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本編3-1 騎赤救済編


 人々の活気でがやがやといっそ騒がしいまでの街の風景を見て、ふと思う。

 女性向け恋愛シュミレーションゲーム「七騎士と虹色姫」の世界に転生したのだと気付いてから、早九か月が過ぎた。

 前世でコンシューマーゲームのみならず、マンガ、アニメ、ラノベ、ソシャゲと、様々なサブカルチャーの娯楽に手を出していた《私》だが、この世界に転生してから確信したことがある。

 ――私に、知識チートと経済チートは、出来ない。

 そもそもこの世界は18世紀を基盤としているくせに、上下水道もあり衛生の概念もある。

 確かにワクチンなどと言った医療面の充実はまだ改善の余地があるのだろうが、「色んな種類のワクチンがある」と言う知識しかない私に、手を出せる分野でもない。

 そして食事面。前世の知識は確かにある。多種多様の文化を吸収し、独自の進化を遂げた日本食。

 だがしかして、前世の私は企業努力の賜物を存分に活用させて貰っていたので、大豆から醤油や味噌を作るなんて芸当が出来るはずもない。

 魔法が生活に密接するアルカンシエル王国では、勿論「電気」なんて概念はなく、理系が大の苦手だった前世の私の知識の中に、それに関連する知識も当然の様に、ない。

 緑属性の固有スキル《創造創生》と使えば元手無しで大量生産は出来るが、それをやってしまうと元々その業種で仕事をしていた農家や服飾関係の人たちに大ダメージを与える事になってしまうので、経済チートも却下。

 次期女王が市場を荒らして失業者、餓死者が続出とか本末転倒過ぎて笑えないし、そんな事を望んでいる訳でもない。

 自分が自由に使えるお金と言うのなら、私名義の有価証券とエグランディーヌ侯爵領にある金山の一つの所有権を持っているので、言ってしまえばお金にも困っていないのだ。

 これは元々父ジョエルが、いつか嫁ぐセシリアにと残してくれていた物で、流石の叔父夫妻も、成人してからでないと所有権を移す事の出来ない利権関係は、私名義のままにしていたらしい。

 まあ勿論、私がその存在を知ったのはお父様とお母様が屋敷に戻ってからなんだけども。

 性根がどこまでも腐っていた叔父夫妻は、私名義の有価証券の配当金を横領、そして金山から採れる金をそれとなく横流しし、利益を得ていたそうだ。

 その事実が投獄された後になって判明して、より厳しい強制労働の場に移されたと聞いた。

 話が逸れたが、まあそんな訳で、ろくな知識も経験もない私は知識チートも経済チートも出来ないのだが、如何せん頭の可笑しいゴリラステータスがあるので、能力チートなら出来てしまうので、先ほどからじっとこちらを見詰めている視線に、気付かない訳もなく。


「……見られてるよねえ」


「お嬢様? どうかなさいましたか?」


「ん。いや、ちょっと野暮用が出来たから、少し《飛んで》くるね」


「え、お、お嬢様!?」


 私は今日のサクリーナとのお出掛けを、それはそれは楽しみにしていた。

 叔父夫妻がエグランディーヌ家を仕切っていた時は私に自由なんて無かったけれど、お父様とお母様はなんと言うか割と放任主義なのか、私のステータスが他の追随を許さないレベルだからなのか、結構すんなりと外出の許可を出してくれた。

 まあ、そこら辺のごろつきに絡まれた所で、《大煉獄》か《絶対重力磁場》を殺さない程度に加減してお見舞いすれば、一発だ。

 記憶が戻ってから、次期女王の公務やらのしがらみが一切ない外出は初めてだったので、それはもうウキウキでサクリーナと自分の服まで《創造創生》で用意した。コンセプト揃いのデザイン違いの服なので、私からすればお揃いである。

 そんな浮かれに浮かれていた私に突き刺さったのは、ちょっとばかし敵意を感じる視線。

 腕に抱いていたスノウをサクリーナに任せ、スノウに向かって一つ頷く。

 サクリーナの護衛は任せたよ。と言う思いを込めて。


「がうっ」


「よし、流石スノウ。良い子ね。直ぐ戻るから、少しだけ此処で待っててね」


 普段から丁寧に大切にお世話をしてくれるサクリーナの事が、スノウも大好きなのだ。

 元気に一鳴きしたスノウの頭を撫でて、雷属性の《時空間転移》を発動させ、気配があった所まで《飛ぶ》。


 どうせ護衛として後ろをついて来ていたノヴァーリスも直ぐに私の後を追い、対象人物の背後を取るだろうから、私はあえて目の前に姿を現した。

 ふわり、と、黄色い魔力(エーテル)の粒子と共にスカートが舞う。

 大通りから少し外れた路地裏は、少しだけ薄暗くて舗装もされていないので、所々雑草が生えている。そんな場所に優雅に微笑んで突然姿を現した私を見て、その女の子(・・・)は驚いて腰を抜かしていた。


「…………おう……」


 思わず、とても小さな音量で変な声を漏らしてしまった。

 え? あれ? と顔には出さずに脳内に疑問符が飛び回る。


「……ねえノヴァーリス。わたくし、もしかして間違えてしまったのでしょうか?」


「いえ、セシリア様。ずっと御身を睨みつけていたのは、その者で間違い御座いません」


「そう。……そうですか」


 待って。私、こんな美少女に睨まれるような事をした記憶がないんだが?

 怯え切った緑の瞳が、突然降ってきたもう一つの声に驚き、視線を後ろに向けた時には、既に剣の柄に手を掛けたノヴァーリスが立っていた。

 小さな手を胸の前でぎゅっと握って、震えを誤魔化そうとしている姿が何とも痛々しい。

 しかも心なしか顔色が悪い。

 しかし《熱量探知》と《識別鑑識》のエクストラスキルを持つノヴァーリスが断言するのだから、街に出てしばらくした頃からずっと感じていた敵意の視線は、この子からのもので間違いないのだろう。

 どうしたものか、と内心頭を抱える。

 こんな小さな女の子が、私とノヴァーリスをどうこう出来るとはとても思えない。

 例えナイフを持って私に襲い掛かって来たとしても、後ろからノヴァーリスに手刀落とされて気絶する方が早いだろう。

 それを目の前の少女も解っているのか、震えを精一杯抑え込んだまま、緑の瞳で私の事を見上げていた。

 それにしたって、なんだろうこの既視感。

 ミルクティー色のふわふわした髪に、緑の瞳。

 少し吊り目勝ちの目元から、気の強そうな印象を与える女の子を、どこかで見たことがある様な気がするのだが、叔父夫妻のせいで全くと言って良い程社交界に顔を出していなかった私に、同性の友達が居る訳もなく、思わずじっと少女の顔を見詰める。


「お、恐れながら、申し上げます……!」


「……発言を許可しましょう」


 しかし彼女は私が侯爵家の娘だと知ってるようで、マナー通り発言の許可を求めてきた。

 きちんとした身なりから伺うに、侯爵位より下の階級の、教育を受けた貴族の娘さんであるらしい。

 ますます持って身に覚えがなさ過ぎて、脳内を疑問符が占める。


「あ、貴女様の弟御よりも、わたくしの弟の方が、ずっと、ずっと優秀な緑騎になりますわ……!」


「っ!!」


 思い出した! 思い出した!!

 ゲーム本編で女装してる緑騎、メイアン・クレールの見た目を幼くしたら、丁度こんな感じになる!



新章開幕です。

そしてようやく、ようやく!

ノヴァーリス以外の七騎士も登場します。

相変わらずののんびりペースですが、ゆるりとお付き合い頂けますと幸いです。

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