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TOGETHER  作者: SINO
~第一部 初めの時~ 一章 それぞれの器 それぞれの役割
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本格的、始動 8

「ミノル。……見せてくれないか? さっき言った、感情を受け入れるという具体例はない?」

「それならさっき見たじゃないか。オレは、マモルの感情をまともに受けたんだぞ」

「マモルの……感情……って……」

「あいつ、おまえに反応したんだ。あれだけの憎悪をどうしておまえに持ったんだ?」

 怪訝な顔つきで、健は彼を見上げた。

「憎悪……? 何もしていないけれど……」

 思い当たることがない。

 少しの間考えていたものの、やはり心当たりがなかった彼は、諦めて苦笑いを浮かべた。

「まあ、いいか。オレを憎んでいるのなら、おまえが怒る筋合いじゃないよ。ミノル……彼への誤解を解いてくれないか? おまえのことを一番わかっているのは彼なんだから」

「どういうことだ?」

「彼は、おまえのことを前から知っていたようだよ。美鈴さんから聞いていたらしい。感受性が強いから、他人の感情が伝わるという言い方をしていたんだ」

 実の顔が逸れた。

 港に隣接した公園の端の、木が生い茂った辺りを凝視する。

 健の言葉に、ポツリと尋ねた。

「それだけか?」

「それだけ? ……ああ、あまり深く話してはくれなかったからね。聞いたのはそれだけだよ」

「そうじゃない。他人の感情が伝わるという程度だったのか?」

「そうだよ。だから、おまえの言ったことと違うと思ったんだ。マモルの言い方で考えれば、オレにも経験があったからね」

「……見たいか? 程度の違いを……」

「できるならね」

 実感がないから、軽い気持ちで健は笑った。

 実の視線は、ずっと生い茂った木のほうから離れない。

「自分から他人を受け入れる場合、不可欠なのは、接触だ。けれど、相手の感情が強ければ、こっちが負ける場合もあるんだよ。……ここからでは距離があるから、どこまで入れられるかわからないが……」

「え?」

 意味不明の言葉に健が実を見上げたとき、彼は目を閉じ、向いていた木の方に右手を伸ばした。

 ほんのなん十秒かだったが、やがて手を下ろすと、体を捻って左腕で健の肩を、そして右手で彼の頭を抑えながら乗り掛かってきた。

 瞳が妖しく見下ろしている、と思う間もなく、健は、実のキスで口を塞がれた。

“ミ……ミノル……!”

 一瞬、何をされているのか判断ができなかったが、彼の手がシャツのボタンを外し始めているのに気づいたとき、初めて、抵抗しなければと思った。

 思いきり彼を突き飛ばし、体勢を建て直すのに起き上がることができたのは、僅かに彼が力を抜いたのに気がついたからだ。

「な、何をするんだよ! オレは……そんな趣味はない!」

 突き飛ばされて倒れ込んだまま、実は顔を覆って何かを呟いていた。

「ミ、ノル?」

「……待って、……くれ……今……落ち着く、……」

という呟きのあとも、ブツブツと聞き取れない言葉を繰り返していたが、実はやがて落ち着いたのか、最後に大きく呼吸をして、身を起こした。

「悪かったな。今はこれで勘弁してくれ。これ以上受け入れたら、本当におまえを犯しそうだ」

「じゃ……誰かの?」

 慌てて振り返る。

 確か、実は遥か向こうの茂みを見ていた。

 だが健の目には、気配どころか、暗がりの動きすら見ることはできなかった。

 実もまた、その茂みに顔を向けた。

「あの辺りにな。結構距離があるからこの程度で済んだが……これからもっと、盛り上がりそうだ」

 ようやく整理がついたのか、いつものいたずらっ気のある笑顔に戻る。

 しかし、それはすぐに、自分に呆れたというため息に変わる。

「男の感情のほうが強いな」

 どうやら、また集中し始めたようだが、すぐにそこから背を向けた。

「……やめた。本気で受け入れたら、おまえがどれだけ抵抗しても抱いてしまう」

「オ、オレが男でも……」

「関係ないさ。愛情だろうが、単なる欲情だろうが……」

「……」

「相手の感情の強弱も、どういう思いだろうが、何もかも、オレの中に溜まっていくんだ。……いつの間にか、自分自身の感情がわからなくなった。喜怒哀楽、どの感情も、程度も、他人と自分の区別ができないんだ。……わかっただろう? 感受性という、そんな程度じゃないんだ」

