序の二 入学試験当日 その2
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紬は、この高校の技術関連の長である渡辺・綱吉と言う、数本ネジが飛んでそうな。七十七式のスペアボルトでもねじ込んでやろうかと思うほど、テンションの高い老人の許可を得て、短い時間の為、即座に同期作業に取り掛かっていた。
ゴーグルを左目に取り付け、七十七式の操縦槽の配電基盤にある端子に、有線でアクセス。まずこのゴーグルの一時的な使用の認証を取得。
取得すれば、有線から無線に切り替え。空間投影されたタッチパネルを使い、各関節部分の負荷や、駆動機の出力などをリアルタイムに網膜に投影するように設定する。
次に、機巧兵の降着状態で出力調整ペダルをやさしくそっと踏み、出力係数の上げ下げと、サスペンションの効き具合を確認してから。
「音声認識による自動および手動の切り替えON/OFF設定を認可、よしOS側から来たな、次は・・・・・・」
紬が作業する中、四号機のフレームをタラップや、整備用ハンガーを使わずに直接よじ登ってきた、元気でアクティブな老人である渡辺が、
「ほうほう、操作系の完全マニュアル時の僅かな指先の動作以外に、無駄な時間を割きたくない故の、音声認識かの」
隣で口喧しく、作業工程の意図を正確に見透かしてくる。更には、
「渡辺先生、なんですこの子。コンバットOSの戦術動作までフリーにして、これだと常に環境に合わせてマニュアルで最適化し続けないと。不整地だと構えることさえ出来ませんよ」
「あわわ、オートバランサーが最低限しか機能していないとなると。旋回加速の状態からバランスを崩して、こけちゃいます」
渡辺が、四号機に張り付いているのを見て、先ほど指示していた大柄な生徒や、起動プラグを挿入した少女などが作業の手の空いた数名が整備ハンガーのタラップから同じように覗いていた。
・・・・・・どうしてこうなった。
紬自身としては、さも当然の調整を行っているだけで、ここまで驚かれるのは心外であり。
「コンバットOSの戦術動作は前もって登録しておいたものと、同じ動きしかしません。頼るな、とは言いませんが機巧兵同士の戦闘。特に、今回のような近接戦闘だと巧い相手だと読まれますし、頼り切りの相手だと初動を読んで楽に潰せますから」
言えば、なるほど。などの感嘆の声や、逆に出来るのかと言う猜疑の声も聞かれる。
・・・・・・なぜ、そうするのかを簡易的に説明しているのだろうか、普通は自分が説明される側だろうに。
既に、隣の参号機がコンバットOSを頼りにスムーズに、ゆっくりと起立状態になり整備ハンガーのタラップが外され。試験会場に向かって行っている状況だ。
参号機と入れ替わるように、試験会場となっている広場からは弐号機が戻ってきていた。
背部ハッチを開け、肩で息をするほど疲労困憊の学生が、動かす気力も無いのだろう自動運転モードでハンガーに収まろうとしているところで一度停止、ゆっくりと踵にあるローラーを使って反転している最中だ。
このペースならあと、10分程度で試験開始か。
調整はほとんど終わったとは言え、耳元や、頭の上で、自分のまだまだ目標とする領域に達しない技術で、本格的な話し合いをされるのは少し恥ずかしく思える。
最後の仕上げ。各部間接の検知器からOSに送られてくる摩耗状況を計算して、常時適応させる為のを計算し。次回起動終了時、つまり、試合終了後に。速やかに現設定を破棄し、自分が設定する以前の状態に戻す指示を出して完了。
「ふぅ。基本的な調整と立ち上げは終了しました。あとは、試験を待つだけですね」
紬は、左目のゴーグルの縁を触り、待機状態にしながら。周りの学生や、この老人に声を掛けた。