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TOGETHER  作者: SINO
三章 ノーセレクト
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位置付け

 いい加減、部屋が暗くなってきて、文字を追うことが難しくなった頃、健は静かに、実の腕を外して、ベッドを降りた。

 完全な熟睡をしているらしく、身じろぎひとつしない。

 空腹を通り越して、少々胃がいたくなってきている。

 机の上の電話で、司令室を呼び出した。

「キャップ、芝さんを呼び出すのは気が引けるので、そちらの食堂でなにか、食べるものを持ってきてもらえませんか?」

 剣崎司令は、事情も聞かずにただ、

『何がいいかね?』

と、尋ねるに留めた。

「軽いものなら。昼食を抜いていたものですから」

『わかった。待っていなさい』

 それから彼は、ライトをつけて部屋を出た。

 向かったのは護の部屋だ。

 こちらも、ライトをつけてベッドに足を向ける。

 変わらず、護も眠っているようだ。

 ローテーブルにも、いくつか血痕がついていた。上に乗っていた瓶や銃のようなものは空になっている。

 ずっと、誰も聞いていない部屋で、オルゴールの音だけが延々と流れ続けていた。

 スイッチを切って、護にかかっているタオルケットを静かにめくってみる。

 おびただしい血液の染みの中で、彼の体から、傷が一つ残らず消えていた。

 いや、まったく消えているわけではなく、うっすらと赤い筋が浮かんでいたものの、ほとんど治りかけのような状態だ。

 こちらも、全裸だった。

 健は、それが恥ずかしく、またタオルケットを元に戻して、部屋を見回した。

 一度、壊された部屋だ。

 だから、再搬入した家具は、必要最低限のものしかなかったのだろう。

 クローゼット側に全て寄せられてしまっている今、健の目の前以外は、殺風景すぎる空間しか、ない。

 住人同様、人を寄せ付ける雰囲気を持たない部屋だ。

 そして……。

 護が目を覚ましたとき、彼自身も、ノーセレクトの仲間すら、寄せ付けなくなるだろう。

 自分を嫌悪し、否定する彼に、仲間を認識させることができるようになるだろうか。

 体を屈めて、健は彼の髪に手を差し入れた。

 まったく抵抗なく、柔らかすぎる髪の一本一本が指をすり抜ける。

 女性というよりも、やはり人形のようだ。

 健は、ゆっくりと部屋を出た。

 自室に戻り、ベッドには上がらずに机に向かう。

 北海道にいた頃は、時おりスケッチをしたり、キャンパスを広げたりしていたのだが、護のことを考えると、絵画の道具は封印するしかなさそうだ。

 もっとも、それを惜しいと思うほど、のめり込んでいたわけでもない。

 考えてみれば、何かに夢中になることは、今までひとつもなかった。

 自分の将来が決まっていたからかもしれない。

 科学者になりたい、と一度は思ったが、その術すら知らなかったため、何を学んだらいいのかもわからなかった。

 反対したことはなかったものの、積極的に協力や教育をしてくれなかったレイラー・楠木哲郎にしてみれば、どのような『夢』を持とうが、それは一種の経験だと教えていたのだろう。

 レイラーが、そして、健に関わる全ての人たちが、彼に施していた教育は、『自身が経験する』ことにほかならなかったのだ。

 夢を追い求めることも、途中で挫折することも、あるいは中途半端でやめることも、持続することも、全ては経験として、健の中に蓄積される。

 だから、アドバイスはなかったし、逆に止められることもなかった。

 コンピューターを起動させたとき、ノックの音が響いた。

 健は席を立ち、自分でドアを開けた。

 剣崎司令が自ら運んでくれたワゴンに乗っていたのは、ビーフシチューとパン、それにサラダだった。

「わざわざ……すみません」

 彼は、中の様子を見られないように廊下に出て、ドアを閉じた。

「構わないよ。それよりも、ミノルとマモルはどうしたんだね?」

「今は聞かないでください」

「……そうか……」

「あの……キャップ、ひとつ聞きたいことがあるんですが」

「なんだね?」

「本部のスタッフから見た、オレたちの位置付けはあなたが決めたんですか?」

 眉を寄せて、司令は彼を見上げた。

「位置付け?」

「ノーセレクト部は、本部の頂点だと言われました」

「ああ……確かにそうだよ」

 それは、健がここに来た日に説明したはずなのだ。健たちがメインの組織なのだ、と。

 諦めに似た吐息に、司令は首をかしげた。

「ダメなのかね?」

「……ええ。正直なところ、迷惑です。できることなら……オレたちに介入……いえ、深入りしないでもらいたいんだ。オレたちのことをフォローしてくれるのはありがたいことだと思います。けれど、それ以上の感情を、こちらに向けられたく、ないんです。あなたは、ノーマルの、普通のスタッフを、殺人者の仲間にしたいんですか?」

「ど……どういうことだね?」

「オレたちは、すでに人を殺しているんですよ。それがオレたちの役目でしょう? あなた方を巻き込みたくない。殺人者のオレたちを頂点に据えてはいけないんです。わかってくれませんか?」

「……」

 無意識に、司令は口許を何度かさすって、

「……鶴野くんの言っていたことは……これか……」

と、呟いた。

 健たちは、いや、健は、自ら孤立しようとしていると言ってた。玲の話を、司令は理解できずにいたのだ。

 彼らが存在するから組織を作った。事実、ノーセレクトは本部の要なのだ。彼らがいなければ、組織自体の役割はない。だから、頂点であることは、曲げられない現実だった。

 しかし、当の健自身がそれを否定してしまっては、説得のしようがない。

 剣崎司令は、頷くしかなかった。

「わかった。君の心情をスタッフに伝えておこう」

 ワゴンを健のほうに押しやって、司令は本館に戻って行った。


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