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妖手刀

痛みなど感じなかった。故にこの時の僕は何が起きたかも分からない。しゃがんでもいないのに視界が下に落ちて、顎の辺りに少し痛みを感じた。その痛みは落下した事によるダメージだろう。


どんな刃物を使用したかは後に説明させてもらうが、頸動脈を切断されてしまった。死んでいてもおかしくはない。否、死んでいなかったらおかしい。人間ではない。


「急に何かな?イロハ。」


僕の首をちょんぎったサイコパスの名前だ。


「ジーナの力を半分もあげたのにボクに気付かないってどうゆう事なのかな、生首のお兄ちゃん」


床が血だらけで、身体が動かない。自分の現状も何ひとつ確認出来ない。


「血…どう…いう…?身体が…なま…く…び?」


そこまで口にして僕はやっと気付いた。何故身体が動かせず、ずっと壁を見つめているのか。


「星流くん、後ろを見たら精神が壊れてしまうかもしれないが、どうする?」


「…残念、後ろ向く前に気付いちゃったよ。想像もできた…そんでもってメンタルはとっくに壊れた」


ジーナの手の感触を堪能して一緒に後ろを向くと、何と言うか、想像を遥かに超えていた。


当たり前の事だが自分の身体に顔が無く、首と頭の繋ぎ目から血が…


「流れて…ない?」


それは矛盾している。だって、だって顔の周りは血だらけだったのだ。その証拠に顎から血が滴り落ちている、有り得ない。


「不思議そうな顔してるね?生首のお兄ちゃん。安心して良いよ、貴方の首はできるだけ損傷が無いように弾いたから。」


偉く透き通った女声の男性、見た目的に男子か。発言から察するに彼が僕の首をはねたらしい。


「何処からか見てたんだろうけど、吸血鬼をコピーしていなかったら即死だったんだぞ?…イロハ、2度と星流くんに不意打ちなどするな。良いね?」


こんな表現をするのは初めてだが、優しく僕の頭を嵌めてくれたジーナに少年は拗ねている様子だった。


「このお兄ちゃんは甘く見すぎなんだよ。ボクが味方で優秀な人だからそれくらいの出血量で済んだけど、もし背後から忍び寄ったのが敵だったら?」


「良いかな?元々彼は平和な世界に住む人間なんだ。いきなり戦闘慣れしろと言っても無理があるだろう。」


睨み合い、今にも争いを始めそうな2人に僕は慌てて質問を投げかけた。


「…イロハちゃんはジーナと同じように異世界から来たんだろ?僕達と接触する必要はあるのか?」


「大有りだよ生首野郎。ボクはあれだ、ピンチヒッターだ。」


「いやなんか口悪くなってますけど?」


つまり僕とジーナが苦戦している時、若しくは死にそうな時に敵を倒してくれるちゃっかり屋さんだ。


「おいおい勘違いするなよゴミ虫。ボクだってあっちの世界でやる事があるし、何かと忙しいから来れない時も有るんだぞ。頼ってくれるのは有難いけどさ、面倒になって来ない時もあるから頼りすぎるのはやめてくれよ。」


「色々ツッコミ入れたいけど尺の都合上分かったって言っておこう。成る可くイロハちゃんには頼らず自力で勝つようにするよ。」


「星流くん、自力じゃなくて私の力なんだけどね。じゃ、頼んだよイロハ。」


「あーい」と先程の緊迫した空気は何処へやら、といった感じの緩いやり取りを終えると、僕はイロハが3階の高さの窓から何も躊躇う事なく飛び降り、何処かへ行ったのを確認してジーナにある事を問いかけた。


「本当に質問ばっかりで悪い、聞きたいことがある。あいつはどうやって僕の首はねたんだ?鋭い刃物なんか持ってなかったよな」


1番不可解な点だ。携帯式の包丁やナイフでも勢いをつければ切断できそうだが、背後から切られた時は勢いも無く、通販番組風に言えば首が豆腐みたいに簡単に切断された。


「素手だよ。まあ素手って言っても」


ジーナの手刀が肌色から鋼色に変化して、神々しく輝いていた。


「彼はこんな感じに左手を硬質化して日本の名刀よりも切れ味を良くしていたよ」


「…それ、僕も出来るか?」


「うん、私の殆どの力を半分与えたから君は右手を硬質化できる筈さ」


ジーナの真似をして手を刀の形にすると僕の右手は見る見るうちに硬質化した。


「すげえなこりゃ…更に」


「更に?何をするつもりなのかな?」


「いやね、左手でこの手に吸血鬼の力を送るとどうなるかなって」


ジーナの驚いた顔を初めて見れただけで収穫ありだが、「名刀より切れ味を良くしていた」という言葉を聞いて閃いてしまったのだ。


「成程、非常に興味深い。やってみるといいよ」


許可を得たところで僕は自分の左手をカチカチな右手に向ける。すると鋼色だった右手が漆黒に染まっていった。


「おいジーナ、これは大発見だ。」


「本当だよ。20年くらい生きてきたのに今までこんな事思い付かなかった。おそらく敵に付与効果を与えるのだろうが、吸血鬼の大きな特性は不死身だ。残念だけど使い物にはならないだろうね。」


僕とジーナだけが出来る技の完成である。


「…良し、決めたぞ」


今は使い物にならないけれど、折角だから、付けておこう。


「ん?何をかな…ひょっとして」


折角のオリジナル技だから。


「ご明察だよ」


名刀よりも切れ味の良い刀に更に付与効果。


「この漆黒の手の名前だ。」


刀に付与効果。例えば火を出す敵をコピーすれば、この手が火を噴き出しながら斬りつけるという認識で間違いないと思う。それはまるで妖刀だ。


「いや、妖刀じゃないな。妖手刀だ。」


「ネーミングセンスにとやかく言う気は無いけど、なんかシンプルだね」


「バカ、それが格好良いんだろ。シンプル・イズ・ベストだ」


訳分からない事ばかりで正直混乱していた。突然首を飛ばされたり、手が硬くなったりしたけれど、2度と出来ない経験な事は間違いない。精一杯楽しもうと心に誓った。


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