 すっと実は港の方に足を伸ばして、後ろに仰け反るように手をついた。

「……マモルの感情はかなり強かったぞ。だから、タカヒロたちのものまで一緒に流れ込んできたんだ。それが、全部、オレの中に溜まっていく。もしあのまま部屋にいたら、オレがおまえを殺していたかもしれない」

「そんなに……?」

「ああ。一瞬だったからよかったんだが。けれど、やつら全員の想いが入り込まれては堪らない。だから、ここにいるのさ。落ち着く必要があったからな」

 一瞬の沈黙があり、実は健に顔を向けた。

「おまえ、気を付けろよ。あいつがオレのことを知っているのなら、自分では手を出さずに、オレを利用しかねないからな。あれだけの憎悪を入れられたら、オレがあいつになるようなものだ。自制がきかなくなる」

 護が自分にそういう気持ちを持っていたとは信じたくはないが、実のアドバイスに、健は頷くでもなくクスッと笑った。

「気を付けても、オレなんか、彼には敵わないよ。成り行きに任せるさ。ただ……疑問はあるな。それと、おまえに頼みがある」

「?」

 実は、健を見返すと同時に軽いめまいを感じ、話を聞くついでとばかりに彼に習って仰向けに横になった。

 逆に、今度は健のほうが半身を起こす。

「おまえ、昨日まで外にいても平気だったようだが? 自分なりに他人を遮断していたんだろう?」

「まあな」

「どうして今になって、そう簡単に入れてしまうんだ?」

 答えには、間があった。

「仕方がないさ。もう……少し……の……」

「……ミノル?」

「辛抱……あと……一人な……」

 見下ろすと、ゆっくりと実の目蓋が閉じていく。

「おい?」

「マモル……の、こと、だけ……。……なんで……急に……」

 それを最後に、実の声が途絶えた。

 動きの止まった彼を、健が不審そうに覗き込む。

「ミノル」

 呼び掛けの反応もなく、すぐに気がついたのは規則正しく動く寝息だった。

「こんなところで……」

 昨日のことを考えれば、実にとってはまだ寝るには早い時間ではないか?

