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TOGETHER  作者: SINO
~第二部 切り札~  一章 八人目は居候
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ナンバリング・3

 戻ってきたとき、手には、階下から持ってきた電話があった。

 ナンバーを押して、受話器を耳に当てる。

 相手の声が聞こえたとき、彼は志乃から顔を逸らした。

「アキラさん、すまないが、来てくれないか?」

 相手の返事は、一瞬の戸惑いのあとに聞こえた。

『? えっと……その声はケンかい? どうしたの?』

「ミノルを診てほしいんだ。神経がかなり参っている。安静にさせておきたくて」

『ミノルかぁ……。僕の言うことなんか、聞かないと思うけど?』

「形だけでもいんんです。オレが言い含めておくから」

『いや、診るからには形だけにはしないけど』

「そういってくれると思いました。ありがとう」

『剣崎さんに場所を聞いてすぐに行くよ。……それで、他になにかある?』

 やはり、玲も半分以下の数値とはいえ、ノーセレクトの要素を含んでいる。健がまだ、なにかを隠しているのに気づいたのだ。

 健は、今度は志乃を見据えて、続けた。

「ミノルが休んでいる間、マモルだけを側におくと伝えてほしいんだ。誰も、彼に近づけさせない」

 ことさらゆっくりと言った健に、志乃が体を震わせた。

 健を見下ろすその目に、怒りが浮き上がる。

 それを正直に受け止めながら、だが、健は玲の声に、また目を逸らした。

『医者の言葉として伝えるよ』

「お願いします」

 静かにスイッチを切った途端、それを待ちかねたように、志乃が目を吊り上げて、健をベッドに押さえつけた。

「どういうことだよ!」

 実には、誰にも近づけさせないとは、電話の相手に言った言葉ではない。あれは、明らかに志乃に向いていた。

 両腕をベッドに押さえられながらも、健はいつもとは違って、険しい顔で、志乃を見返した。

「君が怒るのは筋違いだ。怒りたいのは……オレの方だよ」

「なんでだよ!」

「君の狙いは、一体なんだ? なんのために近づいたのか、忘れたか? ミノル一人がターゲットだとは言わせないよ。もし、そうだと言うつもりなら、オレは、何があっても阻止する。オレたちは、一人も欠けることはない。ノーセレクトの誰一人、離さない」

 確固とした強い言葉に、志乃が咄嗟に何かいいかけた。

 しかし、それよりも、健が続ける方が早かった。

「オレはね、シノ。君が圭吾さんの仇を討てるように……いや、君の願いを叶えようと思っている。そのためならば、いくらでも手を貸すつもりでいるんだ。だから……」

 健の視線が、不意に逸れた。

 何か考えるように、目を伏せたのだ。

 だが、また志乃を見上げたとき、そこには、いつもの優しい、そして、情けないほど儚い微笑みがあった。

「シノ……。自分の本音を隠さないでくれないかな」

「本音……? な、なんだよ、それ……」

 とぼけているのか、それとも判っていないのか、という迷いは、健にはなかった。

 志乃は、自分の本音に気づいていない。

 いや、気づいていながら、確信が持てないでいるのか?

 健は、押さえつけられてはいるものの、力がなくなっている志乃の両手を外すと、半身を起こした。

 呆然と、その動きを見ている志乃が、ゆっくりその場に腰を下ろす。

 何かを考えているように俯いた彼は、しばらくして、呟いた。

「本音って……なんだよ……」

 健が、黙って様子を見ている。

 やがて、志乃は顔を上げた。

「何もかも……知ってるような言い方しやがって……」

「オレにはわかるんだよ。……認めるのが、怖い?」

「……み、認めるも何も……俺は……」

 声にも、力はなくなっていた。

 志乃が、弱く、言った。

「あんたらを……あいつも、仇だから……」

 ……やはり……

 志乃にも本音はわかっていたのか。

 健は、両膝に肘を置いて、志乃を見下ろしながら、声をかけた。

「そうだよ。でもね、想うのは自由じゃない? 別に、やめろといっているわけじゃない。……さっきも言ったように、ノーセレクトは、どんなことがあってもオレが守る。誰一人、欠けることなくね。だから、君がターゲットを一人に絞るのなら、協力はできない。……君の目的は違うだろう? 少しの間、ミノルを休ませてあげてくれないかな?」

 休ませる……。

 つまり、やはり実と離れることになる。

 そう聞いた途端、反射的に健を見上げていた。

「やっぱり、俺を一人にするんだ……」

 それは、諦めた口調だった。

“……なるほど……。これが『シノ』なのか。似た者同士、だな”

