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覆面被った厨二病

下の方から歓声、ではなく悲鳴が聞こえてくる。そして僕も悲鳴をあげている。まあ無理もない事だろう。なぜなら3階から飛び降りている真っ最中だからだ。


「いやこれ死ぬって!マジ死ぬ!頭からは駄目だって!」


飛び降りておいてどうして悲鳴をあげているんだと思う人も少なからず居るだろう。そんな貴方に質問だ。普通の人間が命綱も何も装備していないのに、況してや自殺志願者でもないのに飛び降りる勇気があると思うだろうか?


「クソ女…!絶対許さん!力だけ貰ってトンズラこいてやる!」


そう、飛び降りるのを躊躇していた僕の背中をニヤついた顔をしたジーナが突然、割と強めに押したのだ。


「あ、これもう死にました。もし死ななくても頭蓋骨折確定だわ」


本能的に手を伸ばし、頭を強打する事だけは避けるよう極力努力し、地面に接触した。


「死ん…でない?手も折れてない。そして動けない…って傘は!?」


叫んだ直後、頭の旋毛辺りに鋭い痛みが生じ、目の前に傘が落ちてきた。一瞬何が起きたか理解できなかったが、上から聞こえてきた言葉ではっきりと分かった。


「お疲れ星流くん。また化け物が出たら頼むよ?」


風に乗って動く傘を3階の高さから旋毛にピンポイントに当てやがったのだ…なにそれこわい。


当然上から人が落ちてきたら人集りが出来るわけで、マスコミも聞きつけて駆けつけるわけだ。


「あの、すみません。お怪我はありませんか?無ければ少しインタビューさせて貰っても宜しいでしょうか」


「ん?やだな、あんな高さから落ちたのは僕じゃないですよ。流石にお亡くなりになられたのでは?」


適当に誤魔化す事にした。


「あはは、貴方はその建物の前に座っていたじゃないですか。目撃情報も出てますし」


「あ、えっと、たまたま…」


まあ無理がある言い訳だったと自分でも思う。その通り、僕は地面に着地したところから1ミリも動いていない。非常に面倒な状況である。


「とにかく僕は何も知らないので、じゃさようなら」


傘を差して逃げる事を選択した。これ以上何か良い言い訳が思いつきそうもなかったし、顔でも撮られたら何かと面倒になるのは間違いない。


「逃げるって言っても傘差しながらじゃ全力疾走できないし、騒ぎが治まるまでどっかの建物に隠れないと」


吸血鬼の力を外すという選択肢もあるが、それはもう一度先程の場所に戻って寝そべっている彼に掌を向けなければならないという事だ。流石にリスクが大きすぎる。


「あ、寝かせたまま放置してたけどあいつ解剖とかされないかな…」


「想像で創造される四角の建造物。汝、騒々しい世界を遮断せよ。視覚可能は資格ある者のみ。よって乱入せし刺客無し。滅せよ、滅せよ、滅せよ!」


あ、なんか覆面被って変な事言ってる変な人がいる。目を合わせないように下向いてよっと。


「さあ、そこの若き者よ。…何も思いつかん。こっちへ来い」


なんかあの変人に声をかけられた気がするけど、多分別の誰かにかけたんだろう。周りに人が居ないのも気のせいだ、素通りしよう。


「深淵なる地、神炎で灯せし」


うわ、またなんか言ってる。こわ。


「神炎で灯さぬ限り、我が深淵からは神縁ある者でも逃れられず」


神縁っていうのは神に縁のある人っていう意味じゃないんですけど?使い方間違ってますけど? …落ち着け、揚げ足を取ってる場合じゃない。


つまり神炎で明るくしないとここから出れない?いや充分明るいけど…なんだ、やっぱりただの痛い子か。


「誰が痛い子か、我が望む神炎とはお主。さあ黙り込んでいないで中へ」


「心読まれた…?いやだってどう見ても年下だしなんで覆面なんか被ってんだよ。日光キツイし傘持つのめんどいから遠慮なくお邪魔するけど」


どこかで見たような真四角の建物は外装と内装、どちらも全く施されておらず、客に硬い床に座れと言っているようなものだった。まあ入口と出口が3階にある建物よりは100倍程マシだが。


