表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/150

小学生は語る

 ――一方その頃、現実世界でのとある二人


「このはちゃん、やり忘れた宿題終わりそう?」

「ん、なんとか。ミナちゃんは余裕そう」

「んふふ。それはそうだよ。私がんばってるもん」

「ね、昴ちゃんは?」

「朝からゲーム。なんか色々巻き込まれてるみたいで面倒見てるような感じだよ? あとで応援に行ってあげようよ」

「うん。最近ちょっと行けなかったから行きたい。お姉ちゃんたちは賢人お兄さんと今日も出かけてるし」

「夏休み明けに催し物あるって聞いたよ? 私楽しみなんだ~。お姉ちゃんもきっと行きたいと思うし」

「ん、楽しみ。昴ちゃんは現実でもモフモフしてるみたいだけど、外じゃそんなことないよね。ちょっと寂しい」

「そりゃそうだよ。あんな姿ほいほい見かけてたら変な人に襲われちゃうよ。まだ力も弱いんだから」


 お姉ちゃんは普通に生活する分には困らない程度の身体能力しかないからいつも心配。

 この前なんかお兄ちゃんと一緒にゲームセンターに行った時は、パンチングマシンに挑戦して、0得点をたたき出すくらいの貧弱さを見せつけてくれたくらいだからね。

 なんでも、「このまま叩くとボクの腕がすごいことになりそうな予感がしたからブレーキ掛けちゃった……」っていっていた。

 たぶん捻挫するか折れるかのどちらかなんじゃないかと思う。

 正直あの時は私も冷や冷やしたものだ。


「たしかに、昴ちゃんは隙だらけだよね。攫われたら抵抗できなそう」

「そうそう。よくある異世界転移とかの小説の設定に当てはめてみるけど、性別決まる前にそういう転移をしていたら絶対奴隷落ちしてたと思う」

「確実にそうなると思う」

「それで十三歳まで生き残ってたとしたら――」

「反動で国でも滅ぼしかねない」

 

 お姉ちゃんは普段は昼でも夜でも変わることはない。

 でも、夜に戦闘行為をすると一種の『狂化』状態になる。

 その傾向はゲームの中だけじゃなくて現実にもあった。

 お姉ちゃんの部屋で一緒に寝ていたとき、真夜中にふと目が覚めたことがある。

 たまたまなのかわからないけど、お姉ちゃんが起きていて、暗い部屋から夜の帳に包まれた街の光景を窓から眺めていた。

 差し込んだ月光に照らされた青銀色の髪の毛はきらきらと輝いていて、すごくきれいだった。

 でも、私が話しかけた時にこっちを向いたお姉ちゃんの紅い瞳は、微かにだけど紅く輝いていた。

 そう、ゲームの中で好戦的になった時と同じ輝きを宿していた。


「美人さんなのに狂気を感じる裏の顔を持つ昴ちゃん。尊い」


 そうつぶやくこのはちゃんの表情はうっとりとしていた。

 最近お姉ちゃんに対するこのはちゃんの愛と信仰が振り切れている気がする。

 一歩間違えれば戻ってこれないんじゃないかというくらいな雰囲気を感じて、私は友達の今後が心配になった。

 まぁ妹の私から見てもお姉ちゃんは素晴らしいって思うけどね。

 性別決まる前にお姉ちゃんが欲しいってお願いし続けていた甲斐があったってものだよ。

 そんなお姉ちゃんも今は私の着せ替え人形のような状態で、抵抗する力がないことをいいことに色々な服を着せて写真を撮っている。

 

