表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/67

プロローグ


 パチリ、と瞳を瞬く。

 走馬灯、とは。こう言う感覚を言うのだろうか。

 目眩がしそうな程の情報量に、齢十五を迎えた私は、硬い床の上に膝を付きそうになった。

 見た事もない人達。見た事もない景色。

 様々な情報が記憶と言う形で脳内を通り過ぎて行って、目の前がチカチカとスパークするように点滅する。

「セシリア様……?」

 しかし、不意に掛けられた不安げな少年とも青年ともつかないその声に、私はハッと顔を上げる。

 あれ、何だ。私、この声を知ってる。聞いた事がある。確かにそう感じるのに、頭の奥がズキズキと痛んで、まともな思考が出来ない。


「どうかなさいましたか? まさか、何処か具合でも?」


 柔らかな白月光の髪。抜けるように澄んだ瞳は、思慮深さが伺える紫玉。

 何処かで見た気がする。何処で?

 両手に持ったポータブルプレイヤー。物語の始まりを告げるオープニングムービー。

 音楽と共に流れるのは、大好きな絵師さんが手掛けた流麗なイラストの数々。

 飛び交う炎、雷、水、氷。様々な魔法。

 未だ目の前で眉尻を下げる人に向かって、ガンガン鐘を突くように響く頭痛のせいで滲む涙はそのままに、歪みそうになる口角を必死に上げて、私は微笑んだ。


「――今度こそ、私は貴方を幸せにします」


「……え、」


 驚愕に見開かれる紫玉の瞳。

 当たり前だ。私達は初対面なのだから。突然「今度こそ」なんて口走った電波女を気味悪がるのも当然の反応だろう。

 それでも、さも当然のように、その言葉はするりと私の口から零れ落ちた。



 ふ、と身体の力が抜けた少女の元に慌てて駆けよれば、未成熟な、しかし確かに女性として開花を始めている少女の甘やかな香りが鼻腔を掠めた。

 慌ててその身体を抱き留めたは良いが、まだ非公式とは言え、アルカンシエル王国の新女王陛下に就任する予定である女性、セシリア・メヌエット・エグランディーヌ嬢に許可もなく触れてしまったと、ノヴァーリスは冷や汗を流す。

 いまだノヴァーリスの腕の中で意識を失っている薄い身体は、壊れてしまうのではないかと思うぐらい粗い呼吸を繰り返している。

 七色の光彩が煌めく不思議な瞳を持った、不可思議な少女だった。

 突然告げられた言葉に、ノヴァーリスは戸惑う。今度こそ。初対面である筈なのに、少女はいっそ美しいまでに微笑んで、そう言い放った。

 神に祝福されたかのように煌めく、夕暮れの小麦畑を思わせる深い金色の長い髪。総ての属性を宿した瞳は、国の名を冠する虹色。

 白磁の頬は触れたら壊れてしまいそうなぐらい繊細で、花が綻ぶような笑みは可愛らしくもあり、美しい。その瞳から零れた涙は、まるで光り輝く宝石のようですらあった。

 瞳以外、色素という色素が抜け落ちてしまったかのような自分とは大違いだ、と、ノヴァーリスは誰に告げるでも無く一人ごちた。


「この人が……僕の、女王様……」


 ――僕が生涯を掛けて、護るべき人。

 小さくそう呟いた所でハッと我に返ったノヴァーリスは、倒れ込んだ少女の呼吸が正常に戻りつつある事を確認して、繊細な硝子細工を扱うようにそっとセシリアの身体を抱き上げると、音もなく立ち上がった。




のんびり更新です。

よろしければお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