依頼人
ぶつくさと独り言を言いながらも、僕の足は空に浮かぶ変な物体がある方へと向かっていた。
「然し吸血鬼ってのは不死身なのは良いけど不便だな…日光が出てる間は傘をさして行動しなきゃなんないから走るわけにもいかないし…?」
目の前から不気味な人物が歩いてくる。黒い帽子に黒いサングラス、そして黒いマスクに全身黒ずくめ。所謂不審者という種族だろうし目を合わせずにすれ違おうと思った…が、何やらこの人物からただならぬ雰囲気、まるでこの世界とは違う所から来たような違和感を感じ取った。
「黒ずくめのお方。何か落とされましたよ?」
声をかけた瞬間コピーをして手を後ろに組むと、不審者は声も上げず無愛想に振り向き、コートのポケットやらズボンやらを手探りで探し出す。まああまり太陽出てないのに日傘差してる僕も不審者だとは思うけど。
「別に何も落としてないと思うが」
「いやいや、大事な物を落としてますよ。ちゃんと探しました?」
「…何を?」
僕は腰に当てていた片手を前に出す。
「うーん、何だろうね。片手で収まるくらい小さいけどこれはダークエルフの銃…いや、文明的に弓と言っておこうか?」
知る限りではエルフ関連の文明は弓や槍などを使っているイメージだったが、僕が持っていたのは禍々しい紫色をした銃だった。
「カエセ…私の武器をカエセ!」
「こわいこわい。取り敢えずたこ焼きでも食べながら落ち着きましょうや?その後にかえしてやるよ。」
僕がジーナから貰ったのは大きく分けて2つだけだ。1つ目は単純な攻防力、2つ目は能力や道具をコピー、日本語にすると複製する力だ。相手から奪う事は出来ず、複製した時に相手が失う事も無い。つまりこのエルフは武器をしまっている所を確認もせず、ただ喚き散らしているアホである。
その後、年齢不詳の不審者はたこ焼きを与えると武器の事を忘れたかのように飛びついたので色々聞き出す事にした。
「成程、人間にあっちの世界の種族のエキスを配る仕事ねえ…」
「そう、私は鳥人のエキスを渡された。同族のエキスは渡したくない、なんて言う奴がたまに居るらしくて同族のエキスは頼まなくなったらしい。」
この通り聞いてないことも喋ってくれるので気が楽だ。
「で、誰なんだ。下っ端にそのエキスを配る仕事を与える奴は」
「トーラス・スコットモンドっていう半獣族だな。彼は凄いぞ?何せ建物を一瞬で作ってしまうんだ」