伝説のサムシング エクスカリバール
神代の世界、お伽噺の世界に伝説の勇者の装備した何か、様々な作品に登場し、魔王退治にも使われて居るとされる伝説を持つサムシング、今では遺失物とされて誰一人見たことがない神代の神の奇跡。
古文書によれば伝説の何かによって残された爪痕は、所謂バールによく似ているという伝承があり、人々は奇跡が振るわれた痕跡を示す時、良く似た爪痕を残すバールに神代の言葉で神聖なものを表すエクスカリを組み合わせた造語『エクスカリバールのような痕跡』という言葉を作り出す。
元々バールという工具を指す名前自体がそれを作る組織名であり、その工具には実は正式名称がなかったことも伝説の何かを表すに相応しいとされていた。
だが日常で使うとすると、エクスカリバールのようなものの痕跡と言うのは如何にも長い、なので人々は神代の痕跡を表現する時『バールのような痕跡』と称するようになった。
そして人々は長い年月でその語源であった『エクスカリバールのようなものの痕跡』を忘れ、その傷跡を『バールのようなもの』と称するようになった。
更に長い年月が流れ、人々の記憶から伝説すらも風化し、消え去っていった現代。
お伽噺の中に残っていた存在である魔王が復活を遂げた時、伝説の何か神代の奇跡も再びこの世界に舞い降りた。
「俺は魔王を倒したいっ、世界をッ皆を救いたいッ!」
一人の少年が願う世界の平和を護る奇跡の残滓が、世界を救いたいと願う一人の少年の純粋な祈りに共鳴し、再び伝説のなにかは我々の世界を救うために舞い降りたのだ。
「これは、この神々しい光を放つバールのようなもの……、ハッ!これはまさか……、父さんが言っていた伝説は本当のコトだったんだ……」
少年の父は神の奇跡を研究する考古学者であったが、バールのような伝説のなにか等あり得ないと学会では爪弾きにされる存在だった。
幼少の頃に父が子守唄のように語った伝説の何かの物語、それを少年は大きくなるに連れて信じられなくなり、父親自体を疎ましく思い、最近は全く話さなくなった事を心から恥じた。
父は何一つ嘘など言っていなかった、魔王の復活も、それを滅ぼす伝説のなにかエクスカリバールの存在も全て事実だったのだ。
「うぉおおおおおお!!来ぉおおいいッ!エクスッカリバーーールッ!」
今亡き父親の想いを胸に少年は叫ぶ。
少年の咆哮に伝説のサムシングは呼応するように輝きを増してゆきながら、しっかりと彼の手に収まった。
それは少年が自ら平凡で幸せだった日常を捨て、神々しいサムシングと共に魔王と手下である魔物達の何時終わるとも解らない闘争の日々の始まりを決意した日の記憶。
彼はこれから出会う思いを共にする仲間の犠牲、戦いに巻き込まれた無辜の人々の散華に数えきれぬ悲しみを背負い魔物たちと戦い続けた。
数えきれぬ程の血が流れ、その犠牲に流れる涙も無くなった。
気付けば彼の側には誰もいなくなり、手の持った神代のサムシングだけが己の思いを支える全てだと信じて身体と心を摺り減らし、戦うことすら知らなかった両手を魔物の血で真っ赤に染めた果て、彼は世界を滅ぼそうとしている魔王と対峙する。
「漸く、漸くここまで来た……、魔王よ覚悟しろッ」
今、魔と人間の戦いの最終章、互いの命と世界の命運を賭けた戦いの最終劇がひっそりと闇に閉ざされた荒野で、厚く重い緞帳を開こうとしている。
「この伝説の……、父さんが信じて、俺に存在を教えてくれた神代の奇跡、エクスカリバールで貴様を消滅させてやるッ!」
「おい、ちょっと待てって、それどう見てもただのバー……」
「煩い、黙れ! 行くぞッ神気開放!エクスッカリバーッルッ!」
少年の裂帛の気合に応えるように、伝説の神々しいサムシングは圧倒的な貫通力で持って魔王の持つ瘴気を乗り越え、二つに割れた先端を鋭く突きてる。
何者も止めることが出来ぬ恐ろしい貫通力に、流石の魔王も驚愕と痛みの声を隠すことが出来なかった。
「ちょ!痛い、釘抜きが刺さった!やめてっ地味に痛い、ちゅうか勇者にそんなもんで殴られる魔王とか絵面がとっても酷いっ!」
「黙れと言っている!俺は貴様の存在を決して認めないっっ!!」
「お願いっ、お願いだから吾輩の話を聞いてええええ!?」
魔王の甘言に耳を貸してはいけないとばかりに、少年はその鋭く二つ割れた先端を引き抜くと順手に持っていたサムシングを逆手に持ち、重く硬い全てを打ち壊す破壊の力を開放していく。
「まだだっ、破邪の力よ今ここに顕現しろッ!必殺ッネイルッハンマァアーーーー!!!!」
「アイダァーーーー! 釘抜きの反対、ハンマー代わりに使える所で脛を叩かれるとめっちゃ痛い!」
少年の度重なる攻撃に怯んで膝を折った魔王に、彼はさらなる追撃を入れる。
手に持った何かを回転させて二つに割れた先端の反対、今まで持っていた柄の部分、その薄く鋭い先端を魔王に向けて構える。
「魔王、貴様の死を穿つッこれでとどめだっ!」
「ちょ、待てよ、そんなの吾輩に入んないって!無理だって!壊れちゃうって!」
「うぉおおおっ!立ちはだかる全てを抉じ開けろッ神梃ッロングテイル!」
