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本編2-10

本日2本目の投稿です。未読の方はご注意ください。



「せ、しりあ……様……?」


「っし、出来た!」


 ぶち抜かれた鉄製の扉を前に掌をぐっぱーと何回か動かし、トラの仮面の下でしたり顔を披露する。

 スノウのエクストラスキル《身体強化》からの、絶対継承スキル《調和》のコンボ。

 あと鉄属性の最上位固有スキル《絶対重力磁場》で瞬間的に私の拳の重力場を弄り、威力を何十倍にも増大させた。

 《身体強化》のお陰で、身体に負荷を掛けずに済んだのは僥倖だ。

 多少は発散出来たフラストレーションに、ほんの少し、肩の力を抜く。

 ノヴァーリスから物凄く引き攣った声が聞こえたのは、全力で気のせいだと思う事にした。


「行きましょう、ノヴァーリス、スノウ」


「がうっ」


「は、い……」


 《物質量操作》でスノウを子トラサイズにして、塔の中に足を踏み入れる。

 ざあざあと白い線を引く水滴のせいなのか、塔の内部はやたらと湿っぽくて、(カビ)の臭いがした。

 蝋燭一本にすら火が灯っていない暗い階段を、一歩ずつ進んで行く。

 かつん、かつん。暗闇に音が響いて、不気味に反響する。

 塔は外から見た限り三階建て程度の大きさで、一階部分はワンフロア吹き抜けになっており、何もなかった。

 そうなれば、居住スペースは二階か三階。

 出入口を封鎖していたからか、塔内部の施錠は緩い。

 二階部分に足を踏み入れ、ノヴァーリスが《熱量感知》を行う。攻撃特化の私はこういう時本当に役に立たなくて申し訳ないと思うが、私も氷属性の適性はあるんだから、《熱量感知》を覚えようとしたら、ノヴァーリスに全力で止められたので、今も大人しく攻撃特化型女王様(次期)を貫いている。

 ……話が逸れた。


「どうですか?」


「二階部分に魔力熱量は感じません」


「そうなると……」


「はい。三階に微弱な魔力反応2。やや弱い反応1確認。……時間が、ないかもしれません」


「……いえ。ありがとうございます、ノヴァーリス。微かでも時間が残されているのなら、それで充分――後は、私がなんとかしてみせます」


 まだ、生きてさえいるのなら、何とか出来る。してみせる。

 例え恨まれようと、罵られようと、絶対に。


 ぐっと握りしめた拳に、暖かな掌がかぶさった。

 ノヴァーリスの手だ。


「僕も、一緒です。最後まで」


「ノヴァーリス」


「例え世界中の誰が貴女様を罵ろうと、蔑もうと、恨もうと、僕とスノウは、最後までセシリア・メヌエット・エグランディーヌ様の、味方です」


「……ええ、ありがとう」


 ——【女王陛下(セシリア)】の、心優しい騎紫(きし)様。

 ノヴァーリスの蕩けるような微笑に、じくじくと痛む心に蓋をして、私はただ、前を向いた。



 三階部分に足を踏み入れ、そう多くない扉の中から、ノヴァーリスが探知した場所に一番近い場所にある扉を開ける。

 そうして目に飛び込んで来た《預言者》が見せた通りの光景に、思わず、下唇を噛み締めた。

 粗末な寝台に横たわる、二人の大人。

 もう起き上がり目を開ける元気もないのか、土気色の顔のまま、大量の汗をかき、ぐったりと横たわっている。

 そして《預言者》と違うのは、先ほどの轟音を聞き警戒しているのであろう、敵意をぎらつかせた一対の緑が、横たわる両親の前で両手を広げて立ちふさがり、闖入者(ちんにゅうしゃ)である私たちを見据えている事。


 私は胸の前に手をあて、その場で跪いて(こうべ)を垂れる。

 後ろでノヴァーリスが息を呑む気配がしたが、彼も直ぐ、私に倣って膝を折った。


「セシリア・メヌエット・エグランディーヌ様より拝命賜り、ジョエル・メヌエット・エグランディーヌ様、並びにその奥方オリアナ様、ご子息アーキデューク様のお迎えに上がりました」


