直球の大暴言
「やれやれ、2人して馬鹿面で突っ立ってるんじゃないよ」
声がした方を振り向くと、右手で目を瞑った大人のアーテクトウルフ、ラルネの父のトーレスを摘んだイロハの姿があった。
「おと…父上!?なんで後ろに…」
「星流高橋のあんちゃんのコピーが厄介だからって奇襲しようとしてたらしいよ。まあ練習中も隙だらけだったけどね」
「星流高橋のあんちゃんって…お前車のCMでも見たのか?」
僕以外の異世界組がポカーンとした顔で僕を見つめてきたのを見て、せっかくボケたのに通じない悲しさと同じネタで笑い合えない疎外感から、「なんかごめん」と取り敢えず謝っておいた。
「さて、お父さんの処置はラルネに任せるよ。どうする?」
「他の方と同様で問題ないです。父だけ責任を逃れるのは良くないでしょう。父なりのプライドもあるでしょうし」
「了解。あとはこっちでやっとくから皆は帰っ…」
イロハの顔が青くなっていく。いつも冷静な彼ががこんなに取り乱すのはあいつの話をした時以来だ。
「邪神デビル…?何故…っ!皆、早く帰れ!」
「イロハ、私も戦うよ。この剣もっと使いたいし」
「忘れたのか、『デビル』の能力は集団での戦闘を無効化する。居た方が逆に危ないんだ。」
立ち向かったところで勝機は無いが、1人残るのが1番安全だ。それは理にかなっている。でも残るのはイロハじゃない。子供を残せないとかそんなふざけた理由じゃなく、コピーというチートな能力と不死身という無敵な防御を持っている僕が適任だと思うからだ。
「…そうか、じゃあお前らは早く帰れよ。僕が食い止めとくから」
「…何を言っているんだ、無謀なお兄ちゃん。僕でも5分ももたないんだぞ?」
「ラルネ、離れても能力使えるか?空に蓋しといてくれよ、僕はまだ空に浮かせるのできないし日光で弱ったままじゃ流石にきつい。」
「う、うむ。可能だ、御意。」
「ジーナ、ボー爺のとこと僕も繋がれるようにしてくれ、あとその剣も渡してくれるか?それとイロハとラルネを連れて一旦僕と出会った所まで帰ってくれ。以上、頼んだ」
「分かったよ。死ぬつもりじゃないんだよね?星流?」
僕はジーナから剣を受け取った。クソ重い…ジーナはこんなん平気で持ってたのか?
「そんなつもり無いし、手足切断されて自由奪われたりしないから大丈夫。…よし、じゃあな。」
ジーナたちが逃げるのを待つように、空中から白と黒の翼をした神魔がゆっくりと降りてくる。
「ふむ、仲間は逃げたのか?お前1人を残して。」
「おお、お前が怖いってさ。僕もお前のこと怖いから逃げていいか?」
「今は敗走も許そう。しかし、後にどうなるか分かるな?平和ボケした人間よ」
バレないように、ゆっくりとコピーする為にやるべきなのは挑発で、相手に掌を向ける『5』が言葉の中に入っている挑発だ。
「5分で…えーと、あー、んー…死ね!」
ケリをつける、なんて言葉が出てこなくて最強の相手につい暴言を吐いてしまった。
暑いです。ここまでちゃんと見た人は水分取りましょう。