 健が、気まずく微笑む。

「あのね。そういうわけにはいかないんだよ」

「?」

「彼が今、寝ているのはオレのベッドじゃないか。と、なるとオレがここに来るしかないんだ。ミノルの代わりにもならないけれど、迷惑でなければ、置いてくれないかな?」

 健は、誰にでも、こうして他人に伺いをたてる。それが、仇と公言している相手にさえ、だ。

 彼の、大きな優しさが、志乃の身に染みる。

 同居を始めてひと月、健のことだけが、志乃は理解できなかった。

 なぜ、こんなに情けない奴がリーダーに収まっているのか、と最初は思った。

 些細なことを知らないことが、あまりにも多いのだ。そのたびに、メンバーの、呆れたため息を聞いていた気がする。

 実などは、普段から嫌みや皮肉が多いから、怒るときも容赦はなく、健はどことなく顔色を伺っているように見えるときもあった。

 まったく役に立たないようなのに、なぜ、リーダーでいられるのだろう、という疑問がいつも付きまとっていた。

 しかし、それが当然に思えるときも、あったのも事実だ。

 今も、そうだ。

 情けないはずなのに、大きく思える。

 健たちを、憎い仇と思い、近づいた最初の決意が、健と言葉を交わすごとに薄れていくような気がしていた。

 いや、彼だけではなく、他のメンバーと接しても、同じだった。

 健の決定だというだけで、隆宏たちも、まるで旧知の友人のように志乃に接している。

 リーダーに対する、絶対の信頼感と、肌で感じる、彼らのチームワークが羨ましかった……。

 今、それも本音のひとつだと、思い知らされた。

 そして、もうひとつの本音も、健は知っていると言った。

 志乃は、気まずそうに顔を覆った。その下から、声が洩れる。

「俺、さ。いつも一人だったんだ。ガキの頃からずっと、一人だった。だから……本当はあんたたちが羨ましかったんだ。あんたが俺の同行を許した。たったそれだけで、ミノルたちは従ってる。それだけ信頼されてる……」

 少しずつ、膝を立てて、志乃は、今度はそこに顔を埋めた。

「そんな相手がいるって……いいよな。だから、ミノルが側にいるって、言ったとき、きっと嬉しかったんだ。……そりゃ、最初は違ってたさ。ラッキーって、思ったよ。絶対、皆殺しにするって、意気込んでたから。……ミノルみたいに、ひねくれてる奴って、口を割らせるのは簡単だろう。そう、思ってた。まさか……俺があいつに……惚れるなんて、思わなかった……」

 しばらくして、膝の間から深い吐息が聞こえ、志乃はゆっくりと顔を上げた。

「無茶、しちまったなぁ。あいつ、いやがらないからさ……。でも……」

 ふと、言葉を止めて、彼はぼんやりと、健の背後、窓のほうに話しかけた。

「あいつを抱いてるの、俺じゃないんだ。……それが悔しくて……。あいつの相手は俺じゃない。あんたなんだ」

と、寂しそうに健に視線を戻す。

 健は、黙って聞いていたが、視線に答えるように、僅かに首を降った。

「そうじゃないんだけれど……ね。……けれど、ある意味、当たってはいるのか……」

「……わかんねぇよ」

「彼は……たとえ相手が誰でも、同じなんだ。そういう意味では確かに、オレでないとダメなんだけれど……」

「そっか……。やっぱりな」

「ただ、誤解はしないでくれないか。彼は、オレがいないと生きていけない。それは嘘じゃないけれど、それだけだ」

「どういう、こと?」

 子供のような問いかけに、健はまた、一度だけ、首を振った。

「ねえ、君に一年の期限をつけた意味を、よく考えてくれないか。まだ、ひと月だ。自分の目で確かめもしないで、安易に答えを得ようとしないでほしい。まず、自分で考えてくれ。どうしてもわからないときに聞くように努力してくれないか」

 言い聞かせるような言葉だったが、志乃には、納得できることではなかった。

 自分で、実の口から聞いていたからこそ、健と実の仲を疑っているのだから。

 ほぼ、毎日のことだ。

『ケン……まだ、足りないのか……?』

 彼を求め、呟いている以外には聞こえない言葉のどこに、誤解のない真実があるというのか。

 自分の本音に気づかなければ、実とのことは、手段でいられた。

 だが……。

 親友の仇を討つ━━恨みを晴らす━━必ず……。

 志乃は、重く頷いた。

「わかったよ。自分で……確認する。そして、あんたたちを……」

 彼は、健を見ないように、踵を返した。

「腹減ってるんだ。下行くよ」

「そうだね。先に行っていていいよ」


 

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