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TOGETHER  作者: SINO
三章 ノーセレクト
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協力という名の脅迫

 昼近くになって、自室でコンピューターに向いていた健のブレスレットが鳴った。

 表示は『タカヒロ』だ。

「どうしたの? 終わった?」

 少しの沈黙のあと、隆宏の声が聞こえた。

『ごめん。……今、忙しい?』

「いや。待機中だよ」

『待機中……そう……』

「何があった?」

 落胆の声だったからこそ、健は問いかけた。

『……ごめん。こっちのほう、険悪なんだ。オレでは捜査員たちを説得しきれなくて……』

「話してくれる?」

 健たちのほうが重要な仕事だと聞いていたから、自分たちで何とかしようとしていた隆宏だが、やはり、力不足であったことを認めるしかなかったらしい。

 詳細の全てを話すことはできなかったが、絵里と捜査員のやり取りや、高志が参考人をあっさり帰してしまったこと、そして、今、捜査員たちが、あからさまにメンバーを糾弾し、絵里が我慢するあまり、神経を尖らせていることや、協力を拒否されたことを話した。

『もし、余裕があるなら、来てほしかったんだけれど……』

「わかった。オレが到着するまで、待てる?」

『じゃ、署長室で待っているよ』

「ブイトールでいくから」

 スイッチを切ると、健はすぐに内線で地下を呼び出した。

 本部が所有するブイトールは三機ある。一番小さなハミングバードと、パイロットを含めた五人乗りのイーグル、それに、パイロットを含めた八人乗りのサンダーバードだ。

 常に三機が地下にあるわけではなく、一機だけは待機させているが、他は、要請があったときに入れ換えるのである。

 今まで、ハミングバードしか使っていないから、入れ換える必要はないはずだ。

 操作室の責任者、黛に目的地を教え、自分で操縦するつもりで……

 小さくため息をついた。

 多分、まだ傷が癒えない健の操縦を、実は許さないだろうと思ったのだ。

 仕方なく、パイロットつきにするしかない。

 昼間は、小堺も常勤だというので、すぐに出掛けられるように頼むと、足早に本館の地下に向かった。

 約、一時間弱で目的地に到着したが、そこに来るまでの間、小堺は気安かった。

 健もそつなく受け答えをしたものの、やはり、先日の、横浜の帰路で、副操縦席に座った実の様子を聞かされて、苦笑するしかなかったようだ。

 小堺は文句を言っていたわけではなかった。が、あの時、主に絵里が社交的だったと言った。

 夕子は始終、彼女に掴まって俯いていたという。

 目的地につくと、小堺には、すぐに戻るからと言って、署長室にむかった。

 部屋のソファにいた隆宏と絵里が、健の姿に同時に腰をあげる。

 健は、対面に座って難しい顔をしていた署長に向かって頭を下げた。

「白木健ともうします。今回は、ご迷惑をおかけしています」

 署長も立ち上がり、丁寧に返した。

「こちらこそ、申し訳ない。私でも扱いかねていました」

「なんとか説得をしてみます。彼らを連れていってもいいですか?」

「すみません、お願いします」

 隆宏たちの案内で、健は捜査員たちの使っている会議室に向かった。

 中にいたのは、初日に電話番をしていた二人の捜査員と、昨日の夜に、第二の現場に隆宏を連れていった二人の捜査員だった。

 健の姿に、やはり、最初から猜疑心をむき出しにした視線が集まる。

「失礼します。少し、お話を聞かせていただきます」

「あんたがその人たちの責任者かね?」

 責任者、という言葉に、健の目がすわった。

 仲間、ではなく、責任者、か。

 答えることもせず、空いていた椅子に腰を掛ける。

 いつもの、情けなく穏やかな微笑みはなかった。

「こちらの協力はいりませんか?」

「協力? 邪魔をしているのがわからないか?」

 健は、肩越しにいる絵里を振り返った。

「エリ、今は抑えて」

 確かに、神経を尖らせている。今にも爆発しそうな気配を、静かな声だけで、止めた。

「では、彼らがどういう邪魔をしているのか、お聞かせください。断っておきますが、オレは、トウキョウから来ました。別件を扱っているので、長居はできません。おっしゃりたいことは、今、全てお話しください」