 第一、寝付きがよすぎる。

 しかも、いくら波の音が心地いいとはいえ、蒸し暑い外にいるのだ。

 健は、軽く彼を揺すった。

「起きろよ、ミノル」

 それでも、反応がない。

 仕方なく健は、その両腕を引っ張って彼を支えた。

「起きろって」

 根気よく声をかける。

 そういえば、キッシュの仲間にも、寝起きの悪い男がいたという話を聞いたことがあった。

 それこそ、乱暴に扱ってやっと目を覚ます。

 起こすほうが疲れると言っては笑っていたな。

 しかし、まさか彼を叩き起こすわけにもいかないだろう。

 そうなると、やはりただ声をかけるしかない。

 やがて、無駄だと思い始めた頃、ようやく実の目が薄く開いた。

「な……んだよ」

「眠いのなら帰るから、少しだけ我慢してくれないか」

「……寝て、……いたか?」

 自覚がないのか。

 だが、やはり気を抜くとまた眠ってしまいそうな雰囲気だ。

 健は、彼の肩を支えながら立ち上がると、そのままゆっくり立たせた。

「帰ろう。何なら背負ってもいいよ」

 それならば、眠っても構わない。

 そう言ったのだが、どうやら、実には逆効果だったようだ。

 力なく健の手を振り払い、歩きだした。

「我慢……する。……おまえには何も……してほしくない……」

 その割りには、足元がおぼつかない。

 仕方なく歩調を合わせて、来た道を引き返し始めたが、車道を横切るのも危なげだ。

 まるで、病人を一人で歩かせているようで気が引ける。

 それでもなんとか商店街まではたどり着いた。

 ここからはほとんど車も通らない。

「ミノル、さっきの……その……キスなんだけれど……おまえにはオレがその……相手の女性に見えていたというのか?」

 何でもいいから話をしていたほうが気が紛れると思って尋ねた。

 実が鈍く、首をかしげる。

「キス? ……ああ……あれは……そうじゃ、ない……姿じゃ、なく……目の……前の相手をだ、く、という感情……。……止められな、い……おまえだとわかってい、ても……体が……」

