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本編3-11


「あー、笑った。駄目、お腹痛い」


「姫サンが女じゃなければ、一発ぐらい殴ってたわ、オレ」


「暴力は駄目ですよ! 女王陛下が許されても、神とワタシが許しませんっ!」


「へいへい」


「いや待って私も別に許してないからね? あとカイン、私はまだ女王ではないので、外でその呼称で呼ばないように」


 ハッとした顔の後、すぐさましゅん、と項垂れて「はい……」と言ったカインの頭をわしゃわしゃ撫でて、またもノヴァーリスに止められた。

 え、やだよ。年下組を目一杯可愛がりたいよ私は。この子達、生き方が凄惨過ぎるって。私も人のこと言えないけど、何で皆して人生ハードモードなんだよ。


「セシリア様。彼等の意志も確認できたことですし、アレを渡さなくてよろしいのですか?」


「あ、そうだった」


 にこやかに微笑んでパッと私の腕を離したノヴァーリスに言われ、私はそそくさとサクリーナに持ってきて貰ったワゴンに掛けてあった布を取った。

 二段になっているワゴンの下には、成猫ぐらいの大きさのスノウが丸くなって寝ており、その上段には、色とりどりの宝石で装飾が施された魔石のアクセサリーが並んでいる。


「ンだソレ?」


「言葉を尽くすのはもちろん大切だけど、きちんとした目に見える『証』も必要だと思うのよ、私は」


 綺麗に並んだアクセサリーの中から一つを手に取り、シトリンとイエロートパーズで彩られた魔石を、ぽかんとしているグラハムの手を掴んで握らせた。


「これが、私の誠意よ。私から、私の七騎士になってくれる、貴方達への」


「お、ま……! これ、幾らすると思ってンだ!?」


「魔石だけで、間違いなく国宝レベルである、とだけ申しておきます」


「この姫サンは馬鹿なのか? それともお前も馬鹿なのか?」


 何てことないように価値を言い放ったノヴァーリスに対しても呆然とした声で悪態をつき、まるで爆弾でも握っているような表情で私に魔石を――グラハム用に誂えたリング付きブレスレットを押し返して、新種の生物と遭遇したかのように私から距離を取った。何故。


「グラハム貴方、≪識別≫か≪鑑定≫のエクストラスキル持ってないの? 持ってるでしょ?」


「何で断言してンだこえーよ。≪識別≫を持ってるから拒否ってンだわこの馬鹿お姫サマ」


「いや、手を見る限り騎士としての訓練は一応してたみたいだから持ってるかなって。ノヴァーリスも≪識別鑑識≫持ってるし。≪識別≫持ってるなら、この魔石が何を意味するか解るでしょ? 貴方達の命より安いじゃない」


 絶対継承スキル≪スキルカード≫で確認したなんて言えるわけがないので、それっぽい理由を述べて誤魔化しながら、グラハムに突き返されたリング付きブレスレットをぶすくれた顔で一旦ワゴンに戻す。グラハム同様にぽかんとした表情で黙って私達のやり取りを見守っていたアシュラム達にも、それぞれ彼等用に誂えたアクセサリー達を「はい」「はい」と渡して回った。

 アシュラムにはメガネチェーン。メイアンには髪飾り。カインにはタイリング。レイニーにはチョーカー用のペンダントトップを渡せば、アシュラムに思いっきり顔を顰められた。

 何だ。デザインが不服か? メイアンに関しては女装男子前提で作ったから誠に申しわけないとは思っている。


「団長殿の耳にある魔石を見た時は心底驚きましたが、まさか……」


「ええ。こちらもセシリア様より賜った物です。私は元々あの方の傍におりましたので、貴方達より一足先に下賜して頂きました」


 ノヴァーリスの右耳でチャリ、と揺れるイヤリングとイヤーカフを見る度に、いやあ良い仕事したよね王宮の魔石加工師さん。と言う気持ちでいっぱいになる。つまり何って、とても似合っているのだ。


「わ、賄賂は受け取れません……」


 顔面蒼白にしたカインの言葉に、思わず「えっ」と素の声が出た。


「賄賂じゃないんだけど。ただの七騎士就任のお祝い兼お守り」


「お祝い? これが? 馬鹿なんですか貴女。七騎士程度に渡して良い次元を超えてますよ?」


「はあ? 程度って何よ私の元に来てくれる七騎士達を程度呼ばわりしないでくれる?」


「その七騎士の一人ですけどね私も!」


 アシュラムの声で起きたらしいスノウが、鬱陶しそうに何度か耳をピルル、と動かし、大きくあくびをした後、彼の顔面に向かって飛び掛かろうとするも、寸でのところでずっと控えていたサクリーナにキャッチされていた。うちの有能侍女がどんどん有能になっていく。


