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第22話 料理修行

 料理を作るということは実は至極簡単だ。

 ただ、「食べられる」かどうかは言うまでもなく容易ではないだろう。

 何故なら……。


「うわわっ、目玉焼きが焦げた!?」

「お姉ちゃん、火力火力」

「えっと……? あっ、強火だ」

「納得してないで止めて!」

「うわっとと」

 ゲームからログアウトした後、ボクは料理の練習を始めることにした。

 そして出来上がったボクの初の料理、目玉焼きは『黒こげ焼き』に変わってしまった。


「目玉焼きで失敗する人も珍しいよね?」

 ミナの一言がぐさりと突き刺さる。


「まだわからないよ? 次こそ成功すると信じてるんだから」

 ボクの挑戦は終わらない。

 たとえ今ので5枚目だとしても……!!


「サニーサイドアップで半熟にするなら蒸す方がいいよ? 取り出した時にも崩れにくいし。ターンオーバーにするときも、多少固めにしてからの方が成功しやすいと思う。固まらないうちにひっくり返すからべちゃっとなるんだよ」

 色んな焼き方はあるだろうけれど、ミナの焼き方はこうなのである。

 しかし、そんなことも昴は出来ないのであった。


「え~っと……、固め固め……」

 火加減の調節をすれば大丈夫かな?

 え~っと、今が弱火だから、中火くらいで……。

 あれ?

 火が少し大きいかな?


「お姉ちゃん、適切な火加減わからないんだから、無理に調節しない方がいいよ?」

 またもや妹にダメだしされるボク。

 おっかしいなぁ~……。


「はぁ。卵、もう少ないんだから、次で最後だよ?」

「うぅ……、分かってるよ……」

 再び妹に怒られ、ボクは1枚無駄にした。



 何でボクがこんなことをしているかというと、ゲーム内のイベントで料理の屋台を賢人兄達と一緒に出すからだ。

 ボクもちょっとくらい何かを作ってみたい。

 そんな気持ちから今回の練習に繋がったわけなんだけども……。


「半熟……、蒸す……。蓋して白くなるのを待つ。全体が白くなっても慌てずもう少し待つ……」

「そうそう、そのままそのまま」

「ややしっかり目に火を通すことで、型崩れしないサニーサイドアップが出来る……っと」

 ただひたすら見極め、待ち続ける。

 その結果……。


「サニーサイドアップ完成」

 ボクは勝ったのだ。

 きれいなサニーサイドアップの目玉焼きが完成したのだ。


「おめでとう、お姉ちゃん!」

「ありがとう、ミナ。これでボクは料理の道に進めるよ!」

「目玉焼き出来たくらいで料理が出来るわけじゃないから、勘違いしないでね? 次は味噌汁にチャレンジしてみようか」

 こうして、ボクの感動は一蹴され、新たな課題が提示されたのだった……。



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「いただきます」

「いただきま~す」

「いただきます」

 ボク達兄妹は、遅めの昼食を摂ることになった。

 原因は言わずともわかるよね?

 そう、ボクだよ!


「いや~、苦労したよ。さすがに味噌汁を無駄には出来ないから、じっくり味見してもらったんだけどね?」

「途中水が無くなりそうで焦ったけど、どうにか昼食にはありつけました」

「ご苦労、妹よ」

 ミナは賢人兄に頭を撫でられご満悦だ。

 たしかに、今回、ミナがいなければ危なかったと思う。

 まさか、ボクがここまで料理下手だったなんて……。


「というか、昴は料理ほとんどしてないんだから、下手で当たり前なんだよ。調理実習程度じゃそんなもんだ。コツコツやってけば自然と上手くなるんだから、慌てんな」

「ちょっと、やめてよ~」

 頭を押さえつけられ、グリグリとされるボク。

 抵抗すれども手は届かずだ。


「はぁ~。こんなんで屋台の出店に間に合うのかな?」

 フェスティバルまで1週間ほどしかない。

 商店街のみんなや冒険者のみんなは自然と料理する機会が多いはずなので、ボクとの実力差が如実に表れることだろう。


「だ~か~ら~、焦るなっての。今日からちょっとでもいいから手伝え。それだけでも結構変わるんだからさ。俺が料理上手な理由もそこにあるんだぞ?」

 賢人兄はドヤ顔をしながらボクにそう言い放つ。

 悔しいけど、賢人兄の料理はおいしい……。


「ぐぬぬ……」

「ほれ、変な顔してないでさっさと食べろよ。初めてにしちゃ上出来だぞ? ミナの指導の甲斐もあるだろうけど、悪くない」

 今回初挑戦のお昼ご飯は、賢人兄的評価において、及第点付近にいるようだった。

 可もなく不可もなくって、どう伸ばしたらいいかわからないんだよね。


「そんなへこむなって。最初からうまいやつなんていないんだからさ」

「うん、絵でも文章でも、料理でもゲームでも、最初から上手な人なんていないよ? 下手でもダメでも省みて積み上げて上手くなるんだから、初日からへこんでたらだめだよ、お姉ちゃん」

 兄と妹が共に慰めてくれる。

 でも、妹の方が大人な対応っていうのはなんだかなぁ~……。

 ボクが子供なだけなんだろうな。


「味付けは補助があったにしろ、野菜の切り方は上手いな。素材に味が結構染み込んでるし、落ち着いてできたんじゃないか? 目玉焼きで苦戦してたみたいだけど、目玉焼きも味噌汁も、シンプルなものほど最高のものを作ることは難しいんだぞ? 誰でも出来ると思うことなかれだ。わかったか? 昴」

 むぅ……、賢人兄はこういう時ずるいと思う。

 宥め方が上手いというか、褒め上手というか、嬉しくなるところを的確に攻めてくる。

 これがハーレムの源泉なのか……。


「でも、この調子なら大丈夫そうだな。あとは積み重ねればいいわけだし……。そうだ、クッキー作ってみろよ? 慣れたらプリンな?」

「えぇ!? ハードル高くない!?」

「大丈夫だって。それに、プリンを向こうで売るのもいいと思うしな。てなわけで、今日のおやつから練習な。大丈夫、まずくてもちゃんと食べてやるからさ」

 賢人兄はにっこりほほ笑むと、ボクの頭を撫でながらそう言った。


「お姉ちゃん、ご機嫌なのはいいけどさ、卵買いに行かないとだよ? というわけで、久々の外出、一緒に行こうよ」

「ご機嫌って……、ボクは別に……」

「はいはい、そんなことはいいから、出した服に着替えておいてね?」

 ミナはそう言うと、先に部屋へと戻っていった。

 ミナとボクの部屋は別々だけど、最近はミナが良く入り浸るようになっている。

 そのせいか、大体戻る時はボクの部屋へと戻るようになった。


「昔から仲良かったけど、さらに仲良くなったんじゃないか? いいことだな。さて、洗濯と掃除はやっておくから、ミナの相手頼んだぞ」

 賢人兄はそう言うと、早速洗濯機へと向かって行った。


「はぁ。なんだかわからないけど、やることが多い……」

 ボクは釈然としない気持ちを抱いたまま、自分の部屋へと戻っていくのだった。



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