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TOGETHER  作者: SINO
~第二部 切り札~  一章 八人目は居候
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ナンバリング・2

 遠慮がちのノックに、やはり返事はなく、ドアを開けて中に入った志乃の目に映ったのは、薬品棚に隣接しているテーブルに突っ伏している実だった。

「お、おい」

 慌てて駆け寄る。

 ……やはり、眠っているようだった。

 思わず、安堵の呟きが洩れる。

「ミノルゥ」

 見ると、彼の手元には薬がひとつ。

 健がいつも飲んでいる、手包みの薬方だ。

 毎日、一つずつ作っているのか、それとも、これひとつで力尽きたのか、判断ができない。

 改めて実を起こすと、今度はそれほど苦労もなく反応があった。

「起きたか?」

「……呼びに……きたのか」

 まだ半分、虚ろな目をしている。

 志乃は、本当に心配になってきた。

 今まで、一度たりともこんな姿を見たことがないのだ。

 彼らと同行するようになって、いや、実と同じ部屋で過ごすようになって、朝、まともに起こされたことがない。

 正に、叩き起こす、という言葉通りだった。

 一度、ベッドから落とされたこともあったくらいだ。

 それが、今朝はまるで立場が逆ではないか。

「な、ミノル、今日は寝てろよ。ケンだって一人で動けるだろ? あんた……夕べはきつかったんじゃないか?」

 とは言ったものの、思い返してみても、別段、変わったことをしたわけでもないはずだ。

 しかし、現にこうして実の姿を見ると、やはり、やりすぎたかと反省し始めている。

 実は、それを聞いた途端、肩に添えられた志乃の両手を、うるさそうに払い除けた。

「平気だと……言っているだろう。おまえの声……耳障りなんだよ」

「なんだよ。人が心配してるのに」

 いつもの勢いがないものの、実に睨まれた。

「心配するくらいなら……」

 一度、頭を強く振って、実は言った。

「……満足させろよ。あんなもので……足りるか」

 さすがに、志乃もカチンときた。

「ひっ、ひでぇ!」

 彼の皮肉や嫌みはいつものことだが、それにしても、こんなときですら、容赦がない。

 言い返そうとしたが、実がよろめきながら部屋を出てしまったため、慌てて後を追った。

 まるで夢遊病者のようだ。階段の手すりに寄りかかるように一歩ずつ降りていく実の体を、なぜか結局支えてしまう。

 実も、今度は払い除けようとはしなかった。

 階段を下りる二つの足音に、夕子は席を立つと、スープを用意し始めた。

 絵里がそれを手伝うのはよくあることで、取り分けたスープを配膳していく。

 ただ、護は、その足音に何かを感じたらしく、彼女たちのほうではなく、階段に足を向けていた。

 実の姿が見えてくる。

 その顔色を見たときに、彼は思わず腰を上げた。

「マモル、座って」

 健がすかさず、彼の腕を引いて、強引に座らせる。

「ケン……」

「いいから」

 今では、例え僅かなことでも、健の言うことに対して、誰もが無条件に聞くようになっている。

 護もやはり、仕方なく僅かに頷くと、座り直した。

 志乃に支えられた実が座ると、目の前の高志が実を乗り出した。

「寝坊かよ。……まだ眠そうじゃないか」

 いつもの実なら、相手の言いたいことを先回りするように即答するのに、今回は間があった。

「まさか……おまえにそんなことを言われるとはな」

「一応心配しているんだよ」

「……そうか……。薬が抜けていないだけさ」

「いつもの?」

 隆宏も、彼の顔色に、声を潜めて聞いた。

 ただ、そう尋ねたものの、いつも、というほど頻繁に常用しているわけではないのも、隆宏は知っている。

 メンバーが揃った当初に、数えられるほどではあったが、健から、話は聞いていた。

 そう、話だけなのだ。

 実は、健の前以外では、決して服用しない。

 何かがあった、とは思っても、彼は深入りせず、また、実も隆宏に答えを返すことなく、健に言った。

「薬の種類を変えたんだ」

 その一言で、健はすべて納得した。

「わかったよ、ミノル」

 優しく微笑む。

 実は、安心したのか、力なく椅子を引いた。

「もう少し……寝かせてくれ……。出掛けるまで……」

「いいよ」

 返事が聞こえたかどうか。よろけながら席を離れると、リビングのほうのソファに、倒れ込むようにして横になった。

 志乃や、隆宏たちが心配そうに目で追う。

 健もまた、頬杖をついて、何気なく実のほうに視線を向けていたが、他のメンバーたちが食事を始めたのを横目に、しばらくして、護に耳打ちをした。

「オレのベッドに運んでくれないか」

 つまりそれが、先程護を止めた答えだったのだ。

