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声に出して、ネバーランド

作者: たちかぜ颯

子どもの頃に戻りたいとか、ネバーランドは永遠の憧れだとか

嬉しそうに話す人たちをテレビは映していた。

 子どもの頃が、そんなにその人にとっては素敵だったんだろうか。

二十歳まで、まだだいぶあるボクは疑問に思う。

ネバーランドって、つまり子どもだけの子どもしかいない島なんだろ?

大人がいない世界って危険だって、大人たちは思わないのだろうか。

 大人ってストッパーだとボクは思う。

大人がいて、間違っているかもしれないけれど、良いこと悪いことを教えるから、

突飛な行動しなくなるんだと思う。

 ボクは……それでっていうのも変だけれど、階段から落ちた。

正確には飛ぼうとしたんだ。

高い所じゃなくて良かったって、今も言われる。

それが原因で、ボクは居てもいないと同じだった親の所から施設に入った。

 ボクはそこで急速に大人になった、と思っている。

悪こととか、いけないこととか区別できるようになったんだから。

 だから、ボクはネバーランドに憧れない。怖いよ。

子どもだけの世界なんて。

 奴らは何でも許されると思っている。

テレビアニメの主人公に自分もなれるんだと思っている。

「ねえ、子どもに戻りたいと思うときある?」

 施設の先生にそう訊いた。一番怖いと言われている先生に。

ボクは別にそう感じない。皆怖がっているので、怖がらなきゃいけないのかと不安になるけれど。

「ん? 何だ、突然」

「理由をボクが言う前に、質問の答えを」

「答えを・・・・・・っておまえなァ・・・・・・。そりゃああるぞ。子どもに戻りたいなァって」

「ネバーランド行きたい?」

「行きたいって・・・・・・連れて行ってくれるのかい?」

 そうじゃなくて、とかなりたどたどしくではあるけれど自分の意見を伝えた。

「達巳、そうだな、そのとおりかもしれない。が・・・・・・」

 困ったような顔で先生は頭をかいた。

「にわとりが先か、卵が先かって議論になるかなァ。たいていは子は親を求めるし、

親は子を求めるんだ。ネバーランドは子どもしか行けないかもしれないが、それを創ったのは大人だよ。

子ども同士でも年上が年下をしつける。ここでもそうだろう? 達巳が想像している程危険じゃないはずだ」

「ふうん」

「子どもの頃に戻りたいと思うのわな。俺の場合あの頃は今より考えることが少なくて済んだからな。

それに身体も軽かった」

 それで、ああそうかと思い当たる。

ボクの幼少期と先生の子ども時代と比べると違うんだって。

 ボクも今より小さかった頃、あまり考えていなかったけれど、それが問題じゃなく、

弱いストッパーしかもっていなかったということと

思い込みが激しかったボクが問題なんだろうと。

「達巳」

 先生が真剣な声で呼ぶ。

「達巳、お前の年頃というのは一般的に善悪に厳しくなり、大人びてくるんだ。

反抗期にもなる。でもお前は、それすっとばして大人っぽくなっちまった。

だから……周りを気にするな。子どもに戻れ。疑問は今みたいにすぐ訊くんだ。

今子どもでいないと――いや、まだまだ純粋だからネバーランドみつけられるかもしれないぞ」

「ネバーランドは創作だよね?」

「そうだけどさ、子どもの思い出いっぱい作っとけ。楽しいことなるべく覚えとけ。

そうすると大人になった時、あの時は良かったなと思う時が来る。

お前はそんなの何の役に? って思うだろ。でもな、多分俺の勘だけれど、

あの時は良かったなと思えるようになったら、自分に負い目を感じなくなるんだと思うぜ」

「そう、かな」

「ああ。キザったらしいけどな、それが達巳のネバーランドになるんだろうな」

「ネバーランド」

 ボクは声に出して言ってみた。

実感は沸かないけれど、楽しい気分になってくる。

「だからって、空を飛ぼうとかは勘弁してくれよ」

 先生は言う。他の先生はそれをタブー視して言わないけれど、

この先生は言う。そこが好きだ。

「わかってる。それは自分の身で学習した。飛びたくなったら、

バンジ―ジャンプかハングライダーにしとく」

「ほどほどにな」

 頭を力強い手でぐしゃぐしゃとされ、その手をのけながら

また浮かんだ疑問を一つ先生に訊く。

「先生、ニワトリが先か卵が先かって何?」

 あんぐりと口を開けた先生を見て、

ボクはやっぱりまだ子どもかなと感じた。

<了>

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