高校にて
✈︎
まったく、死んでからも面倒をかけるやつだ。
「逝けないよー 逝けないんだもの」
菅野美月は、両足を広げながら、そーっと机の下を覗き込んだ。
案の定、陽太が、体育座りをしてこっちを見上げている。
「・・・・・・そしてたったいま夢であるいた天の川もやっぱりさっきの通りに・・・・・・」
教室では朗読が続いていた。
午後に入ってすぐの授業。ただでさえ眠いのにテキストは『銀河鉄道の夜』だ。
しかし、美月は文章を追い続けなければならない。朗読の順番は次に迫っているのだ。
「ねえ、美月ぃ。逝けないったら、逝けないんだもの」
「うるさい」
美月は、股の間にむかって叱った。もちろん周りには聞こえないように声を潜めながら。
「だいたい、アンタ、学校に来るなんてルール違反よ。さっさと家へ帰んなさいよ」
「美月ぃ・・・・・・どうしてそんなこと言うの?」
陽太は、瞳を震わせ、みるみる顔を赤らめていく。
まずい、泣き出してしまう!
ツイてない時は悪いことがどうしようもなく重なることを、美月は熟知していた。
よりにもよってこのタイミングで、前の席の子が朗読を終えて着席した。
しんと静まり返った教室に、グズッ、グズッと鼻水をすすりあげる音が漏れ聞こえる。
美月は、慌てて、陽太をひざ下まであるプリーツスカートの中へ隠した。
まるでフサフサの子ダヌキを股下に挟んだような感覚と共に、内股に感じる湿っぽいその温もりは血を分けた弟の暖かさだ。
「次の人。続きを読んで」
国語教師の鋭い視線が突き刺さる。
立とうか立つまいか、ためらっているうちに、周囲からクラスメイトたちの緊張がひしひしと伝わってきた。
「では列を変えましょうか」
教師が美月を飛ばして新たな朗読者を指名した。
教室にホッとした空気が広がる。
「ほら、アンタのせいでまた変な空気になっちゃったでしょ」
美月は、スカートの中の弟の頭をぐいぐいと押してやった。
陽太は泣き止まない。
底抜けの甘えん坊なのだ。
淡々と朗読が続いていく中、風が流れてくる窓から、遠い雷鳴のような重低音が響いて来た。
空を見上げた美月の瞳に飛行機雲が映りこむ。