神代の奇跡を開放した少年が目にも取らぬ早さで魔王に詰め寄り、世界を否定する存在を否定する一撃、神の息吹によって研ぎ澄まされた一撃で魔王を穿つ。
「アッーーーー!らめぇ~~~、そんな長い柄は入らないのほぉ~~!指定侵入工具だからって吾輩の中に入ってこないでぇえええ」
「神気開放ッ!開けッ!レヴァールールッ!」
魔王の存在全てを否定する貫通力、長大な柄の長さを利用した梃子の原理で凄まじい開放力が少年の手によって何度も生み出され、魔王の身体を激しく揺さぶり壊していく。
「んほっ~~~~、らめぇ~逝っちゃう!! 吾輩はこんな工具で逝くのやだああああ!!」
「貴様の死を抉じ開けたッッ、魔王よ無へ帰れ!」
「嫌ああああ!吾輩、こんな出落ちみたいに逝くのは嫌なのぉ~~~!!」
魔王の存在を維持するための悲しみに囚われた魂を集める器が、伝説の何かエクスカリバールによって無理やり開放されたその瞬間、魔王の器に詰まっていた全ての魂が魔王の断末魔と共に溢れだして霧散していく。
「魔王、貴様の敗因はその器を金庫型にしたことだ……、エクスカリバールは貴様が何重の防護を施したとしても、その尽くを抉じ開けて貴様を殺すッ!」
伝説のサムシングの力、神代の奇跡の全てを叩きこまれて消え行く魔王の残滓に背を向けて、彼は吐き捨てるようにそう言い切ると、この虚しい戦いの犠牲になった全ての人々の冥福を願い祈りを呟く。
「やっと、やっと終ったんだ……、みんな……、俺は皆の仇を討ったよ……、これでちゃんと天国に行けるよね……?」
喜びとも悲しみとも解らない言葉と、ただ少年の頬を流れる落ちる涙。
何も得ること無い虚しい戦いに疲れ果て、両手を真っ赤に染めた少年が長く苦しい悲しみしか残らない結果に肩を落として誰も待っていない自宅へと帰ろうとした時、彼の目の前に濃紺の衣を身に纏いし国家権力の番人がいた。
「あーそこの君、その真っ赤に染まったバールのようなものを持った、そこの君」
きっと先ほどの戦いの音を聞いた近隣住民がした通報によって来たのであろう、そう考えた彼は犠牲の多すぎた虚しい勝利に呆けた精神を現実に引き戻し、平和の番人に魔王との苛烈な戦いは全てが終わったと言葉を紡ぐ。
「大丈夫です……、もう既に全て終わりました、ここにはもう何もありませんよ……」
そんな少年の言葉を無視するかのように、番人は表情の感じられない能面のような顔で冷淡な言葉を紡ぎ始める。
「いやね、真っ赤なバールをのようなものを持った、いかにも行動が怪しい少年が彷徨いてるって、近所の方から通報があってねぇ……、少しお話いいかな?」
彼に職質をしたい、濃紺の番人が口にした魔王の血に染まったエクスカリバールを持つ彼の状況で持ちかける職質。
その言葉の意味は少年の社会的な死である終末を意味すると彼は理解した。
この少年はとても勇敢であり賢かった、だが一つだけ足らないものがあった。
「ちっ、違うッ!違うんだ!」
それは慎重さだ。
少年が血まみれの姿でバールのような物を持って徘徊している、この平和を愛する人々の住む世界では、このような行動が通報されぬ理由が存在しない。
「うんうん分かった分かった、怪しい人は皆そう言うんだ、だから続きは署で聞くから、大人しく車に乗ってくれないかな?」
魔王を倒した瞬間、彼は神代のサムシングを手放すべきだった。
「俺は無実だアアアアア!!!」
赤い光と大きなサイレンの中で少年は桜田門のシ者に導かれ、塀の向こうへの入り口に黒と白の存在に押し込まれてしまう。
その形が示す優雅で重厚なドアに見合った重い音だけが戦いが終わった荒野に虚しく響いて、重く低いエンジン音が虚しさだけを連れて消えていった。
これが伝説の魔王を滅ぼした少年の終焉、お伽噺の悲しい結末に彼の死は、魔王の残した最後の呪だったと思う人も居るかもしれない。
それは違うと私は言いたい、神代の奇跡は、伝説のサムシングは人の手には余る存在だった、ただそれだけだ。
人の手に余る大き過ぎる力を振るっていた少年は、度重なる戦いに明け暮れた彼は、その大きすぎる力を手放すことが出来なかった。
己の前に立ちはだかる悉くを叩き壊し貫き穿つ破壊力、その過剰な開放の力に飲み込まれ人の理を離れた彼を、平和を護る桜田門のシ者は世界に存在する事が許す事が出来なくなった。それだけなのだ。
我々は安易に神代のサムシングに手を伸ばしていけない、神代の奇跡は正しい目的を持たずに安易に手をしてしまえ、その大きすぎる力を恐れ濃紺の衣を纏うシ者達は牙を向き、時として所有者を滅ぼしてしまう。
それがこの世界の法則なのだから。
ありがとう伝説の何かエクスカリバール、纏った神々しいサムシングで立ちはだかる全てを開放していく姿を私達は忘れない。
そして、その名が正式名称ではない事、神々しいサムシングをなんの目的もなく所持していると、指定侵入工具所持でもれなく桜田門のご厄介になる事も私達は忘れない。
我々が平和を願う限り、彼のように誰もが神々しいサムシングをこの手に持つ事になるのかもしれないのだから……。