 ここだけの話だけど、お姉ちゃんの写真はこのはちゃんからお姉さんの鈴さん、そしてお友達の花蓮さんへと流れ、その周囲の女友達にも少しずつ広まっていたりする。

 私の通う小学校でも、このはちゃんと私から流れたお姉ちゃんの写真が女の子の友達に広まっていっているし、その結果一定のファンが生まれていたりする。

 ちなみに男子には見せることを禁止しているので、男子は知らない私たちだけの秘密の趣味となっている。


「ファンの数また増えたって聞いた。昴ちゃんの人気恐るべし。次点でミナちゃん。さすが私の友達。でも、ミナちゃん、また男子に告白されたって聞いた。大丈夫?」

「あー、うん。同級生もあったけど、最近上級生や中学生からが多いんだよね。そろそろうんざりしてきたんだけど……」

「ふふ。その本音の一言でも男子たちに聞かせてあげたい」


 このはちゃんは少しだけ笑うと、少しだけ意地悪な表情を見せてくれた。

 最近のこのはちゃんは表情が豊かになってきている。

 たぶんお姉ちゃんの影響かもしれない。

 でも、そうだなぁ~。

 このはちゃんの言う通り、男子たちに本音をぶつけたい気持ちはある。

 でも私の立場って実は結構複雑で、負の感情を伴う言動は控えめにしないといけないんだ。

 それは私が『女神候補生』という立場にあるからだ。

 もちろんお姉ちゃんも『女神候補生』という立場だ。

 でも、お姉ちゃんは負の感情をほとんど忘れてきたように朗らかだったりする。

 結構自分に正直だから、そういうところは羨ましいかな。


「今度妖種クラスに行って、妖狐系の女の子の友達作る?」

「妖種クラスって、意地悪な男子多いから苦手。でも、妖狐系の友達とか猫又系の友達作るのはいい提案」

「モフモフしたいんでしょ~?」

「もち」

 

 私の友人はモフモフしたものに目が無くなった。

 これはお姉ちゃん最大の罪と言えるのではないだろうか。

 鈴さんもモフモフしたものに目がないので、榊家の姉妹はお姉ちゃんに魅了されたと言っても過言ではなくなってしまった気がする。


「ゲーム世界には獣人がいるけど、この世界にはいないからね。いるのは妖種くらいなのが残念だけど」

「妖種グッジョブ。モフモフした種がいるのは素晴らしいこと」

「怖い見た目の人もいるけどね」

「それは言わないお約束」


 大体の学校がそうだと聞くけど、人間種クラスと妖種クラスは分けられていることが多い。

 その理由は、善悪の判断が曖昧な時期に両者を混ぜると、必ずやりすぎて大けがをさせてしまうからだったりする。

 なので、妖種クラスは人間種クラスよりも早く社会のことや理性的になることなどの授業を多く受けさせられる。

 でも、交流禁止というわけじゃないので、会いに行くくらい問題なかったりするんだけどね。


「はぁ。昴ちゃんをモフモフしたい」

「ん~、課題終わったらね? そしたらお姉ちゃんに頼んであげる。家の中でしか妖狐の姿にはならないからね」

「ずるい。きっと毎日ミアちゃんは昴ちゃんの尻尾に埋もれて過ごしてるんだ」

「うっ」

 

 うわぁ、このはちゃん鋭い。

 私が暇があればお姉ちゃんをモフモフして過ごしてることが完全にばれてる……。

 お姉ちゃんが絡むと途端に鋭くなるんだから恐ろしい子!!

 普段は半開きな目をして眠そうなのになぁ~。


「むぅ。あっ、妖狐ってことは、いずれ尻尾が九本になったりするの? ミアちゃん」

「あっ」


 このはちゃん鋭い!!

 その可能性は大いにあると思う。

 ということは、モフモフした尻尾に埋もれて眠ることができるんじゃないかな?

 極上の羽毛布団で寝るような気分だよね、きっと!!


「このはちゃん天才でしょ!!」

「やった。私鋭かった」

「うんうん。はっ! もうすぐお社ができるんだっけ」

「お社?」

「うん」


 現在うちの近所に神社が作られている最中だ。

 そこには二柱の神様を祀ることになっていて、一柱は『禍津日神』で、もう一柱が『ココノツ』となっている。

 禍津日神は『大禍津』とも呼ばれる神で、八十禍津といわれる神の片割れとも言われている。

 ココノツは言わずと知れた私たちの父方のお婆ちゃんだ。

 ゲーム内で会うことができたけど、長身金髪で九本の尻尾を持った美人さんだ。

 白い肌に大きな胸、紅い瞳が特徴的な人で木崩した着物を着用している。

 ココノツお婆ちゃんが顕現することができれば、真っ先に九本の尻尾に埋もれて眠ることが可能になるのだ!


「ね、もしかしたらうちのお婆ちゃんが来るかもしれないから、その時頼んでみる? 九本の尻尾に埋もれさせてくださいって」

「!?」


 このはちゃんはすごく驚いた顔をしている。

 当たり前だよね、このはちゃんの言ったことがすぐにでも叶いそうなんだから。


「どうして今までいなかったの?」

「あはは、その作られている最中の神社と関係があるからなんだよね。まぁ気にせずにね? お婆ちゃん来たら教えるからさ」

「うん。わかった」


 そう返事をするこのはちゃんの顔は、すごく嬉しそうだった。

 お婆ちゃん早く来ないかな~。

いつもお読みいただきありがとうございます。


ちょっとだけ最近出てない二人の話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