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本編3-7

改稿版です。


「お姉ちゃん!」


「メイアン!?」


 彼が今のままの勢いでアンヌに飛びつかないよう、転がるように飛び込んできたメイアンの前にすっと腕を伸ばす。

 なんだったらノヴァーリスも後ろから手を伸ばしていたので、メイアンが私にぶつかるまいと咄嗟にブレーキを掛けたタイミングで、ぶらんと親猫に持ち上げられた子猫のように首根っこを掴まれ捕獲されていた。


「お、おねえちゃ、お姉ちゃん! 苦しいの、バイバイしたの? もうチクチクしない? ふわわになった?」


 それでもパタパタと手足を動かし、必死に姉に言い寄るさまのまあ可愛いこと。

 ゲーム本編とはだいぶ印象が異なるのは、見た目だけではなく喋り方も大きいのだろう。メイアン、あなた素の言語設定、けっこう特殊な子だったのね?

 そりゃあ貴族の子息として、親に人前であまり喋るなと言い含められ、たどたどしい喋り方の印象を受けるわけだ。

 一人で謎に納得している私をよそに、アンヌがゆっくりと、しかし確かな足取りでメイアンに近付く様子を見てなにを思ったのか、しきりに動いていた手足が落ち着きを取り戻す。

 これなら飛びつく心配はないとノヴァーリスも判断したのか、メイアンを抑えていた手をパッと放した。


「ありがとう、ノヴァーリス」


「いえ、私はなにも」


「いつから待機してたの?」


「セシリア様が結界を張られてから、先ほどまで泣きそうな顔で控えておりました」


「いやそれずっとじゃないか」


 ノヴァーリスの傍に歩み寄り、アンヌ達に聞こえないぐらいの小声で話しかければ、穏やかな笑みを讃えた騎紫は、なんでもないことのように結界外での様子を伝えてくる。

 居るんだろうなとは思っていたし、≪生命の水回廊≫を発動させたあとに気配も感じたので居るのは確信していたが、まさか最初から居たとは。

 思いのほかアンヌと色々話していたので、その間メイアンはずっと姉の心配をしていたのだろうか。それはちょっと申し訳ないことをした。

 ふわふわの髪をアンヌに撫でられ、泣き笑いの表情を浮かべている小さな子どもは、とうとう耐えきれなくなり大好きな姉に思い切り抱き着く。

 いくらアンヌの方が背が高いとはいえ、彼女は病み上がりだ。当然体力や筋力だって落ちている。

 案の定二人して芝生の上に倒れ込んだ様を見て、私は思わず苦笑いを零す。いつかの夏に見た、ノヴァーリスとスノウのようだ。

 服を芝生まみれにして、それでも二人は楽しそうに笑っていた。なんてことのない、仲の良い姉弟の光景。その温かな光景を見て思うのは、アンヌの命を、そしてメイアンの心を救えたことへの安堵と、拭いようのない焦燥感。


(——ベルを探さなくちゃ)


 私の騎赤。

 彼の悲しい運命を壊さなければ、きっと想像を絶する、常に死と隣り合わせの環境に身を置くことになってしまう、まだたった六歳の、小さな男の子。

 彼が絶望を背負うのがいつなのか、私は知らない。

 今年なのか、来年なのか。それともあと数年の猶予があるのか。

 解っているのは、ベルは十歳の頃に受ける神殿での祝福を受けられていないと言うことだけ。つまり十歳になるより前に、彼の両親は魔物に襲われ、死亡する。

 最近の≪咎モノ≫の発生頻度から見ても、きっとそう遠くない未来であろう。

 まだ次代でしかない私には、正式にこの国の力を動かす権力はない。女王に就任したあとであれば、国の力でベルを探せるのだろうが、それで間に合うのかすら解らない。

 未だに≪預言者≫も≪過去視≫も上手くコントロール出来ない私に、いったい何が出来るんだろう。本当に、私にベルを救うことが出来るの?

 そんな漠然とした不安が、どんどん胸の裡を黒く染めていく。


「……ネガティブ禁止!」


 小声で呟いて、ぱちん、と自分の頬を両手で叩く。

 ネガティブ思考に行くと散々なことになるのは、先の一件で身を持って理解しているつもりだ。

 なんだったら、ノヴァーリスにだって先日有無を言わせない笑みで微笑まれたばかりである。いやほんと、最初に会った時からは考えられないぐらい人間らしくなったよ、君は。

 チラリと件の騎紫に視線を送れば、凪いだ紫の瞳が真っ直ぐに私を見つめ返してくる。


「お伴いたします、どこへなりとも。全ては、セシリア様の御心のままに」


「……まだ、何も言ってないよ?」


「騎赤を、探されるのですよね? 近いうちに他の七騎士にも逢われると思いますので、のちほどトリス宰相閣下に話は通しておきます」


「ノヴァーリスって夢属性だっけ? 私の行動予知とかできたりする?」


 それともなんだ、私が分かりやすいのか。

 確かにアンヌを救うと決めた時、そしてノヴァーリスの手を借りると決めた時、彼には私が持つ七騎士の情報を「≪未来予知≫で視た」と言って共有しているけれど。

 それにしたって、私が次に起こすアクションへの予測が的確すぎるのではなかろうか。


「いいえ。ただ、セシリア様ならそうなさると。私が……思いたいだけなのかもしれません」


 まるで祈りのように呟かれたその言葉が、なぜだろう。私には、懺悔のようにも聞こえた。



閲覧、リアクションありがとうございます。

ちょっと今週末は忙しくてこれ以上更新できるか不明なんですが、ぼちぼち頑張ります。

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