ぬらりひょんの宿と動き出した情勢
今のぬらりひょんからは想像できない話の数々にボクたちはどんどん引き込まれていった。
話が進むにつれボクたちの周りにはみんなが集まり、全員が楽しそうにその話を聞いていた。
「まぁあの人はああいう人だからな。分かっていて付き合えば何の問題もないよ。母上とはライバルのような関係にあったみたいだけど、母上が天に昇ってからは幾分大人しくなったようだし」
お父さんは楽しそうに過去の話をボクたちに話してくれた。
その中でも、お婆ちゃんとぬらりひょんさんの争いは殊の外興味を引いたものだ。
ある意味ではボクの理想とする戦い方かもしれないと、ちょっとだけ思ったりもしてしまう。
「えっ? 昴ちゃんのお婆ちゃん亡くなっちゃったの?」
「そ、そうなんだ……」
「ごめん、昴ちゃん」
お父さんの話を聞いて誤解した、花蓮さんと鈴さんとこのはちゃんは申し訳なさそうに謝ってくる。
ボクは慌てて三人に「大丈夫だよ!」と言葉をかけたけど、言葉選びを間違えたかもしれない。
何やら感動したような表情で「昴ちゃん、無理しちゃって……」と言ってるような雰囲気を感じる。
「お姉ちゃん、もうちょっと考えなよ」
「にはは。ごめん」
ミナに注意されたのでボクは謝っておく。
「そうだよ? 昴ちゃん。私たちには馴染みはあっても、人間種には馴染みがないんだから。『ちょっと冥界行ってくるね』っていうノリが、人間だと『ちょっと死んで来る』に置き換わるんだよ?」
「ひぇぇぇぇ」
ゆかりちゃんの説明を聞いて、ボクは恐れ戦いた。
まさかそんな風に置き換わっているなんて思いもしなかったから……。
「天に昇ったという表現が『天国に行っちゃった』に置き換わるってことは考えるべきだったかもしれないね。私たちの意味だと『高天原に引っ越した』とか『高天原に神としての領地を貰った』という感じになるからね」
「たしかに。もうちょっと考えないとだめだよね~」
ボクはちょっと反省する。
種族的な違いから勘違いとすれ違いが生まれるって考えると、もうちょっと言葉を選んだり考えて話すことは大事なのかもしれない。
ゲーム内には現実よりも多くの種族があり、たくさんのNPCたちがいる。
そんな彼らの事情も考えて関わり合っていかなきゃいけないよね。
「にゃっはっはっ。小難しいこと考え過ぎにゃ。凛音ちゃんは臨機応変に音緒として猫獣人のつもりで活動してるにゃ。本当は猫又だけどにゃ」
ボクたちがゲームの話をしていると、ゆかりちゃんが興味深そうに覗きこんできた。
「ゲーム? そう言えばやってるって言ってたよね? 私もやろうかな~とおもったんだけど、私より妹が先に始めちゃったんだよね~。私もやる時は言うから、誘ってほしいな」
ゆかりちゃんは可愛らしく照れながらボクにそう言う。
そこまで言われたら誘わないわけにはいかないよね?
