序の四 春の宴にて02
今回は短め。
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環伎が端末を操作し、ぐるりと彼女を囲む様に表示枠が空間に投影される。全て表示枠に裏面に透けない設定なのか、個人情報保護機能が作動し、その内容は読めない。
その表示枠の一つを、指先へ正面へ。操作は、手慣れた片手での三動作で、相手を呼び出す一動作を残し。
「父さまに、一度報告しますので。今回発注した場合の見積もりや、問題が無ければ前回国防軍が発注した時の発注書などを見せる事になりますが宜しいでしょうか?」
「はい、大師様。概算で良ければ見積もりの方は直ぐにでも。国防軍関連の発注書も、個人情報を除いた物であればご用意できますよ」
「では、それでお願いします。通話部分だけ、オープンに致しますね」
環伎は、イーノの返答を聞いて、最後の動作を行い。電子的な呼び出し音が数度、静かな店内に響き渡り。
表示枠に表示されたのは、白髪頭を丁寧に撫で付け、手入れの行き届いた口ひげを生やした眼光鋭い男性。
『もーしもし、環伎ちゃん。パパだよぉ、帰りが遅いから心配してんだゾ』
そして、表示枠の両端にある円形の仮想スピーカーから放たれる言葉は、見た目とは大きく食い違う娘を溺愛しすぎる父親の姿。
「あの、父さま。お電話に出るに当たっても、三公大師家の現当主として・・・・・・、いえなんでもありません」
環伎は父親の電話口の態度を窘めようとして、諦め。恥ずかしさの余り、顔から火を噴き出さんばかりに赤面しており。
閉店間際の為、店内を軽く清掃しようとした紬は、用具入れから取りだした箒を思わず手から離し、床に落として盛大に音を立てる。
イーノは、接客中であり、お客様に失礼の無いように冷静を装っているが。感情を表すとがり耳の先が細かく震わせ、笑いを堪えている。
それに気づかず環伎の父親は、
『三公大師の名も伝統も大事だけど、パパとしては家族が大事。それで、今どこかな?屋敷の皆が言うには、五稜門高校入学の準備品を見てくるって出掛けたみたいだね。環伎ちゃんの背景を見るに、包丁屋さんかな?あれ、物音がしっかりと聞こえるね。この通話はもしかしなくても、オープンなのかいっ!』
「はい、父さま」
紬が落とした箒を拾い上げる、その気配に気が付き。周囲に人が居ると判ると、居住まいを正し。咳払いを一つ。
『そういう事は早く言いなさい、環伎。それで改めて聞くが、今どこに居るんだい?』
「はい、今は堺の五稜門高校の近くに。国防軍の弓姫が愛用している、あの黒緋金の西洋弓を製造した工房にお邪魔しております」
『京都にあったかな、堺の五稜・・・・・・、五稜門っ!大阪中部じゃあ無いかっ!』
皇宮のある京都から、国鉄と私鉄を乗り継ぎ。途中で、何事も無ければ五稜門までは二時間ほど。しかし中学生が保護者無しで移動するのには危険が伴う。
――― 特に、大阪環状壁上の装甲鉄道は治安が悪い地域と接しているせいか、鶏冠頭の”略奪者”や、大陸系流民が散発的に襲撃してきて運行時刻に乱れが生じるんだよなぁ。
そのおかげで、小学生の頃は学校が休みになったり、日曜日に振替授業があって、日曜アニメが見れず土岐がキレて”略奪者”の巣窟に殴り込んだりと。ある意味に、ある一点に置いては充実した日々を振り返る。
それに夕方の件もあり、扶桑がまたきな臭くなってきた気配も有り。
「化蛇の件は、従兄弟殿に話すとして・・・・・・」
化蛇を最終的に潰したのは、当時自分と同じ小学生だった従兄弟であり。紬は、今と同じく周囲のお掃除を、ただ箒が機巧兵で、ゴミが化蛇の構成員という違いだけ。
ちりとりは、放てば真っ赤な徒花が、幾つも咲き誇ったと、それだけの事。
紬は砂埃を掃き集め、ちりとりで掬い取ると、そのままゴミ箱へ捨て。
「この埃みたいに何度掃除しても、いつの間にか居るのは、どうしたもんかねぇ・・・・・・」
箒の柄に両手を置いて顎をつけ、電話中の環伎の可憐な横顔を見て、荒んだ心を癒やしながらも、溜息をついた。
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最近色々と忙しくなかなか時間が取れないのが辛い
本編に出したいキャラや、展開はプロットという名のメモに羅列していると言うのに・・・・・・




