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本編1-4



 そして時間は進み、今朝。

 魔石採取に向かう為に、数日前サクリーナが《染色》をお願いしてくれた衣服に身を包み、ソックスをソックスガーターでぱちんと留める。

 濃い金色の長い髪に、シャボン玉の表面を思わせるような、不思議な色彩の瞳。

 やっぱり《セシリア》の外見には、このぐらい薄い紫の方が似合うな、と、鏡に写った「自分」が頷く。

 髪の毛はどうしとうかと思っていた所でちょうどノックの音がして、サクリーナだろうとあたりを付け「どうぞ」と入室を促せば、予想通り、サクリーナが恭しい所作で入室してきた。

 そして、既に着替えてしまっている私を見て、目を見開き固まった。


「……お嬢様?」


「ええ、おはよう、サクリーナ。どうでしょうか? 似合いませんか?」


「あ……え、あ、し、失礼致しました。おはようございます、お嬢様。大変お似合いで、その、驚いてしまいました」


「本当? はしたないって思われたのではないかと」


「い、いえ! とんでもございません! まるで幼い騎士様のようで、大変麗しゅうございます」


 ほのかに頬を染めるサクリーナに、私は大仰に頷きたくなるのをこらえ、にこりと微笑みを返す。

 そうだろう、そうだろう。胸がぺったんこだからこそ似合う服というものもある。このジャケットは結構生地重めで創生したからね。そう、だって、今は胸に晒しも巻いてるし、別に悲しくなんてない。

 9年後にはちゃんと育って……え、育ってるよね? コルセットで締め上げてパットで盛ってたりしないよね?

 いや、今だって別に絶壁と言う訳ではないんだから、諦めるのは早い。うん。明日から豆乳飲もう。

 引き攣りそうになる頬をなんとか堪え、サクリーナに「髪を纏めていただけますか?」と声を掛ければ、彼女は嬉々として頷いた。


 ドレッシング・チェストの前に座り、収納から濃い紫色の絹のリボンを取り出し、サクリーナに渡す。サイドと一緒にリボンを編み込んでもらおうかとも思ったが、有能侍女に任せる事にした。

 コテで緩く巻いた後れ毛を敢えて残し、サイドの髪を編み込んで頭の真ん中あたりの位置でお団子にまとめる。私が手渡した濃い紫のリボンを大振りに蝶々結びで結び、別途、細い金色のリボンも巻き付けていく。濃い紫のリボンとは少しずらした位置で結んで、あえて残していた後れ毛を緩い三つ編みにして、クロスさせるようにしてお団子に巻き付けた。

 あらかじめ結んでおいた金色のリボンで巻き付けた後れ毛を固定し、虹色の光沢を放つオパールで作られた花の形をした髪飾りをつけ、サクリーナは満足そうに頷いた。


「……もう少し、少年のような見た目になるのかと思いました」


「お嬢様の麗しいお顔立ちには、このくらい華があった方がよろしいかと思いまして……ご不満でしたら、すぐ結い直します」


「いえ、大丈夫です。サクリーナは、この髪形がわたくしに似合うと思ったから、結ってくれたのでしょう? わたくしは、貴女の腕を信頼しておりますもの」


「お嬢様……」


 オパールの髪飾りを落とさないかだけが心配だが、紫に金のリボンを組み合わせる発想は、私には無かった。紫と金なんて、そんな、合うに決まってる。それにノヴァーリスとセシリアの色を敢えて組み合わせてくれたのだと気づき、無性に恥ずかしくなった。

 ノヴァーリスが推しだと、気付かれているのだろうか。有能侍女怖い。

 でも、元々ガチ恋勢ではなかったので、これは何と言うか、こそばゆい。

 むずむずする気持ちのままさっと薄化粧を施してもらい、動作に支障がないか、最終確認を行う。


「それではサクリーナ。行ってきますね」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。……差し出がましいようですが、旦那様と奥様には……」


「ああ、あの方達には……。もし、今日こちらの屋敷に逗留するのであれば、次期女王の公務で不在、とだけ伝えてください」


「……畏まりました。お嬢様、エントランスで、センティッド卿がお待ちでいらっしゃいます」


「まあ。お待たせしてしまったかしら?」


「お約束の時間までまだ少々あります。大丈夫かと」


 さっと扉を開けてくれたサクリーナに礼を言い、エントランスに急ぐ。

 と言っても屋敷内で走れる訳もなく、早歩き程度だ。


「ノヴァーリス。お待たせ致しました」


「いえ、セシリア様。ご準備は整いま……っ!?」


 エントランスに姿を現した私を見やって、ノヴァーリスの紫玉の瞳が大きく見開かれる。

 何度か開閉を繰り返す口は、掛ける言葉を探しているのだろう。

 後ろで髪を結っているせいで見える耳が、可哀想なぐらい、赤かった。


「な、え、なっ……!」


「どこか、可笑しいでしょうか?」


「え、あ、せ、セシリア様、おみ足を、そのように晒すのは、その……」


「まあ。きちんとソックスは履いておりますし、ブーツですもの。素肌は晒しておりませんわ」


「か、形が……!」


 丸見えではないですか! 悲鳴のように裏返った声で小さく呟かれた言葉に、悶えそうになるのを必死で我慢する。

 ああ、推しが! 可愛い!


 アルカンシエル王国は中世ヨーロッパの貞操観念が色濃く残っている為、特に貴族女性は足を晒すものではないとされている。

 平民であろうと、基本女性は足を晒さない。正式に騎士となった女性だけが、トラウザーズを身に纏うぐらいだろう。

 勿論、その場合一般階級の騎士ではなく、七騎士として選定された場合、になるが。

 

「魔物との戦闘を想定しますと、やはり、どうしてもドレスは邪魔ですので」


「あの、ですから……何度もお伝えしておりますが、僕、護衛なんです」


「ええ。存じておりますわよ? 心優しい、わたくしの騎紫(きし)様」


「っ……ですから、御身は僕がお護り致しますので、あの……」


 耳と言わず顔まで真っ赤に染めてしまったノヴァーリスに「可愛い!」と言いたくなるのをぐっと堪え、そっと笑みを浮かべる。


「ノヴァーリスがこのような格好をした女と共に歩きたくないと仰るのでしたら、今すぐ着替えて参ります」


「そのような事! とてもお似合いでいらっしゃいます!」


「あら、でしたら問題ございませんね?」


「っ!」


 この子、前回の言質事件と言い、大丈夫かな、と思ってしまう。

 前世で見慣れたゲームのノヴァーリスは、穏やかで物腰が柔らかくて、冷静で、常に一歩引いた場所から七騎士とエレーヌを支えていたから、こうやって感情も露わに慌てふためく姿は新鮮と言っても良い。

 あの結末を知っているだけに、尚更。




本日連投3本目です。

前2本未読の方はご注意ください。


セシリアが悲鳴を上げてネコを脱ぎ捨てて大煉獄かました戦犯がまだ出てきてませんが、とりあえず今日の更新はここまでです。

いつも閲覧、評価、ブクマしてくださる皆々様、ありがとうございます。

続きを! 早く! と思ってくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひポチっとお願い致します。作者が「需要はあったのか!」と喜びます←

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