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閑話 七騎士の証



 赤いベルベッド地の上に並べられた魔石達を順番に見ていき、にんまりと歪みそうになる口元を抑える為に、もごもご唇を動かしながら両手で頬を抑える。

 歪む。顔が、歪む。

 次期女王としてあるまじき顔をしそうな自分と必死に戦い、それでも、並んだ魔石達を見るとどうしても(まなじり)が下がってしまう。

 遡る事、半年前。

 春の優しい日差しの中駆け回ったアジット山脈で採取してきたあの魔石を七騎士用に加工して貰った物が、今、私の目の前にある。

 大まかなリクエストを王宮の加工師に伝えて、デザインラフのやり取りをする事、数回。やっとだ。やっと完成した。

 ちなみに、私のティアラに関しては「あ、お任せします」的な返答だったので、大分困惑させてしまったのは、完全なる余談である。

 七騎士用の魔石とは別に、恭しく鎮座しているベルベッド地の上に置かれているのは、勿論私用のティアラだ。

 薔薇をモチーフに作られたそれは細やかな加工に舌を巻く一品になっていたが、ティアラの中央、ちょうど額の真上に来るであろう場所に、雫型にカットされたヴァイオレットサファイアが揺れていたせいで、一度膝をついた。

 七騎士用の魔石の中でも、特にノヴァーリスの物に細かく注文を出したので推しがバレたのだろうか。

 あからさまな事をしてくれた加工師さんに金一封を渡せば良いのか本気で悩みつつ、歪みそうになる顔をなんとか軌道修正させて先ずはノヴァーリス用の魔石……で、作られたアクセサリーを手に取る。


「……よし、やりますか」


 私がノヴァーリスにと選んだのは、イヤリングだ。そう、雫型のオパールがついた、イヤリング。

 細いチェーンで繋がれたイヤリングとイヤーカフが一体化している形だが、控えめに存在を主張するヴァイオレットサファイアを紫の薔薇に見える様に配置し、その下に小指の爪ぐらいの大きさのオパールが揺れている。

 元々、ゲームである「七騎士と虹色姫」に登場する人物は、全員薔薇の名前が付けられていたので、このモチーフだけは絶対に外せないと思っていた。

 セシリア、ノヴァーリス、サクリーナやアーキデュークも、それぞれ薔薇の名前だ。

 なので、七騎士全員に薔薇のモチーフを入れているのだが、私のティアラも薔薇モチーフなせいで、「私の七騎士ですよ」と言う主張が凄い。いや、ティアラに関しては不可抗力なので、お願いだから許して欲しい。


「……うん」


 誰も居ない部屋で、一人頷く。

 そう、不可抗力だ。何故かノヴァーリスのイヤリングと私のティアラが対みたいになっちゃってるのは、完全な不可抗力。

 そう思わないと熱を持ち過ぎた頬から憤死しそうなので、頭を左右に振って邪念を追い払う。

 息を深く吐いて、吸って、水属性の《生命の水回廊》を発動させ、絶対継承スキルの《調和》で加工された魔石に、最大限の《生命の水回廊》を仕込む。

 このアクセサリーが破壊された時にだけ発動する、一回限りの保険。

 タイサンに七騎士用のアクセサリーを作ってくれと頼んだ時から、この術式を仕込む事は決めていた。

 魔石に仕込んだ私の魔力が、それぞれの七騎士のブースターとなるように《調和》を。そして、鉱石としてもかなりハイランクであり、ちょっとやそっとの事では壊れない硬度を誇るこの魔石が破壊される状況……つまり、持ち主がかなりの大怪我を負ったと仮定しての《生命の水回廊》を。

 小さな魔石に仕込むのは、中々骨が折れる精密な魔力コントロールを要求される。

 つ、と頬に伝う汗をそのままに、私は目の前にある小さな「セシリアの七騎士である証」に、今の私に出来る最大限の術式を込めていく。

 青い光が魔石の中に吸い込まれたのを確認して、私はソファの上にぐったりと寝そべった。


「つ、疲れた」


 魔力をそれなりに持って行かれたのは勿論だが、何より神経がとてもすり減った。

 下手に魔力を込め過ぎると、小さな魔石が砕け散ってしまう。しかし中途半端な術式だと、七騎士のいざという時の保険にならない。

 この絶妙なラインの綱引きにかなり神経を持って行かれる。


「うー……」


 サクリーナの紅茶が飲みたい。

 集中したいから一人にして欲しいと宣ったのは自分自身なのに、そんな事を疲弊しきった思考の端で考えながら、仲良くしていたソファからむくりと起き上がって、今しがた術式を仕込んだばかりのノヴァーリスのイヤリングを手に取り、上下左右から異常がないか確かめる。

 生憎私には《鑑定》や《識別》と言ったスキルはないのだが、自分の魔力が十二分に馴染んだ魔石に変な所があれば、流石に解る……と、思いたい。


「よし、大丈夫そうだね」


 見た感じ、術式が未完成、なんて一番笑えない状態にはなっていないようなので、一つ頷いて赤いベルベッド地の上にイヤリングを戻す。

 残り6つのアクセサリーにも同様に術式を仕込みたいのだが、如何せん一度にまとめては出来ないので、そっと上から絹の布を掛ける。


「一日1個が限界」


 ごめんね、必ず全部に術式は仕込むから。

 誰に言う訳でもなくそう呟いて、私は一週間掛けて、残り全ての魔石に、ノヴァーリスの物に仕込んだものと同等の術式を仕込んでいった。




前話までの閲覧、評価、ブクマ誠にありがとうございます。


ノヴァーリスのイヤリングの他には、髪飾り、リング付きブレスレット、チョーカー用のペンダントトップ、タイリング、ジョイントリング(アーマーリング)、メガネチェーンがあります。


次の話から新章に入ります。

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