 実が寝てしまうのを待っていたらしい。

 高志たちも手伝って、静かに実を背負うと、護が二階に向かう。

 健もまた、席を立つと、座ったままだった絵里に言った。

「君たちは先に済ませてかまわないから。……彼は任せて」

「わかったわ。それなら遠慮しないから」

「シノ、ちょっと部屋に来てくれないか」

 何をするつもりなのだろう。

 健のあとについて、また部屋に戻る。

 彼は、デスクのコンピューターを起動させた。

「どうしたんだい?」

「聞きたいんだけれど、君は、ミノルがどの薬を飲んだのか、覚えている?」

「えっと……」

 薬の名前までは聞いていなかったから、志乃は、健を手招きすると、薬棚に向いて、中を見渡した。

 棚の中に並んでいるのは、彼らに必要最低限のものばかりで、どちらかというと、大きな医療箱のようなものだ。

 それでも、普通のドラッグストアでは売っていない薬品もあり、志乃はその中から、肩越しに目的のものをみつけて指差した。

「これだよ」

「間違いないね?」

「目の前で見ていたからな」

 健は、棚のガラス越しからその薬の名を覚えると、コンピューターを操作して、薬の効用を打ち出した。

「やっぱり……」

「何?」

 覗き込んだ志乃は、口のなかで効用を呟いて、目を見開いた。

 眠れないからと言っていたし、先程の様子も見ていたから、てっきり睡眠薬だと思っていたが、これは、ただの栄養剤ではないか。

 彼の反応を流し見て、健はコンピューターを切ると、デスクに手をついて考えた。

 ここまで我慢させていたのか……と。

 やはり、自分の責任だ。

 本当に、いつまでも情けないリーダーだと、思う……。

 実が何をしていたのか、知っていて止めることもできなかった。まして、本来なら自分が代わらなければならなかったというのに、それすら、言い出せなかった。

 だが、メンバーのなかで、誰よりも仲間を想う実も、これしか、志乃を引き入れる方法を思い付かなかったのか?

 今からでも、自分が引き継ぐことはできるだろうか……。

「ケンってば」

 強い声が聞こえて、健が顔を上げた。

 どうやら、何度か呼び掛けていたらしい。

「……ごめん、何?」

「やっぱりって言ったろ? あんた、あれが睡眠薬じゃないことを知ってたのか?」

「……いや。……さっき、ミノルが教えてくれなければ、わからなかったよ」

 志乃が、目を見開いた。

「教えた? いつ? そんなこと、言ってたか?」

 彼にしてみれば、純粋な問いかけだったのだろうが、それこそ、健の方が内心、驚いた。

「君はわからなかったのか?」

「な、なんだよ、それ。教えてくれよ。いつ言ったんだよ」

 ひと月も一緒にいて、一体、志乃はメンバーのどこを見ていたのだ……。

 健は、ため息ひとつ、言った。

「仕方がないね。今回は教えるけれど、これからは言葉のひとつ、表情の変化も見逃さないようにしてくれないか」

「……うん。それで?」

 無意識に、窓際のベッドに腰を掛けて、健は志乃を見上げた。

「君は言ったね。ミノルがオレの薬を作っている、と」

「言ったけど? あそこにあるじゃないか」

と、薬品棚の脇にある机を指差す。

「シノ……今まで、彼が薬を作っているところを見たことがあった?」

「……いや……ない」

 あるわけがない。先程の実の行動が日常ならば、志乃がまだ寝ている間に作っていただろうからだ。

「それから、彼の言葉だ。薬の種類を変えた……」

「……わかんねぇよ」

 健の話し方はいつもこうだ。

 まるで、外堀の事実だけを羅列して、提示するだけで何がわかるというのだ。

 不満を含んだ返事に、健は、僅かな懇願を含めるように、呟いた。

「君は、彼と一緒にいて気がつかなかったのか? オレたちは、余計なことを言わないし、やらないんだ。彼がいちいち、オレに、自分が飲んだ薬の種類なんて、言わない。どうせ、わかるはずがないことを知っているからね。最後に、君は、ミノルが薬を飲んだと言った」

「……だから……?」

「彼はね、オレの前でしか、服用しないんだ。理由があってね。タカヒロたちでさえ、聞いてはいても、見たことは……ないんだ。そういうことくらい、ミノルから聞き出していると思ったんだけれど……。つまり、自分がどういう状態なのか、どうしたいのか……彼はオレに、君から聞き出せと言っていたんだよ。彼は……限界なんだ」

「限界? 何が?」

 ポカンとした、間の抜けた声だ。

 やはり、理解しようとする努力すら、見えない。

 何も、わかろうとしていない。

 もしかしたら、志乃は、自分の気持ちすら、未だに気づいていないのか。

 健は答えず、深く息をつくと、一度部屋を出ていった。

 

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