「セシリア……? ねえ、様……?」


「……はい。貴方様の、お姉様からの命でございます」


 ひどくか細い、その擦れた声に、心の柔らかい部分が削られていく。

 今生においての、セシリアの、私の、可愛い弟。たった二歳だった貴方の笑った顔しか私は覚えていないけれど、その疲弊しきった姿に、どうしたって心が痛む。

 本当は、今すぐ駆け寄って、抱き締めてやりたい。

 抱き締めて、大変だったね、よく頑張ったねと言って、頭を撫でてあげたい。

でも、この子に比べれば遙かに安全な場所で、一切を忘れて生きていた私に、その資格は、ない。

 敵意を失った一対の緑から、ぼろぼろと雫が零れ落ちた。

 嗚咽を漏らしながらその場で膝をついた12歳の子供を抱きしめる腕を、資格を持っていない自分が歯がゆくて、情けなくて、必死に涙が零れ落ちそうになるのを堪える為に、強く、きつく、下唇を噛み締める。


「ねえ、さま……! 姉様っ でも、でも、父様も、母様も、もうっ……!」


 ――大丈夫だよ、アーキデューク。絶対に姉様が、何とかしてみせるから。

 その言葉を呑み込んで、私は徐に立ち上がった。


「両閣下の御身に触れる無礼、どうぞご容赦くださいませ」


 だって私は、間に合った。瀬戸際だろうと何だろうと、まだ二人は生きてる。息を、している。

 なら私は、全力を出して、二人を救う。それがせめてもの贖罪になると、信じて。


 細く、長く息を吐き、二人の手を取って、目を瞑る。

 私が持つ水属性の最上位固有スキル《生命の水回廊》は、どんな怪我、欠損、病気も治癒する、全ての属性において最強の治癒魔法。唯一の条件は、《生命の水回廊》を施される者が、生きている事。

 そして当然のように、瀕死の人間をも生き返らせるだけあって、魔力の消費量が半端じゃない。


「っ……!」


 しかし今の私にとって、魔力の消費量なんて二の次だ。だから王都から此処までの移動だって、ずっとスノウに任せてきた。

 掌に、ぽうっと温かな熱が燈る。

 さざ波の様に青い光の粒子を散らし、私の魔力がゆっくりと横たわる二人に馴染んでいく。

 ぐんぐん魔力が吸われる感覚はあっても、アシット山脈の魔石程ではない。

 両親の治癒が終わったら、アーキデュークにも《生命の水回廊》を施さないと。あの子だって大分弱ってる。


 そんな事を考えながら《生命の水回廊》を発動させていた私は気付いていなかった。

 さざ波の様に揺れる魔力の波が、頭をすっぽり覆っていた闇色の外套をはためかせ、私の金色の髪が顔を覗かせていた事を。

 そんな私の金色の髪を、同じ金色の髪を持つ小さな男の子が、じっと見つめていた事に。




後2~3話でセシリア過去贖罪編終了です。

次にベル(騎赤(きせき))編か真犯人編に行きます。

早くベルとベルの話に関わる七騎士の何人かを出したい……。


セシリア弟のアーキデュークくんは瞳が緑なので、緑属性の子です。ずっと幽閉されてたので、固有スキルのランクは低め。

そしてセシリアもノヴァーリスも、自身が保有している属性固有スキルのランクが幻夢の塔に掛かっている夢属性のスキルランクより上なので、この二人に幻覚は効きません。

わあい、チート。

ちなみに水属性は下から三番目のランク辺りで、回復か攻撃に分かれます。

例えばSS(セシリアとノヴァーリス、他の七騎士は此処)、S、A、B、C、D、E、Fとランク付けされてるなら、Dの辺りですね。

AとBの間には中々越えられない壁がある。

ただセシリアの場合SSSに近いSS+みたいなモンなので、本当にただのチートです。

ゲームの場合主人公(エレーヌ)は元々無属性だったので、最初は全部の属性がFから始まって、ゲーム内のステータスは引き継げる方式でした。で、真相ルート含め計7回程ステータスを引き継いで世界を救ってるセシリア(前世)は、まあこの世界からすると、ただの化け物ですね。

以上、蛇足でした。

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