「早速尋ねるが、若き者はジーナの力を分けて貰ったんだな?おまけに吸血鬼の力をコピーしたと」


覆面を付けたまま床にペタンと座り、僕に問いかける。


「その通りだけど、そんな大声で話して大丈夫なのか?」


「何がかな?若き者よ」


「いや、外に居る人に聞かれたらまずいでしょ。ジーナにも知り合いや家族には言うなよって言われてるし。」


覆面は笑い出す。これ絶対あれだ、今更感凄いけど厨二病だ。


「私の詠唱を見ていただろう?資格ある者、つまりあっちの世界から来た化け物を退治する者以外はこの建物と中に居る者を見れないのだよ。」


「ふーん、よく分かんないけど凄いなそれは…」


ただの厨二病じゃなかったのか、とか最後の『滅せよ、滅せよ』って要らないんじゃ?とか指摘したかったが心の中に留めて置くことにした。


「ついでに言うと若き者が3階から突き落とされた時、下に居た皆からは天から人が降ってきたように見えていただろう」


3階の華琉亜に変身したジーナに怒鳴ってたのは周りからどんな目で見られていたのか、それは考えたくもなかった。


「然しあの高さから綺麗な着地も決めちゃったし、そりゃマスコミも駆け付けるよな。そして天から傘が降ってきて…あーあ、新聞の1面記事にでもされるのかな」


それとも2年後辺りに未確認生物としてテレビデビューするのだろうか…そんな妄想はやめておこう、マジで有り得そうで怖い。


「つまり覆面くんがあの建物作ったってことで良いのか?」


「うん、すまんな。あの時は時間が無かったから速さ重視で作ったのだよ」


僕は冷静になって今の状況を確認してみることにした。 まず、僕に協力を依頼した美人のお姉さん。次に危ない時に駆けつけてくれる最強のショタ、この子は気分によって来ない時あり。そして今現在会話している、外界からの視線、視覚を遮断する建物を造り出す厨二病…


「なんだこのパーティ。特に最強のショタとか建物生み出す厨二病とかキャラ濃すぎだろ」


「おい若き者よ、いま我を愚弄したな?」


「だって外界から無関係な人の視線を遮断してくれるのは有難いんだけど、逆に言えばそれ以外役に立たないから外から傍観してますって事でしょ?」


「…そういえば弱き者よ、貴様はいま不死身らしいな?望むならば切り刻んでやろうか?」


「僕は死なないけどやり合ったら君が死ぬぞ?うふふ、まあ止めておけよ厨二病」


正直に言う、この子を舐めていた。いや変質者じみたことをしたカミングアウトではなく、この子は建物を造り出すこと以外は何も出来ないと思い込んでいたのが甘かった。


「憎き彼奴の両腕両足を束縛せよ、我が力」


四角い手枷、足枷がいつの間にか僕に付けられていた。どうやら建物以外にも四角い物は何でも作れるらしい。


「詫びる言葉はあるか?弱き者よ」


詫びる気など無いし、不死身な為死ぬ心配もないから鼻で笑いながらこう言ってやった。


「厨二病」


覆面を被った厨二病はたいそうお怒りのようで、左手を硬質化し


「…ふざけるな」


切りかかられる3秒ほど前、入口から見覚えのある子供が入ってきた。僕の首をちょんぱしたショ…子供だ。


「おいおい、何をしているんだ。ふざけているのは誰かな、覆面の痛い人」


「イロハ様…お詫びします。弱き者が私を愚弄したのでつい」


なんでこの覆面はイロハちゃんに様付けなんだろう。あ、男の子にちゃん付けも変か。


「…ジーナの力を半分貰って吸血鬼の力をコピーしたお兄ちゃん。覆面の痛い子は怒りやすいから気を付けるんだぞ。ジーナと君より弱いのは確かだけどさ、さっきみたいに動きを封じられたらどうしようもできないだろう」


「確かに厄介だな。おい覆面厨二病、どういう経緯で喧嘩になったか忘れたけど謝るよ」


頬を膨らませて、なんて言っても膨らんでいるか確かめる術はないがどうやらまだ怒っているようだ。


「黒より黒く、闇より暗き漆黒に」


「ちょっと待ってそれアウト。いや火力高すぎて僕が灰になるから駄目とかじゃなくてほら著作権的に」


「…破道の九十」


「九十を詠唱破棄とかどっかの鏡花水月もびっくりだよ…それもアウトだ」


「あ、ところで若き者よ、私の力は四角い物を生み出すだけじゃないんだぞ?」


いや切り替え早すぎだろ。っていうか危険だコイツ、著作権侵害しまくって作品を強制的に終わらせる気か?


「森の奥底を長きに渡り守りし聖獣よ、神秘なる森の守り神よ、今ここにその姿を示せ」


僕は覆面の詠唱に期待が高まる。森を守る聖獣、厨二心を擽られるフレーズだ。


「……あれ?来ないぞ?」


「当たり前だろ星が流れるお兄ちゃん。あっちの世界で神秘なる森を守っている偉大な聖獣がさ、こんな覆面被った変人のために出てくるわけないじゃないか」


「あっ…盲点でした。流石イロハ様」


イロハちゃんの説明に僕と覆面は納得する。


相手の気持ち、聖獣の気持ちになって考えてみよう。森を守る使命がある自分を何処の誰かも知らない奴が呼んでいる。おまけに覆面被った変な奴…さて、どちらを優先しますか?


「然らば…汝を取り囲むは鳥籠、然し我らは自由を約束しよう…哀れな鳥よ、採れ、捕れ、盗れ!全ての終焉の地で生き残りし執念、汝を終焉に追い込んだ者への絶望を糧に我らとの出会いを渇望せよ!」


詠唱を終えた覆面の前に魔法陣の様なものが生成される。どのような鳥が出てくるか楽しみで仕方が無い。


「僕とキャラが被る不死鳥か?地獄から這い上がった獄炎鳥か?さあ、出てこい!」


「クルッポー!…なんだお前、うるせえな。俺を呼び出したのは誰だい?」


魔法陣から出てきたのは、白い綺麗な鳩でした…人の言葉を喋る変な鳩でした…


「因みにこれはただの演出だよ。彼女は魔法使いなんかじゃない。」


「え」


ずっこけた

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