アーテクトウルフの能力
僕は硬質化した手と名刀『月華』で何とか鉄球を受け止める。『月華』を握っている右手からは力を込めすぎた為か血が滴り落ちていた。
「痛つ…よっ、覆面。面倒だからラルネって呼んでいいか?」
僕は少年漫画の主人公を気取りつつ、ラルネの覆面を剥がす。すると、鉄球を飛ばしてきたトーレスと似た獣の顔が顕になった。
「なっ…!?貴様、我が名を何処で…って覆面を剥がすな!」
「イロハから聞いたんだ。お前はこの刀持って下がっててくれ、親子じゃ闘い辛いだろ?」
ラルネの能力をコピーして、フサフサの頭と耳を充分に撫でたついでに腹を触ろうとしたら殺意のある眼光を向けられてしまった僕は仕方なくトーレスと向かい合った。
「建物専門のアーテクトウルフとやらが何で悪さしてるかまでは知らんけど、大人しく捕まってもらうぞ、がっはっは」
「…力を分け与えて貰ったばかりの子供が粋りやがって。おいラルネ、しっかり自分のこと守っとけよ!」
獣人が掌で空中をなぞると無数の鉄球が瞬く間に空中に浮かび、僕を襲う。まだ能力を使った事がない僕はどうやって壁を作り出すのか分からなかった。やばいどうしよう死ぬ、いや今は不死身だったか。…ん?いやまて、コピーの上書きって出来るのか?あ
「安心して、さっきまで蚊帳の外だった私が全部切り落とすから」
いじけ気味に前に出てきた蚊帳のソトーナさんが煌びやかな剣で一閃すると全ての球が砕け落ちた。
「おいおい、何だあの剣。俺の鉄球達を一撃か。これじゃ何回攻撃しても同じことになりそうだ…壁作って様子見るか」
「助かった、ありがとうジーナ。…それにしても凄い剣だな、見た目もそうだけどたった一太刀で砕くなんて」
「ん?体は私たちと同じになっても視力はまだ追いついてないの? 11回は振ったと思うけど」
「11回…?あ、嘘ついたなお前。視力追い付いてなかったらあんな剛速球止めれないだろ」
ジーナは驚いた顔をしているつもりなのだろうが、ひょっとこの様な完全にバカにしているとしか思えない顔をしていた。
「よく分かったね、嘘だよ。…で、どう?力の使い方分かったかい?」
「ああ、攻撃の仕方はあいつの動作真似ればいいだけだから問題ないけど、壁の張り方が分かんなくてさ」
「ラルネは攻守どっちも同じ動作だったけどね…うーん、イメージの違いなのかな?攻撃は粒を空中にいっぱい並べるイメージで壁は分厚い壁を前に作り出すイメージとか」
理屈は分かるが、一瞬でも壁を作る時にイメージが粒に変わったりしたら大ダメージを負ってしまうな…アーテクトウルフなら容易なのか?
「よし、星流くん、そこに立って」
「ん?一体なにを…」
指定された場所に立った瞬間ジーナの指先から気弾のようなものが出てきた。かなり威力も高いようだ…ってバカ。こんな至近距離で強く撃つやつがあるか!壁!てかそれかっこいいから教えろ!
「おお、ちゃんとできたね、やったじゃないか星流くん!」
「殺す気かマジで……で、親子共々壁に引きこもったままだけどどうしようか?」