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本編1-15



 ガタガタと音を立て、四頭立ての馬車が街道を走る。

 一頭立ての馬車だと半日掛かる道のりを、こうして2時間で踏破出来るのは、次期女王の特権だなあ、とぼんやり外を眺めながら思う。

 向かいの席では、ノヴァーリスが穏やかな寝息を立てていた。


 結局予定していた日程より大幅に長い滞在になってしまった事をリーヴァ村の人に詫び、丸まる三日も一部屋占拠してしまった迷惑料として、集めに集めた魔石の一部を置いてきた。倒した魔物から採取した、そこそこな大きさの物を、数個だけど。

 それでも財収の殆どを魔石に頼っているリーヴァ村としては、されど数個、だ。

 村人では倒せないであろう魔物の魔石は、結構な価値がある。加工して魔除けの魔石にする事だって出来るし、街に出て売っても良い。

 恐縮されっぱなしだったけれど、迷惑を掛けたのはこちらだし、今後もこのアジット山脈の魔石を定期的に採取させてもらうかもしれない身としては、関係を崩したくないので安い物だ。


 そんな、悲しい事に打算まみれなお礼を済ませ、馬車に乗り込む。

 行き同様、魔鉄道を降りた街——リブートで借りた馬車だ。わざわざ往復させてしまうのは申し訳ないが、まあ、御者の彼もこれが仕事なので、そこにどうこう言うつもりはない。


「が~う」


「あら、お(ねむ)? スノウ」


「がう……」


「クッションか何かを用意すべきでしたね」


「まあ、イレギュラーだったし、それは次回からと言う事で……ほらスノウ。ノヴァーリスが膝を貸してくれるって。眠って良いわよ」


「がうっ!」


「えっ!?」


 馬車の中で大あくびをしたスノウが、ゆらゆらと尻尾を揺らしながらノヴァーリスの膝に飛び乗る。

 まだ成ネコぐらいの大きさしかないスノウは、すっぽりと膝の上に収まった。

 くるん、と身体を丸め、ノヴァーリスの膝の上で寝息を立て始めたスノウとは真逆に、膝に乗られたノヴァーリスは終始慌てている。あわあわと手を下げたり上げたりする様を見ているのは、ちょっと面白かった。


「せ、セシリア様っ!」


「しー。スノウが起きちゃうから。これで動けないね? 私の世話をさせちゃってたから、どうせ碌に休めてないんでしょう? 何かあればちゃんと起こすから、休んでて」


「しかし……」


「大丈夫。スノウも多分、殺気みたいなのには反応してくれる筈だし」


「でも、僕は護衛で」


「護衛ならなおさら。寝不足だと咄嗟の判断力も、瞬発力も落ちる。それで万が一、いや、ないとは思うけど、本当に万が一ノヴァーリスが怪我でもしたら、私、泣くからね」


「……泣く、ん、ですか? セシリア様が……僕の為に……?」


 ちょっと見てみたいかもしれない。と言わんばかりの表情を浮かべるノヴァーリスをギロリと睨みつける。ここ数日で、彼の表情の変化がだいぶ解るようになってきた。


「ちょっと見てみたい、とか思った?」


「……いえ、決してそのような事は」


「ふーん……?」


 それにしては、間があったような気がするんだけど。

 私からの(いぶか)し気な視線に耐えかねたのか、ノヴァーリスが視線を膝上に居るスノウへと落とす。

 すぴすぴと寝息を立てる愛らしい魔石の獣は、もうそこを寝床と認定したらしい。

 恐る恐ると言った手つきで柔らかな毛並みを、ノヴァーリスの私より大きな手が、ゆっくりと撫でた。

 お互いが無言のまま、車輪が回るガタガタと言う音と、スノウの寝息だけが聞こえてきたが、決して不快ではなかった。心地の良い静寂だ。

 そのまましばらく窓の外に流れる景色をぼんやりと見ていると、静かな静寂の中に、微かな寝息が加わった。


「……お疲れ様、ノヴァーリス」


 スノウの身体に手を添えたまま、ノヴァーリスが小さな寝息を立てている。

 よほど疲れていたのか、それとも、私に気を許してくれたのかは分からない。それでも、ようやく私の前で気を抜いてくれたノヴァーリスが愛しくて、暫く穏やかな寝息を立てる一人と一匹をじっと見つめていた。


