禁断の海1
海。
それは塩と微生物がたくさん住んでいる大きな水の塊。
太古の昔から母なる海と申しまして、現在も色々な生物を生み出し続けているという話もある。
海の上層と深層では住んでいる生物が急激に変わるというのだから驚きだ。
予定が決まってから数日後、ボクたちはついに海に来てしまった。
あぁ、神様。
ボクの毛をお守りください。
「おね~ちゃん! 早く早く!!」
「今行くよ~」
ボクは急いでタンキニタイプの水着を着用する。
下はハーフパンツタイプにしているので色々と安心だ。
今回は妖狐になる予定はないので尻尾用の穴を用意することはない。
まぁ問題があるとすれば、脱いだり着たりするのが大変なことくらいだけど。
「おぉ~。お姉ちゃん、それいいね~。私が選んだだけあって良く似合ってる!!」
「自画自賛して恥ずかしくないの? でもまぁマイアが選んだのは事実だから反論もできないけど」
ボクの着ているタンキニ水着はハイビスカスの絵柄が描かれているので少しだけ派手かもしれない。
生地の色は白に青が混じった感じに見えるかな?
「海、それは塩の塊」
「何変なこと言ってるの? ほらいくよ~?」
「もう、少しは落ち着かせてよ」
ボクはマイアに引っ張られ、みんなのいる場所へと連行されていった。
今日来ているのは、榊家からは鈴さんとこのはちゃん。
烏丸家からは美影と瑞樹。
カレンさんこと相原花蓮さん。
ついでに凛音、そしてなぜか狐塚いろはさん。
あとは詠春お父さんとメルお母さん、そして賢人兄とボクとミナだ。
「まさか凛音が狐塚さん誘ってくるとは思わなかった」
「私もびっくりしたかも。凛音ちゃんに尻尾をかじられて誘われたから余計に……」
「にゃはは。妖狐の尻尾はおいしそうでついにゃ」
「狐塚さんにも噛みついてたのか……」
凛音の交友関係は結構広い。
ボクと狐塚さんは性別が決まる前から何となく話すことはあったけど、凛音が絡んできたことはなかったと記憶している。
「凛音ちゃんとは尻尾をかじられてからの友人関係だから」
「かじることから始まる関係って、なんだか嫌だね」
「鳥たちはかじるところがなくて困るにゃ」
「ちょっと、あたしらのことを鳥呼ばわりするのは止めてほしいんだけど!!」
「美影、鳥でもいいじゃない。烏だけが天狗ってわけじゃないでしょ?」
「瑞樹~。あの猫又は絶対わざとだからね!?」
「とはいっても、私は凛音ちゃん嫌いじゃないし」
凛音と瑞樹は仲が悪いというか、相性が悪いといったほうがいいかもしれない。
基本的に凛音が『鳥』といえば、それは美影のことで、美影が『猫』や『猫又』といえば凛音のことを指す。
「本当は仲が良いのに」
「あの二人は昴ちゃんを狙うライバルですから。でもそこには瑞樹も入ってるのでは?」
「私のことは放っておいても大丈夫だから」
狐塚さんと瑞樹は結構仲が良い。
まぁ狐塚さんが地味キャラかつ優しい子なので、気軽に相談できたりする空気の持ち主というのが大きいかもしれない。
「昴ちゃん、早く遊びに行く」
「こら、このは。砂浜を走ったら危ないでしょ?」
「このはちゃん、水着が可愛い水玉ワンピースなんだね」
「気合い入れた。鈴お姉ちゃんと花蓮お姉ちゃんは賢人お兄ちゃんに見せるために無理してるけど」
「こら! このは!!」
「お兄ちゃんモテモテだから仕方ないよね」
凛音と美影が言い争いしている間に、このはちゃんと鈴さんがこっちにやってきた。
少し遠くに見える花蓮さんは赤いビキニタイプの水着を着ているし、鈴さんも似たような水色のビキニを着ている。
このはちゃんとミナはお揃いのワンピース水着で、色違いのものを着ている。
普段から仲が良いだけあって、お揃いにしたようだ。
「水着を異性に見せるのは発情のため。そうじゃない場合、それは友達とお揃いにすることによって親密度を高めるための行為」
「このはちゃんが熱さでバグってる……」
「早く冷やしてあげて!!」
このはちゃんは熱暴走を始めたようで、水着と男女について語り始めてしまった。
一体このはちゃんはどこでそんなことを覚えてくるのだろうか……。
「みんな色とりどりで派手だな~。男性が俺と父さんしかいないから肩身が狭いけど」
「ははは、賢人。気にしすぎだよ? 娘達がかわいいのはわかるけどね」
「そう言うお父さんは堂々としてるよね」
「私はいざという時女性化出来るからね。そういう意味でも困らないんだ」
「身内に味方はいなかっただと!?」
お父さんと賢人お兄ちゃんは同じようなハーフパンツタイプの水着を着ている。
ボクの性別が男性だったらあっち側だっただけに、なんだか不思議な感じがした。
ちなみに、狐塚さんはなんと若草色のビキニで、烏丸姉妹はワンピースタイプの水着だった。
大人しい感じがするくせに、意外と攻めるのが狐塚さんの特徴かもしれない。
男性諸君はギャップにやられないようにね?