 足がもつれた。

 咄嗟に支えたものの、実はとうとうその場に膝をついてしまった。

「……あれが……原因か……時間が狂っ……」

 それきりだった。

 崩れた体の重みが、健にかかる。

 もう、呼び掛けても無駄なようだ。



 足音は一つだった。

 庭の片隅の椅子に座っていた護は、立ち上がると柵の方まで駆け寄って、足音の方に身を乗り出した。

 街灯の弱い光の下に、健の姿が浮かび上がった。

 護が庭を回り込んで駆け寄る。

 健の背中に、実がいた。

 完全に意識のない姿に、護は足を止めて腰を落とした。

「ミノルに、何をした?」

 いうと同時に、左手が後ろに回り、取り出したのはスティックではないか。

 右手が柄を叩く。

 鈍い光が飛び出した。

「ちょ、ちょっと、待ってくれよ。寝ているだけだよ」

 何かをした覚えはなかったが、どうやら本当に憎まれているようだ。

 言い訳をするつもりも、理由を聞くつもりも今はなく、健はあからさまな彼の殺意に、優しく微笑んだ。

「ミノルを部屋に運ぶまで待ってくれないか? そのあとで相手になるから」

 要するに、スティックを用意までして帰りを待っていたということだ。

 理不尽なことに感じたが、うやむやにするわけにもいかない。

 話は、実を運んでからだと、護の横をすり抜けて歩きだした。

 護は後ろから実を覗き込んで、本当に寝ていることを確かめると、スティックをしまって二人を追い越し、先に家に入っていった。

 元々、力があるため、一人を背負ったところで大した苦にもならない健がようやく玄関に入ったとき、そこに隆宏が立っているのに気がついた。

「おかえり……って……マモルが慌てていたのはこれが原因か……」

 どうやら、隆宏はその足音で玄関に出てきたらしい。

 彼は、背中の実の顔を覗き込んで笑った。

「まるで子供だな。勝手に飛び出して寝てしまうなんて」

「途中までは頑張っていたんだよ」

「そうなんだ。……ごくろうさま。代わるよ」

 口では言ったものの、子供を引き渡すようにはいかない。

 が、何とか肩に実の腕を回すと、それでも起きないことを確認して背負い直した。

 彼のほうは健ほど力があるわけではない。

 片手で実の腕を押さえると、健の力がなくなったことによろめきながら、階段に足を掛けて振り返った。

「君、どうしたの? 服を脱いでいたわけ? 暑いのはわかるけれど、外を歩くのならもう少し、きちんとしたほうがいいよ?」

「えっ?」

 見下ろすと、実に外されていたボタンを留めてもいなかったことに気がついた。

 アンダーシャツも着ていないから、肌が丸見えだ。

 苦笑混じりに玄関を上がりながら、ボタンをかけなおす。

 そのままリビングに戻った。

 そこでは、高志たちが物音に聞き耳を立てていた。

「おかえり。ねえ、向こうの騒ぎはなんだったの? ミノルは?」

と、早速の高志の質問だ。

 不器用に最後のボタンをはめながら席につくと、健は飲み物を夕子に頼んだ。

「はい。お酒ですね。すぐに……」

「いや、やめておくよ。できればコーヒーがいいな」

 微かに、胃の辺りに重みを感じるのは、ヨーグルトのせいだ。

 そういえば、二つのボトルを港に置いたままだった。

 軽い返事とともに、彼女がキッチンに入っていく。

 テーブルの上の酒瓶や、つまみになっていた料理の皿を見下ろして健は息をついた。

「仕事の話が途中だったっけ……」

と、今度は時計を見上げる。

 十二時にはまだ間があったが、やはり続きは明日にするしかなさそうだ。

 絵里が、身を乗り出した。

「あたしたちはタカヒロから指示を受けたわ。大丈夫」

「そう」

「話自体にそれほど時間はかからないはずよ。ただ、あたしたちは怒っているの。余計なことを言いたくないから、詳細は彼から聞いてちょうだい」

 そう言った彼女よりも、高志のほうが何か言いたそうだ。

 二人を見比べて、健は自分を指差した。

「もしかして、オレに?」

「違うよ。マモル……」

「やめなさい! タカシ!」

 強く遮った彼女にすら高志は不満があったらしいが、健は抑えるように手を上げた。

「二人とも、落ち着いて。……エリ、君たちは、オレではなくてマモルに腹を立てているというのか?」

 彼女は諦めたように小刻みに二度、頷いた。

「ええ、そうよ」

「タカシもか?」

「当たり前だよ。あんなことを言われては……」

「ストップ。余計なことは……言わなくていい。怒っているかどうかだけ、教えてくれる?」

 恐らく高志がメンバーの中では一番、言葉に対して敏感であり、それにより受けるダメージには言葉で防御するだろう。

 状況を一番分かりやすく説明できるだろうが、その分、私情が入らないとは限らない。

 文句も言えず悔しそうに頷いた彼から、健はまた絵里に向いた。

 こちらは、冷静でいようとしている分、高志よりも腹を立てているようにも映る。

 よく見てみれば、表情ひとつでこんなにも彼らを分析できる。

 ━━実が言っていたのは、こういうことか。

 二人から目を逸らし、健はソファに上がり込んで夕べのように肘掛けに足をのせた。

 考え込みながら背もたれに肘をかけたところで、隆宏が戻ってきた。

「タカヒロ、おまえもマモルに怒っているのか?」

「えっ?」

 部屋に入るなりの唐突な問いかけに、彼は高志たちを見回して、眼鏡を外しながら席についた。

「まあ……腹が立たなかったといえば……嘘になるけれど……でも、言葉の意味を考えると……」

「それはいい。今はどうなんだ?」

「複雑……かな」

 二人に気遣ってか、恥ずかしそうに苦笑する。

 健はそれに頷いて、また口を閉ざした。

 妙な沈黙に三人が待っていると、最後に夕子がコーヒーをもって入ってきた。

 テーブルの食器を片付けながら、健の目の前にカップを置く。

「ユウコ、君はマモルが何か言ったときに側にいた?」

「はい。いました」

「君は、彼をどう思った?」

 夕子は床に腰を下ろし、彼を見上げた。

「あの……あの人にとって、ミノルはとても大切な人……ではないか、と。彼を知っていたというだけでは、あのようなことは言わなかったと思います。大切だから、傷つけたくないという気持ちはわかります。だから……」

 夕子の目が三人を盗み見るように動いて、俯いてしまった。

「だから?」

 言いにくいのか、優しく促す健を目の前に、体が小刻みに震えている。

 やがて、ボソボソという声が聞こえた。

「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。……私には、どうしても……皆さんが彼を怒るのは筋違いな気がして……」

「筋違い? あんなことを言われたのに?」

 高志の、我慢しきれなかった言葉が大きく部屋に響いて、彼女は今度こそ頭を抱えて小さくなった。

「ご、ごめんなさい……」

「タカシ、黙って。……ユウコ、ゆっくりでいいよ。続けて」

 時間をかけて三人を伺いながら、彼女は俯いたまま続けた。

「き、昨日……あの人は……一緒に……。……お話しはしなかったけれど、でも、傍にいたんです。私たちの傍に……。関心はなくても……何も言わなくても一緒にいたんです。それは、夢ではありませんよね? ケン」