「さて、と」


 どれぐらいそうしていたのか自分でも分からないが、暫くじーっと幸せな光景を目に焼き付けた私は、一つ確認しようと思っていた事を実行に移す。


「そのまま眠っててねー」


 じっとスノウを見つめ、絶対継承スキルの《スキルカード》を発動する。

 最初は制御の仕方が解らず常に発動状態だったが、四六時中他人のスキルが見えるのは流石に煩わしい。どうにかならない物かと思ったら、そう思った瞬間消えた。

 思わず「はあ?」と言ってしまったのは、私だけの秘密だ。



  個体名:スノウ

  性別:なし

  職業:セシリアの守護魔石獣

  属性:主人(セシリア)に依存  属性固有スキル:主人(セシリア)に依存

  エクストラクラス:風  エクストラクラスステータス:風神

  エクストラボックス:威嚇、身体強化、鎌鼬、魔力感知、浄化の咆哮、魔力蓄積



「……え、なにこの子、世界でも滅ぼすの?」


 パチリと目を瞬いて、思わずそう呟いた。

 属性と固有スキルが「主人に依存」な時点で、セシリア()の八属性持ちという事になる。それにプラスして、エクストラクラスの「風」。つまりスノウは、言ってしまえば風属性なのだろう。

 全属性を含めた八属性に、もう一属性追加の九属性。間違いなくセシリア()より強い。


「エクストラクラスって、そんなん私でも持ってないのに……」


 ああでも、ゲームでは居たな、エクストラクラス持ち。風属性ではなかったけど。

 ちらっと見たノヴァーリスのステータスにもあった。本人が秘密にしたがってるみたいだったから何も言及しなかったけど。


 私の周りはチートしか居ないのか。

 真面目に私とノヴァーリスとスノウがこの世界を滅ぼそうと思えば、呆気なく滅びそうで少し恐怖を覚える。

 いや、いやいや。まあ私はチキンのビビりだから、そんな事しないけどね。

 でも万が一私が大怪我でもしようものなら、この二人が怒り狂って大変な事になりそうだ。流石に今までのアレコレで、私にだってそれぐらいの自覚は、ある。


「……気をつけよう。冗談抜きで世界が滅ぶ」


 世界を滅ぼさない為に、まず私が怪我をしない。

 物凄くレベルの低い、しかし切実な目標を立て、私はついでとばかりに自身のステータス画面を立ち上げ……頭を抱えた。


「何となく、何となくそうかなあ……? とは、思ってたけど……!」


 やっぱり色々増えてる!!



  ◆名前:セシリア・メヌエット・エグランディーヌ(侯爵令嬢 次期アルカンシエル王国女王 廻る者 破壊者 魔石獣の主人)


  ◆属性値/固有スキル


  ✧全属性:LvMax 浄化SS+


  ✧炎属性:LvMax  大煉獄A


  ✧鉄属性:Lv95  絶対重力磁場B+


  ✧雷属性:Lv90  時空間転移B


  ✧緑属性:Lv92  創造創生B+


  ✧水属性:Lv88  生命の水回廊C-


  ✧夢属性:Lv97  過去視A


  ✧氷属性:LvMax 適正あり【スキル獲得条件を満たしていません】



  ◆エクストラボックス:全域結界、融合・分離、色彩操作、魔力操作【結晶】、物質量操作


  ◆絶対継承スキル:預言者、女王の虹結界、スキルカード、調和


  ◆身体機能


  ✧体力:Lv95

  ✧攻撃力:Max

  ✧防御力:Lv83

  ✧俊敏性:Lv92

  ✧精神力:Lv73



 なんか、やたら操作系のエクストラスキル増えてません?

 属性値も使用してない水属性以外は何故か軒並み上がっている。夢属性の《過去視》なんて、ろくに制御できていないにも関わらず、だ。

 あと解ってはいたが、矢張り一度空っぽ近くになるまで魔力を放出したせいで、体力値が一気に上昇している。何故か精神値も。


「……破壊者って……」


 そして職業欄であろう場所に堂々と「破壊者」なんて文言が追加されていて、地味にへこんだ。ただでさえ脳筋ゴリラステータスなのに、そんなのちょっと洒落にならないので勘弁して欲しい。


「逆……逆に考えよう……私は《預言者》が見せた可能性の未来を壊そうとしているんだから、何も間違ってない……うん、間違ってない、よね……?」


 最後にちょっと疑問形になってしまった自分を殴ってやりたい。

 あはは、と乾いた笑いを口から零して、窓の外を見やる。

 景色は随分と緑が減って、そろそろリブートに着くのだと私に教えているようだった。




閲覧、評価、ブクマ、誠にありがとうございます。

すみません、魔石採取編、あと1~2話です。多分……多分。

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