「え、と……あの、その、トラ……? は、いったい……」


「ああ。この子はスノウ。元は魔石なんだけどね、今は私の魔石獣としてここに居るの。良い子だから、仲良くしてあげてね。大丈夫、噛み付いたりしないから」


「わ~! もふもふ~っ」


「ワ、ワタシ、動物に触れるのは初めてです……っ!」


「がう、がう」


 まるで「よろしく」とでも言うように尻尾を揺らしたスノウの近くに寄るレイニー、カイン、メイアンの年下組の微笑ましさに笑みを零し、見るからに「説明しろ」と言わんばかりの視線を突き付けてきている年上組――グラハムとアシュラムに、アジット山脈での魔石採掘からの流れを大雑把に説明していく。

 物凄く苦いお茶を飲んだかのような顔をして私の話を聞いていたが、グラハムは「オレ早まったかなァ」と天を仰ぎ、アシュラムはメガネを外して蟀谷を揉みながら、「私はもう何を聞いても驚きませんからね……」なんてぼやいていた。

 解せぬ。


 んんっとあからさまな咳払いをして、私は何も聞こえてませんからねと言う(てい)を装い、説明を続けた。


「で、ノヴァーリスには説明不要だったから特に詳しく話さなかったんだけど、このアクセサリーを貴方達に贈ることに関しては、もう国からの許可は取ってあります。それとは別に、万が一の保険で、アクセサリーが破壊された時にだけ発動する≪生命の水回廊≫と、あと貴方達の魔力に馴染むようにちょっと細工した私の魔力も独断で仕込んであるから、身に着けてるだけで属性固有スキルの底上げもできると思う。ただノヴァーリスみたいに最高位の属性固有スキルだと底上げって言うより魔力の補填に回るみたいだから、その辺りは各自の采配ってことで」


「解っちゃいたが規模がなァ、滅茶苦茶なンだよなァ」


「国宝レベル越えてるじゃないですかそれ!」


「団長サン、姫サンって最初っからこうなワケ? なンでアンタそんな平然としてられンの? これオレ等もそのうち慣れる感じ?」


 急に水を向けられたノヴァーリスはほんの少しだけきょと、とした顔をした後、質問の意図が解らないとでも言わんばかりに顔を傾げた。

 待って、今の顔すっごく可愛かった。同世代男子と一緒に会話してるきょとん顔のノヴァーリス最高に可愛い。


「セシリア様はお会いしたばかりの時から、大変素晴らしいお方ですが」


「あ、駄目だわコリャ」


「待ってください諦めないでくださいよ」


 ゲームでのアシュラムのクーデレ設定はどうやらこの世界では裸足で逃亡ているようで、先ほどからずっとツッコミ役に徹している。最初こそゲームの時らしいクーデレっぷりだったが、ノヴァーリスやグラハムと言葉を交わす今の彼は、ゲーム(かつて)を知っているだけに私からするとキャラ崩壊もいいところだ。

 まあ、変に肩肘張ってるより楽しそうだからいっか、と結論付けて、私はすっかり冷めてしまった紅茶を飲みながら、サクリーナに髪を結って貰っているメイアンや、タイリング、チョーカー用のペンダントトップを着けて貰って、嬉しそうにほんのり頬を染めている年下組を和やかな気持ちで見守っていた。

 サクリーナの天職はもちろん侍女だと思っているけど、保母さんとか学校の先生も絶対に似合うと思う。と言うか現在進行形で大変微笑ましい。私に気付いたメイアンが、満面の笑みでぶんぶんと手を振ってきてくれたので、にやけそうな顔を(こら)え私も笑顔で手を振り返す。

 ――ああ早く、この子達の輪の中に、ベルも混ぜてあげたいなあ。

 ベル用に誂えたジョイントリングに視線を移し、この現実世界ではまだ会ったことのない私の騎赤へ、想いを馳せる。


 女王の、そして次代七騎士の戴冠式まで、あと一ヶ月。

 いまだ何も見せてこない≪預言者≫への焦燥を燻らせながら、私は誰にも気づかれないように、ティーカップを持つ指に、力を入れた。



閲覧、ブクマ、評価、誠にありがとうございます。

ツッコミ二人(アシュラムとグラハム)がログインしたので、一気に騒がしくなりました。


ちょっとまた仕事の関係でノロノロ更新に戻るかもしれませんが、引き続き騎赤救済編(と書いて黄騎救済編とも読む)のんびりお付き合い頂けますと幸いです。


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