「そうだね。一緒だったよ」

「私は、それを……否定することはできません。あの人を怒れません。こ、これ以上、……うまく言えないけれど、でも、違うんです。……私には、あの人がミノルを……大切だと……いうことのほうが……」

「いいよ、ユウコ。ありがとう。わかったよ」

 怒鳴られたことに緊張していた心が、健の柔らかい言葉で緩んだのか、彼女は顔を覆って泣き出した。

 すかさず、絵里がテーブルを回り込んで彼女の肩を支えた。

「泣かないの。ごめんなさいね。怒鳴ったりして。あんたの気持ちはわかったから」

「……ごめんなさい」

 健は二人の姿を黙って見下ろしていたが、背もたれに掛けた手で髪をかき揚げたまま動きを止めて、キッチンのドアに視線を移した。

「タカシ」

「な、なに?」

「人が怒るのはどうしてだか、わかる?」

「……」

 身を乗り出していた高志が、ソファに深く凭れた。

 しばらくして首を振る。

「いきなり……そんなことを言われても……」

 かきあげた髪から手を離す。

 手すりから足を下ろし、健は、彼に向き直って微笑んだ。

「おまえは、言葉を大切にできるようだ。自分のいうことにも、他人の言葉にも感情が動く。……怒るのは、おまえがそれだけ期待を持っているからだと思うよ。最初はミノルに、それから、マモルに……。仲間という期待だね」

 穏やかな声に、高志の目が丸くなった。

 ひとつには、どうしてそれがわかったのかという疑問だったろう。

 呆然と、頷く。

「オレはね、タカシ、リーダーという肩書きに対する自信はもてない。だから、おまえに指図する権利はないんだけれど、……自分の気持ちを相手に押し付けるのはどうかと思うよ。おまえが彼らに持つ期待は、おまえだけのもので、他人から押し付けられるものじゃない。逆も同じだ。だからね、自分の目線に相手を引き寄せるのではなく、互いの目線を見つけるんだ。おまえなら、できるから。おまえだけの方法で、自分の中に傷を作らないことが、大事だよ」

 話を聞くうちに、高志の頭が下がっていった。

 が、すぐに顔をあげると、一度大きく呼吸をして立ち上がった。

「わかったよ、ケン。オレ、もう寝るから」

 あとは絵里にも、隆宏や夕子にも軽く手を振って、あっさりと部屋を出ていった。

 それを見送り、健は次に絵里に呼び掛けた。

「君は、考え方が大人だね。冷静に自分を抑える術を知っている。けれど、我慢をすることだけが最良の方法ではないよ。タカシに押し付けてはダメだ。君に必要なのは、思ったことを言い含める、タカヒロのような説得力だ。マモルに対しても、影で怒るのではなく、直接ぶつければいい。言うだけ言って、あとは流せるだけの柔軟さはあるはずだよ」

「……どうして……そんなことがわかるのよ……?」

 当たっていただけに、彼女もまた驚いていた。

 出掛ける前までは、何もいうこともなくただ酒を飲んでいただけなのに……。

「どうして、だろうね? なんとなく、かな? ……君は、言われたことをいつまでも引きずるような性格じゃないだろう? 今はマモルに怒ってもいい。一晩考えて、それでも治まらないのなら、彼に直接ぶつけて、あとは今まで通りに、できるね?」

「……え、ええ。やってみるわ。……それにしても、不思議なものだわ。あんたに言われただけで気持ちが落ち着いたもの」

「ありがとう。君を信じているよ。……ユウコ」

「は、はい」

「誰も君を怒ったり責めたりしないから安心して。むしろ、君の、判断力や理解力に教えられた気がするよ。いつか、君の気持ちが彼に伝わると信じて。いいね」

「はい。ありがとうございます」

「それじゃ、二人とも、部屋に戻ってくれないか。タカヒロから、明日のことを聞くから」

 体のいい人払いだったが、二人は気を悪くすることもなく腰をあげて出ていった。


 

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