にしても、最近地味に人数が増えてる気がする。
最初はお兄ちゃんと鈴さんたちとこのはちゃん。
それからは妹が入り、美影と瑞樹、凛音が混ざり、お兄ちゃんの知り合いのパーティーが拠点を間借りするようになった。
NPCとしてはミアにフィルさんが仲間になった。
それと、今もゲーム内の情報をメッセージで送ってくれているルーナ。
いつも一緒に居るわけじゃないけれど、気が付けばこんなにたくさんの人と関わっていたのだ。
アモスさんとかはたまに出会う程度だけどね。
「そうそう、最近妹がね、優しい妖狐族に出会ったって言ってたの。ちょうど昴ちゃんみたいな髪色の女の子らしいんだけどね? 優しくて気に入っちゃったらしいんだよ」
「へぇ~? なんか聞いたような話……。妹さんの名前とゲーム内の名前は?」
「あ、うん。妹の名前は茉莉っていうんだけど、ゲーム内の名前でも『まつり』って付けちゃったらしいんだよね」
「まつりちゃん!?」
「えっ?」
ゆかりちゃんの話を聞いてボクは驚いた。
ゲーム内で、確かにボクは黒髪の妖狐族に出会った。
その子の名前は『まつり』といった。
まさかゆかりちゃんの妹だったなんて……。
「その妹さんって「なのです」って付けて話す?」
「え? うん、よく知ってるね」
「やっぱりかぁ~……」
「知り合ったのって、昴ちゃんなの?」
「う、うん。そうみたい」
「すごい偶然だね~」
ものすごい偶然だと思った。
アリエスタからの帰り道、街で出会った妖狐族の子が、現実に身近な人に繋がっているとは誰が予測できただろうか。
「へぇ? すごい偶然だね。これならメルの目的も達成できるかもしれないね」
「そうねぇ。人と妖種が力を合わせて戦ってくれれば乗り切れるはずだもの。期待しているわ、昴」
「何の話にゃ?」
「なんでもな~い」
「なんでもないよ、凛音ちゃん」
お父さんとお母さんは優しく微笑みながらそう言い、凛音はきょとんとした顔でボクに問いかけてくる。
ボクとミナは顔を見合わせながら凛音に「なんでもない」と返した。
「あたし的には友達が参加してくれるのは嬉しいかな? ゆかりちゃん可愛いし」
「美影は可愛ければなんでもいいでしょう? 私も歓迎です。もうすぐ夏休みも終わり。そうなると少し時間が取りづらくなりますけど、一緒に楽しめればとは思っています」
女の子好きな美影は新しい友達が増えることに賛成なようだ。
でも、ゲーム内のパーティーの人数は決まってるから、ある程度選ばないと組めない子が出てくるかもしれない。
クランシステム早く解放できればいいんだけどなぁ……。
ボクがそんなことを考えていると、携帯端末がメッセージを受信したことを知らせてきた。
『こんにちは、こんばんは!
貴女のアイドル、ルーナです。
新しく仲間に加わりましたまつり様ですが、フィル様とミア様と一緒にゴブリン狩りやスライム狩りを始めて順調に成長されているようです。
黒い尻尾を振り振りしながら頑張ってる姿には癒されてしまいます!
ここからは近況ですが、絆の要塞周囲の冒険者キャンプは大きく成長し、聖堂騎士が派遣されました。
これにより最前線の拠点が稼働状態になり、一般の商人たちのための道の整備が開始されました。
それに伴い、中継地のアリエスタ村を経由するルートの浄化が陰陽師見習いたちにより行われています。
絆の要塞からは定期的にハイオークやゴブリンたちの襲撃が行われているようですが、成長し始めたプレイヤーたちにより撃退され続けています。
輸送ルートが整備され次第、要塞攻略戦が開始される見込みです』
ルーナからのメッセージ、そこには驚きの情報が書かれていた。
ボクたちがいない間にプレイヤーたちがNPCたちと協力し、防衛拠点の建設を行ったというのだ。
そこに聖堂騎士も合流したということは、少なくとも聖堂騎士団に常駐可能な拠点として認識されたということだ。
「聖堂騎士、最前線拠点の建設、輸送ルートの整備。まるで戦争だね」
「ん? どうしたんだい? 昴」
「あ、お父さん」
ボクのつぶやきが気になったのか、お父さんがボクに話しかけてくる。
優し気な眼差しでボクを見つめるお父さんに、ゲーム内の状況を伝えた。
すると、隣で話を聞いていたお母さんが目を丸くしているではないか。
「驚いた。もうそこまで手が伸びていたのね。ある程度話は聞いていたけど、予想よりずっと早いわ。それに、ルーナったら、昴にべったりなのね」
お母さんはある程度話は聞いていたようだけど、もう少し詳しいことは知らなかったみたいだ。
神様やってるのに、何で知らないんだか……。
「まぁルーナとは一緒に冒険してるよ。お母さんの部下でおばさんの部下なんでしょ?」
「そうそう。アニーが管理してる子よ。今度現実のあの子も紹介してあげるわ。それにしても、攻略戦が始まるというなら、私にもやらなきゃいけないことがありそうね」
「やらなきゃいけないこと?」
「そう。女神としてのお仕事よ」
お母さんはそう言うと、意味深に微笑んだ。
いつもお読みいただきありがとうございます!
そして現在悩み中です。
話を整理するのもそうなんですけど、要塞戦をどう書きあげるか悩んでます。
話の更新は遅れていますが、何とか頑張ってみます。
みんなが設定を忘れないために(作者も忘れないために)資料作ります。
(何度言ってるんだろう)