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本編1-11


 翌朝。

 まだ日も登り切らない早朝に起きだした私は、着替えもそこそこに麻袋の中身を漁っていた。

 昨日集めた魔石の数々である。

 魔物が落とした物と天然物をより分け、天然物の中でも一番小さな魔石を選び、指先で摘まんで四方から覗き込む。

 うん。質は十分だ。

 昨日ノヴァーリスに言った「実験」を、今のうちに試しておこうと思って頑張って早起きしたのだが、期待した通りの結果が出ると信じたい。

 摘まんだ指先に魔力を集中させて、そっと目を閉じる。

 すっと取り出して、そうっと入れるイメージ。卵と油が分離しないように、少しずつ加えながら混ぜるような。


「……お?」


 指先に集中させていた魔力が、すうっと魔石の中に溶けていく。

 気が付けば、朝日が完全に登り切ってきた。


「成功、かな?」


 窓から差し込む朝日に反射して、虹色に輝く魔石が、キラリと瞬いた。




 その後、成功例第一号の魔石を《創造創生》で作った小さな袋に入れ、麻袋の中に戻す。だるさや吐き気と言った身体的異常がない事を確認して、残りの魔力量も確認する。

 魔力量は身体機能の体力Lvに比例するので、セシリアの魔力量はなかなか可笑しな数値になっているのだが、あんな小さな魔石にも、結構な魔力を持って行かれていた。

 ちなみに、魔力量は十分な食事と睡眠を取る事で回復する。属性の回復スキルでも回復可能だが、そちらは副作用が出る場合があるので、基本は自然回復だ。


「まあ、大丈夫かなあ……」


 本当にいざとなれば、自分で自分に回復スキル——水属性固有スキルの《生命の水回廊》を発動させれば良い。

 そう結論付けた所で、扉がノックされた。恐らくノヴァーリスだろう。


「はい。開いてますよ、ノヴァーリス」


「……セシリア様、お願いですから誰が訪ねてきたのか確認なさってください」


「ノヴァーリスでしょう?」


「僕以外の人間だったらどうなさるのですか……」


「燃やす?」


「もっ!?」


「あはは、冗談だよ冗談。おはよう、ノヴァーリス。ご飯出来たって?」


 絶句したノヴァーリスにケラケラと笑ってみせて、彼の前に歩み寄る。

 サクリーナが居ないので、今日の私の髪形は簡素だ。一つに括って、濃い紫のリボンと、細い金のリボンをきゅっと結んだだけ。

 ノヴァーリスとお揃いだ、なんて浮かれた言葉は封印して、彼と共にダイニングに向かった。




 ただ今の時刻、おおむね9時ぐらい。

 日は既に高く、絶好の魔石探索日和だ。

 昨日ノヴァーリスが《熱量探知》で探り当ててくれた大きな魔石があると想定される洞窟までは、リーヴァ村から歩いて1時間と少しで着いた。

 しかし、物事にトラブルは付き物であるらしい。



「——崖、だねえ」


 カラン、と音を立てて、足元の小石が崖下へ転がり落ちた。

 落下するまでにどれぐらいの時間が掛かったかで凡その深さを測れると前世で聞いた事があるが、数学は苦手分野なのでそっとその案を除外する。

 それよりも隣で顔面を蒼白にしているノヴァーリスが気になる。今にも切腹しそうだけど、大丈夫かなこの子。


「も、申し訳ございません……! 熱量探知に気を回し過ぎて、地形の把握が、不十分でした……」


 血を吐きそうな声だ。この世の絶望が全部詰まっているような。

 私としてはこの場所を見付けてくれただけで満点花丸なので全く気にしていないのだが、ノヴァーリスはそうではないらしい。

 脳筋ゴリラステータスを見せつけるようで気が引けたが、切腹されるよりマシだと腹を括り、ノヴァーリスの手を取った。


「せ、セシリア様!?」


「舌、噛まないでね!」


「え? っ——!?」


 ぐおん、と、崖下から吹き上げる突風が肌に刺さる。

 ノヴァーリスの手を引き二人まとめて崖下に落下した私たちは、悲鳴を上げる暇もなく重力に従って結構な速さで落ちていく。

 ババババ! と服がはためいた。ぎゅうっと強くノヴァーリスの手を握りしめ、鉄属性の最上位固有スキル《絶対重力磁場》を展開する。

 攻撃力は炎属性に次いで2位。しかしそのスキルの多彩さは、圧倒的。

 重力操作により浮遊可能。押しつぶす事も可能。磁場を作り相手の足止めも可能。鉄属性の最上位スキルは八属性の中で唯一「二重属性」と言われているだけあり、重力と磁力でもって様々な攻撃手段を用いれる。

 が、その性能の良さ故に扱いは極めて難しく、使いこなせなければ何の意味もない、結構ピーキーなスキルだ。

 いやあ、隠れて練習してて良かった!

 流石にゲームの橙騎(とうき)——橙の七騎士、アシュラム・オースティンのような精度は出せないが、十分使用には足るレベルだ。

 一回やってみたかったんだよねえ! 紐無しバンジー!

 この胃がぐっとせり上がってくる感じ。前世のフリーフォールのようだ。遊園地にある、あの垂直に落下するやつ。絶叫好きだった私としては、今世でも体験出来て大満足である。

 落下する重力を操り、ふうわりと羽のように軽やかに地面に着地して、渾身のドヤ顔を披露する。

 へたり込んで「意味が解らない」と言いたそうな顔で私を見上げるノヴァーリスの、ぐちゃぐちゃになってしまった髪を手櫛で整えてあげながら、「いきなりごめんね?」と謝った。

 だって、事前に説明したら絶対に反対されると思ったから。


「でも、これでなんの問題もなくなったでしょ?」


「ええ……?」


 はい。また渾身の「ええ……?」を頂きました。




本日2本目の更新です。

未読の方はご注意ください。

いい加減予約掲載を学ぼうと思います←


蛇足

始まりと終わりの騎士である赤と紫の2人だけは、「騎」の文字が先にきます。

騎赤(きせき)」と「騎紫(きし)

他の5色を持つ騎士に関しては、「騎」の文字が後ろにきます。

今回、名前だけ出てきた「橙騎(とうき)」みたいな感じです。

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