プロローグ
月明かりが照らす噴水広場。一人の少年がバッグを重そうに肩に下げじっと佇んでいる。
わき出る噴水を見ていた。少年はなぜ自分がそんなものを凝視しているかも何もわかっていない。
遠くからは唄が聞こえていた。少女と思われる声。しかし美しい歌声。
歌詞もなにも聞き取れなかったし、聞きたくもなかったが、少年は朧げな意識の中で悪い意味で今の自分にはぴったりな唄だと思った。
少年はバッグを頭上に高く上げた。水面の波紋が消えバッグを掲げている自分がそこに映る。
しばらくの間、ずっとその水面を見ていた。
そしてため息をひとつ吐くとバッグを肩に戻した。
「くそ……」
思わず、といった感じに毒づく。
「……捨てられないんでしょう?」
声が広場に響き、少年はぎょっとして声の主を見た。
少女だった。夏用の紫のパーカーを着ており、フードを深被りしてこちらからは表情が伺い知れない。ただ、その暗闇の中にふたつの眼だけがギラギラと輝いていた。先刻の歌の少女であろうか?
「え……」
「捨てられないんでしょう? それ」
知っているぞ、と言わんばかりにその眼がすっと細められる。
少年は狼狽した。この子はもしかして知っているのだろうか? 僕の秘密を。
そう考えた途端、猛烈な不快感が襲ってきた。
「……ね?」
その悪魔の目は相変わらず少年をじっと見据えていた。
▼
これは社会に適応できないならず者が、生きていく物語。
これはどんなことがあろうと一人の女性を愛し続けた、男の矜持の物語。
――歪んだ青春にけりをつけ、次の一歩を歩んでいく少年少女たちの物語――
▼
―Resonance Girl― 共鳴少女