暗黒航路
短いお話です。
それを知性と認めることには、私は、まだ躊躇していた。どんなに優秀な宇宙飛行士でも私と同じ立場に遭遇すれば、同じように判断に迷うはずだ。始まりは飛行中のアクシデントだった。われわれの宇宙船LV-7の補助エンジンの損傷を伝える警報音が操縦室に鳴り響いたのが最初だった。
「船外活動の必要があるな」
と、グレンがモニター画像を見ながら言った。彼はすぐに後部のエアロックに移り、宇宙服を着こむと、船外にでた。
「驚いたな、こいつはいったいなんだ?」
というグレンの声とともに、彼のヘルメットに装着されたカメラの画像がモニター画面に映った。私は、目を疑った。エンジンのノズルに白い藻のようなものがからまっているのだ。
それはあたかも繁茂した植物のように船の表面に這っていた。しかも、ところどころ青白く発光している。
「グレン、それは有機物なのか?」
と、私が訊くと、グレンが言った。
「リード、こいつは触った感触はひどく柔らかい。生き物だと判断する材料は、まだ乏しい」
それからグレンの採取したサンプルを私たちは船内で分析した。驚いたことに、それはヒトの脳の神経組織に似た回路を形づくっていることがわかった。神経伝達物質の活動が認められた。続く二十四時間の内に、船外の藻のようなものは、増殖を続け、船体をぴったりと包んでしまった。
藻にからめられたLV-7は微妙な迷走飛行をはじめ、われわれは手動で補助エンジンを操作して、コースを補正しなければならなかった。
それから十日、藻は船の周囲にびっしりと密集し、層を形成していた。われわれは地球司令部に向けて一通の警告を送った。
――木星航路に船を進めてはいけない。ここは、宇宙のサルガッソー海だ、と。
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