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それは、非公式な対面だった。
次期女王としてほぼ内定している私ことセシリア・エヌメット・エグランディーヌには、七人の専属護衛が付く。それが七騎士だ。
しかしそれは正式に女王に就任してからの話であり、今現在、女王の名を冠していない私に、七人もの護衛を付ける訳にはいかない。
そこで、私の生家であるエグランディーヌ侯爵家にて、非公式な対面が行われた。
現女王が退位すると共に、現在七騎士の名を冠している七人も退任となる。
私という候補が居る以上、つまり次期七騎士も、きちんと候補が決まっている訳で。
その筆頭が、ノヴァーリス・センティッド。
紫——氷の力を司る、終わりの騎士である。
七騎士は歴代、始まりの赤——炎の力を司る騎赤か、終わりの紫——氷の力を司る騎紫が団長を務める習わしがあり、今代の団長は騎赤が務めている。
そして次期団長候補が、ノヴァーリス……なのだと言いたい所だけど、私の代の騎赤候補が見つかっていない為の暫定候補だろう。
まあ、セシリアが正式に女王に就任しても、恐らく向こう5年ほどは騎赤の座は空席のままだ。
今までの代にも七騎士が空席だった例はいくらでもあって、例えば、亡くなったりだとか、見合う力の者が生まれていないとか、様々。
だからこそ、女王は全属性である必要がある。七騎士は女王の護衛。そして結界の補佐役。抜けた部分は女王自らが補うので、国一番の魔力がないと務まらないと言うのが正直なところだろう。
つまり、ノヴァーリスは次期団長としてほぼ内定しているので、次期女王としてほぼ内定している私との対面が行われた。
そこでうっかり前世の記憶がフラッシュバックして、あの電波発言である。
誠に申し訳ない。
三日間魘されていた私の元に、なんとノヴァーリスは毎日お見舞いの品を送ってくれていたらしい。
きちんと花瓶に生けられたサンダーソニアが、開けられた窓から入ってきた風と一緒に、ふわりと踊る。
鈴蘭にも似た形の、ころりと丸いランプシェードのような花が、ふわふわ揺れている様を眺めながら、侍女のサクリーナに用意して貰った、白地に、少しばかりの銀を散らした様な色の便せんに、ノヴァーリスの瞳と同じ紫色のインクで、丁寧に礼を綴っていく。それから、謝罪も。
転移ではなく転生で良かったと痛感するのは、こんな時だった。
見舞いのサンダーソニアに添えられたノヴァーリスからの手紙は、当然のように日本語ではない。
出される食事も、当然のように前世の私が食べていた内容の物ではない。
今まで十五年、それを当然として享受してきたお陰で、《私》というバグのような自我が目覚めても、比較的すんなり受け入れられた。
これが転生ではなく転移だったなら、私は間違いなく彼を救う物語を始める前に詰んでいただろう。
それ程までに、言語や食文化の壁と言うのは、想像以上に厚く、高い。……話が逸れた。
便せんの終わりに自身の名を書き入れ、インクが乾いたのを確認してから封筒に仕舞い、封蝋を垂らす。エグランディーヌ侯爵家の紋が入ったシーリングスタンプをぎゅっと押し付けて、チリンとベルを鳴らした。
「お呼びですか? お嬢様」
「これを、センティッド卿にお願い出来ますか?」
「畏まりました」
コンコンコン。扉がノックされ返事を返すと、控え間に居たサクリーナが上品な仕草で足を捌き、私の元へやって来た。トレーに乗せていた手紙を恭しく受け取り、頭を下げる。
まるでお手本のような所作は流石の一言だが、目が醒めてからずっと気になっている事が一点。
私には何故か、彼女の所持しているスキルが、見えるのである。