〗


「そう我々。人間です。環境破壊、少子化、戦争。風邪などのウイルス。気がついた時には

手遅れでしたね。今は残り僅かの人数が保護されています。果たして我々が

絶滅危惧種指定解除される日は来るんでしょうかね。」


私は誰も居ない机だけが存在している空間を見渡した。

勿論、返事なんか来るはずもなく、自分自身の声だけが存在していた。


「…では、今日はここまで。続きは明日。」


私は誰もいない教室を後にした。


誰もいない教室に心地よい春風が吹き込んだ。

ガラスが割れ、枠だけになった窓からは桜の花びらが舞い込んでいた。

教室内では桜の花びらだけが、今日も元気に春風と走り回っていた。



またまた時期外れ。

思いつきシリーズ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