「それじゃあ私は場所の警備とバーべキューの設営してるから、ゆっくり遊んできてほしい。賢人はお嬢さん方のエスコートをしっかりするんだよ?」
「はいはい。それじゃいってきます」
「楽しんでおいで」
お父さんは賢人お兄ちゃんを送り出すと、シートを設置した場所へと戻っていく。
一応このビーチはバーベキューができる場所が用意されているので、そこでバーベキューをすることになる。
なお、お母さんは白いビキニを着ていて、ビーチパラソルの下で優雅に寛いで休んでいる。
女神のビキニ姿とか誰得なのかはわからないけどね。
「ほら~、お姉ちゃんもいこうよ」
「早く行く」
「おっそ~い、早くしなさいよ~!」
ミナとこのはちゃんがボクに纏わりつき、遠くでは美影がボクたちを手招きして呼んでいた。
どうやらほとんどのみんなは海へと突撃していったようだ。
勇気あるな~……。
*********
「つめたっ!?」
予想してはいたけど、やはり海の水は冷たい。
さらに言えば、砂浜の砂も熱くなっているので、なおのこと温度差を感じて辛い。
「おねーちゃん、準備運動しないとだめだよ?」
「わ、わかってるよ」
ミナに注意され、さっそくみんなで準備運動を開始。
大人も子供もまとまって準備運動する光景は滑稽やら微笑ましいやら。
遠くにも子供たちがたくさん来ているのが見えるけど、彼らは元気いっぱいに走り回っているし、近辺ではナンパしている男性陣もいたりして、ボクたちのように準備運動をしている人たちは見受けられなかった。
もしかしてボクたちだけじゃないだろうか?
「おねーちゃん? ナンパされてもついていっちゃだめだからね?」
「いかないよ!? というか、ナンパするなら花蓮さんや鈴さんたちでしょ? ボクたちちびっ子は微妙じゃないかな?」
「わからないよ~? ロリコンも多いしね~」
「そうだにゃ。あそこの物陰でカメラ構えてる変な人もいるにゃ」
「それは完全に犯罪でしょ!?」
凛音がそっと指さす方向を見ると、確かに不審な人影がカメラのような物を構えていた。
でも残念。
ボクにはどうすることもできないため、あとは天に任せよう。
「準備体操すると如実に差が分かって困るよね。昴はどう思う?」
美影が花蓮さんたちとボクたちを交互に指さしながらそう言いやがりました。
「うるさいよ!? そんなこと指摘しないで!!」
「お姉ちゃんはつるんぺたんでこのままだけど、私は違うからね?」
「私はどっちでもいい」
「このはちゃんは大きくなるにゃ。お姉さん見てれば分かるにゃ」
「凛音こそ小さいじゃないか!」
「猫に大きさを求めるなんて間違ってるにゃ。猫はスレンダーがベストにゃ」
凛音はそう言うと、凹凸の小さな胸を偉そうに反らせて張った。
海に来てまでどうして不毛な争いをしなければならないのか……。
お読みいただきありがとうございます!
そろそろまとめないと、色々忘れそうに……。