KING of ATLUS <王宮廊下にて。>
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「はーぁ?ばーっかじゃねぇの!?」
「う、うるさい!
ば、馬鹿とか罵るな!!嬉しくなる!///」
「ぅゎ、ロゼッタきもぃ。」
「ありがとうございまああああああッすッッ!!!///」
そんな会話を繰り返している二人の青年。
片方は、美しい黄金の長髪によく映える蒼い瞳、
腰にはレイピアを所持している。
そしてもう1人は、
やや長めの山吹色の髪を荒っぽくまとめており、
瞳の色は派手な蛍光黄緑色をしている。
「で、その話はただの噂話じゃないと?」
「あ、ああ!確かにこの耳で聞いたんだ。
間違いねぇよ!」
少々興奮気味に山吹色の髪の青年は答える。
彼の名は『ロゼッタ=グランベール』
アトラス王国軍の花形と名高い、
コローレの一員だ。
【コローレ】とは、俗に言う、
アトラス王国軍騎士団長の総称である。
アトラス王国軍の主戦力となるのは、この10の騎士団であり、
そのため花形と呼ばれるのだ。
そもそもアトラス王国は軍事国家に属する。
政治体制ももちろんのこと、国民も好戦的な為、コローレ達は元老院と同格の権力を持っている程だ。
ロゼッタが有するのは【ノワール騎士団】
剣術に関しても、統率に関しても、
優秀な騎士団だ。
簡単に特徴を述べよと言われれば玄人ならこう
答えるだろう。
"バランスはよく取れているが
気難しい団員が多く、扱いづらい騎士団だ"…と。
彼らは少々頑固なところがある。
それはいい意味と捉えることも、
悪い意味で捉えることが出来るため、厄介なのだ。
しかし、ロゼッタの性格と相性が良いのか、
彼らがロゼッタに反抗しているところは
未だかつて見た者はいない。
「ふぅん?
まぁ、お前の耳を信じるわけじゃないけど、
ルウィスの事だ、きっと成功したんだろうね。」
「あ゛!?
てっめ、さりげなくひどい事言うなぁ?!」
そう、
ロゼッタはルウィスの実験成功を聞くやいなや、
わざわざサニィに報告しに来たのだ。
「罵られて嬉しいくせにぃ?」
「あ、あ、ありがとうございまs……違ぁう!!」
このロゼッタ、残念な点といえば直ぐにわかるであろう。
…彼は皆が認めるマゾヒストであった。
本人曰く、「謙遜は紳士の証拠」らしいが、
彼は謙遜というよりも周りに手弄られているようだが。しかも「紳士」と言うのはあくまでも自称である。
そして 風に靡く髪を耳にかけながらもう1人の青年は1度手持ちの資料に目をやる。
ロゼッタはその様子を見ながら、
「喋らなきゃ、お人形みたいでかわいいのにな」
とため息をこぼす。
そのお人形みたいで可愛らしい青年。
彼は
『サニィ=プレイアス (又の姓をレッツァリウス)』
この青年も、コローレに属す。
彼の人生は多難であった。
母は幼い頃に亡くなっており、
森の一軒家で父と、双子の兄との3人で暮らしていた。
しかし、父親の死とともに双子の兄とは生き別れになる。
…サニィは売られたのだ。
元々は、双子の兄と共にとある親類の家に引き取られる手筈だったのだが、引き取り先はそれを拒否した。
………いや、承諾する振りをして、サニィを売ったのだ。
彼らは、優秀な跡継ぎが1人だけ手に入ればそれで良かった。そのはずが、まさか双子だったとは想定の範囲外だったのだろう。
そしてやむを得ず弟を売ったのだ。
家督を継ぐのに双子は大抵の場合悲劇的な末路を遂げる。
どちらかが「捨てられる」か「処分」されるか……運がよければ「隠される」。
サニィは前者。
「捨てられた」のだ。
だが、彼は自力でここまで這い上がってきた。
そして今や、コローレの中で一番の実力者となった。
どうやってここまで来たのか…それは彼にしか分からない。
そんなサニィの騎士団、
【ブラン騎士団】は様々な剣術を心得ている、
エリート達ばかりだ。
もちろん剣術のみならず銃術から多少の基礎魔法も心得ており、知識も経験も豊富である。
然しながら、やはり得意は剣術。
その中でも、古き歴史から学び、改良と洗練を繰り返し形を成した アトラスの剣術、
<アトラス王宮聖剣術>は特に得意とされている。
ブラン騎士団は俗に言う主戦力であるがために、
最前線に派遣される事が多い。
その上、国王であるクロウも期待しているようで
出撃命令が頻繁に出る。
「なになに、また出撃命令か?」
ロゼッタがサニィの手元の資料をのぞき込む。
そこには 先程ロゼッタが報告した ルウィスの実験成功についての事が詳しく書かれていた。
サニィは笑みを浮かべた。
それを見て、幼なじみであるルウィスの成功が嬉しかったのだろうな、と察し、微笑ましい気持ちになった。
しばらく黙って資料を見ていたサニィだが、
急に立ち止まり ロゼッタに質問を投げかける。
「ねぇロゼッタ、
異世界ってどういう意味だと思う?」
「…は? 藪から棒にどうしたよ?」
不思議そうな顔をして、聞き返す。
「僕はね、異世界というのには少し語弊があると思うんだよね。」
「語弊?」
「うん。そうさ。
異世界というより、僕らがどうしても物理的に越えられない場所にあるところ…って感じかな。」
その言葉にロゼッタは過敏に反応した。
明らかにサニィに向けた表情は……嫌悪。
「………我らが祖国、
アトラスに不可能があるってか?」
ロゼッタのその異常なまでの反応にサニィは慣れていた。
そして自分も同種だという事も理解していた。
「…そんな怒んないでよ。
"ソレ"、お前の悪い癖だよ。」
「ぁ………すまん。」
サニィに窘められ、ロゼッタは我にかえった。
「不可能ってわけじゃあないよ。
だってルウィスが可能にしたんだしぃ?」
「そ、それもそうだな…。ははは…」
調子が崩れたロゼッタを見て サニィは何も言わない。
…ただ、この 心地の悪い現象は不可抗力なのだろうと
半ばサニィは諦めていた。
ロゼッタを哀れだと…。そんな目で見つめる。
だが、それは自分にも言えることなのは…複雑な心境だ。
(僕らはいつからこうなってしまったのだろうか…)
サニィには分からなかった。
"ソレ"が、いつからこの王国を蝕んでいたのか。
そして、自分たちの心さえ変えた訳が。