 途端に、堰を切ったように、代わる代わる、四人が、ほとんど私情かと思える文句を並べ立てた。

 健は、それを、本当に相槌ひとつ言葉にすることなく、聞いていた。

 最期の方は、ほとんど言いがかりに近い。

 やがて、言葉が尽きたのか、自然、四人が口を閉ざした。

 健はそこで、ようやく呟く。

「それだけですか?」

と。

 冷たい一言に、最後とばかりに、一人が机を叩いた。

「とにかく、とっとと帰ってくれ。これ以上邪魔をされてはたまらんからな」

「それは、あなたがたが判断することではありません」

「なんだと?」

 健はまた、絵里を見上げた。それから、反対側にいる隆宏に顔を巡らせて、微笑む。

「タカシとユウコはどうしているの?」

 優しい問いかけは、メンバーにだけ向けられる、いつもの笑顔だった。

「被害者の家に行っているよ。五人もいるから、時間がかかっているんだ」

「依頼内容は? 悪いけれど、見ていないんだ」

 責任者である人間が、なにも知らずにここに来たのか、という驚きと呆れた表情を捜査員が浮かべるなか、隆宏は、資料の内容を耳打ちする。

 黙って聞き終えた健は、また、捜査員たちに向き直った。

「あなた方のお気持ちはわかりました。こちらの協力は必要がなさそうです。邪魔だとおっしゃるならば、手を引きましょう」

 あっさりとした言葉に、捜査員たちは一瞬、信じられないと目を見張ったものの、すぐに安堵のためか、口許を緩めた。

 逆に、後ろにいた隆宏たちが思わず健を見下ろす。

「いいの?」

という絵里の腕に、振り仰ぐことなく手を絡ませる。

 しかし、視線は、捜査員たちを厳しく見つめていた。

「ただし、こちらの任務は遂行させていただきます」

「わからん奴だな。邪魔をするなと……」

「むしろ逆です。あなたがたが、こちらの邪魔になる」

 直前の、丁寧な言葉つきは影も形もなかった。

 ひたすら冷たく見つめる健は、捜査員の言葉を遮り、続ける。

「都合五件もの未解決事件を抱えて、尚、手がかりひとつ掴めないあなたがたでは役不足だと言っているんだ。そちらの警察上層部は、捜査に時間をかけすぎるあなたがたの手助けをするようにこちらに依頼をしてきた。ならば、あなたがたの選択肢は二つしかない。こちらの協力を受け入れるか、断るか。……必要がないと言うのならば、オレたちは独自に任務を遂行する。あなたがたの邪魔になろうと、こちらが考慮する必要はない。……更に付け加えるならば、そちらには逮捕権があるだろう、が、オレたちにはそれすら、必要がない、ということだ。犯人を特定した場合、即座に抹殺することも可能だということを覚えていてもらう。逆に、犯行動機によっては、犯人に荷担する可能性もある。その場合の犯罪は、あなたがたに裁く権力はない。事件そのものの解決がこちらの目的だ。誰がどうなろうと、目的さえ果たせれば、構わず引き上げる」

「……」

「選択は自由ですよ。どうなさいます?」

 選択、と言ったが、ほとんど恐喝に近いことを、この場にいる誰もが……それこそ、隆宏たちまでが気づいただろう。

 悔しそうにテーブルを叩いた捜査官が、歯軋りをしながら重々しく頷くしかなかったのも、当然だった。

 ようやく、健の表情が緩んだ。

 立ち上がると、深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。ご迷惑は充分に理解しています。あなたがたの捜査方針と、こちらの調査方法の食い違いはご勘弁ください。できる限りの調査結果を提示させていただきます」

 それだけ言うと、健は二人を伴って会議室を出ていった。

「本当に、ごめん、ケン。嫌なことを言わせてしまったよね」

 署長室に向かいかけた健の足が止まった。

 優しい微笑みが振り返る。

「タカヒロ、頼むから遠慮はしないでくれないかな。おまえたちで対処できるのなら、オレはなにも言わない。何をしてもいいよ。でも、多分、おまえたちでは無理なことも、これから出てくるはずだ。そのためにオレがいるんだと思わせてくれないか? リーダーの責任は、オレが引き受けたいんだよ」

「けれど……君の仕事のほうが重要だろうと……」

「うん。それは確かだよ。それでも、できる限りのことはしたいんだ。お願いだから、遠慮はしないで」

 限りのない優しさに、隆宏は安堵を含めて息をついた。

「……ありがとう、ケン」

 あらためて、署長室に向かう。

 署長は、自分のデスクに腰をかけて、苛立ったように貧乏ゆすりをしていた。

 健の姿に、慌てて立ち上がる。

「ど、どうでした?」

「お願いがあります」

「なにか?」

「犯人確定までの間、どうか、こちらの協力を受け入れてください。調査結果は隠さず提供しますので」

「いや、それはもう、こちらとしましては願ってもないことです。よろしくお願いします」

 社交辞令としての、表面だけだろうと思える言葉を受け、健はもう一度頭を下げると部屋を出た。


 警察署の屋上で、健はブイトールに乗り込みながら言った。

「慌ただしくてすまないね、頼むよ」

「ケン」

 絵里が、彼の手を取った。

「お願い。あたしをひっぱたいて」

「えっ?」

「今回は、腹を立ててばかりだわ。これじゃ、タカヒロの役に立たない。気合いを入れてほしいのよ」

 彼は驚いたものの、クスッと笑って、ゆっくり彼女の首筋に手を差し入れて引き寄せた。

 頬に軽くキスをする。

「これがオレの答えだ。君のその気性が好きだよ。我慢をすることはないから。思いきり発散して、あとは流せるよね?」

 急激に表に現れた本質が、絵里の全身に染み込む。

 彼女は、満面の微笑みで言った。

「あんたがリーダーであることはあたしの誇りね。……ありがとう。そっちも頑張って」

「うん。じゃ、頼むよ」

 風圧を避けるためにブイトールから離れた二人の目から、飛び去っていく機体の姿が消えると、絵里は思いきり背を伸ばした。

「さぁってと。仕切りなおすかぁ」

「仕切り直す?」

 彼女は、隆宏にウインクをすると、下を指差した。

「許可が出たからケンカをするのよ」

「……エリ……」

「心配しないで。あの人たちの言い分は理解したから。あんたは徹底的に冷静でいてちょうだい。あたしが行き過ぎたら止めてね」

 果たして止められるものだろうか……。

 苦笑混じりに、隆宏は頷いた。




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