ヨコハマ 7
買い物に一時間半もかければ、その量も半端ではなかった。
途中で休んでいたのは確かだが、そのあとでも荷物の大半になってしまった絵里の、個人的な品物が重かったのだ。
七人分の食材は夕子が持っていたが、絵里は文句を言いながら戻ってきた。
自分の荷物が重いというのは、自業自得なのだが……。
キッチンのテーブルに食材を置くと、実が、用意していたコーヒーを入れてくれた。
意外な親切に恐縮しながらも、それを横において昼食の支度を始めた夕子を交えて、隆宏が、実の目配せに答えるように二人に先程までの話を繰り返す。
どうやら、絵里の方に異存はなかったようだ。
彼女にしても、健に人を引っ張るちからがあるのかどうかを疑問視していた。
それよりは、気心が知れた隆宏と話し合ったほうがよほど自分に合っていると思ったのだ。
夕子も同様だったが、疑問もあったらしい。
ナイフで材料を切り分けながら、ポツリと呟いた。
「何もさせないというのがわからないのですが……」
と、やはり、彼女もその点に注目したようだ。
言ってから、大それたことを口にしたとでも言うように手を止めて、慌てて振り返る。
「ご、ごめんなさい」
「ユウコ! 謝っていいとは言っていないわよ」
途端に聞こえた絵里の叱咤に、夕子がハッとしてまた、小さく謝る。
しかし、今度はしっかりテーブルのほうに向き直った。
「本当に……ごめんなさい」
「言いたいことがあるのなら言いなさい。なんなの?」
絵里にとって、夕子の奥ゆかしさや臆病なところは、守ってあげたいと同時に腹立たしいものであった。
もどかしいのだ。
だからこそ、きっぱりと、そして何度でも繰り返して怒鳴る。
そして、その上で促すことを面倒だとは考えていなかった。
夕子は、一度頷いて、誰にともなく言った。
「ケンの役割はなんでしょうか? 仕事の上ではタカヒロとエリが中心だということですよね。意見があれば、タカシやマモル……それにミノルが話に加わります。……そうでしょう?」
隆宏の話の中では、意見を言うのは高志の役目と決めつけていたようだが、夕子は、護たちも人数に入れている。
いや……と、言いかける口元を閉じて、隆宏は話の続きを促した。
「それはつまり……ケンを抜いて、物事を話し合うことになりませんか?」
クスッという笑い声が、実から洩れた。
「君は、思った以上に話を把握できるんだな」
「あ……ありがとう……ございます」
絵里以外に、まさか実からも誉められるとは思わなかった。
なぜか、彼女の時以上にそれが恥ずかしい。
「それで?」
また、隆宏に促されて、彼女は続けた。
「はい。それで……仕事以外のところなんですけれど……ケンはいてもいなくてもいい、ということになりませんか?」
「……そうか、そうともとれるよな」
高志が即座に同意したのも、実の説明がどこか心の中に引っ掛かっていたからだ。
ノーセレクトと限定しなくとも、彼らくらいの年齢ならば大抵のことは一人でできる。
私用においても健を頼ることがないのなら、彼の存在はないに等しくなってしまうわけで、それでは公私ともにリーダーの意味はないのだ。
「それではケンがかわいそうで……」
それを最後に俯いてしまった夕子には、隆宏たちが一度は実の話に納得していたのだということがわかった。
つまり、期待されない気持ちは、隆宏たちには理解できなかったということだ。
夕子にとっては、初めて会ったときから、健こそが頼れる人になっていた。
人と話せなかった自分を、突き放しながらもたった三日でこうして話せるように誘導してくれたのだ。
絵里から怒られても、すぐに励ましてくれる彼女の優しさを汲み取ることができるようになったし、だからこそ、自分の考えを躊躇いはあっても口にできた。
できるようになったのは、すべて、健のおかげなのだ。
卵と、砂糖の代わりのハチミツをかき回し始めた彼女の言葉に、実は言った。
「君も、所詮はそこ止まりらしいな。視野が狭いんだ。だが、君が何を言おうと影響はないだろうよ」
「ちょっと、それは言いすぎよ、ミノル」
彼の辛辣さは、たとえ夕子であっても容赦がない。
誉めたすぐあとの言葉だっただけに、彼女の手が止まってしまった。
慌てて庇った絵里が、彼女の肩を支える。
それに追い討ちをかけると思ったからだが、実は、意外にも真顔で答えた。
「事実だろう? ユウコはこのままでは戦力外だ。自覚した上で、メンバーについていく勇気を持つべきだと思うが? オレは、誰も言わないことを言っただけだ」
確かに、そう言われれば反論はできない。
なだめるばかりが優しさでないことも、本当だ。
絵里は、腹に据えかねたものの、
「気にすることはないわ」
と、夕子に耳打ちをした。
「ねえ、ミノル、それで、ケンをこのまま寝かせておくつもりか?」
「用意ができたら起こせばいいだろう?」
「じゃ、まだ大丈夫だね。ちょっと、来てくれる?」
彼女が作っているのは、メインにフレンチトーストのようだが、材料をみるとそれだけではなさそうだ。
だから、隆宏は実を伴って二階に上がると、自分の部屋に入った。
狭いうえにベッドが二つも入っているため、そこしか座る場所がない。
二人の間は人の幅ほどしか開いていないから、隆宏はベッドに乗り上げると、もう片方のベッドに腰を掛けた実に向いた。
「重要な話なのか?」
「重要だよ。……一体、どういう心境の変化なの? ずいぶん親切になったものだね」
これは、隆宏なりの嫌みだった。
今日まで、それも、本部を出て駅に向かうまでの実は、確かにメンバーを拒否していた。
なのに、目的地に着いたときには、その雰囲気自体どこか和らいでいたのだ。
「タカシやエリは説得できたかもしれないけれどね、オレは、この間のことがあるから、素直に君に納得できないよ。確かに、君の言うことは正しいかもしれない。ケンの補助だと言い張るのならそれもいいよ。でも、さっきの話は完全にオレたちに関わっているじゃないか」
「……そんなことか。……関わったわけじゃない。自分のために言っただけさ。おまえたちの立場で言えば、ケンのため、とでも思えばいい」
眉を寄せ、隆宏は腕を組んで首をかしげた。
「どうも……君の言うことがわからないな。さっきの話がどうして君のためになっているの? 第一、ケンに何もさせないことが彼のためといえる? ユウコも言ったように、あれじゃ彼がいなくても同じじゃないか。むしろ、世話を焼く分、オレたちのほうに負担がかかるんだよ? それに、……ちょうどいいや。聞いてくれよ」
聞きたくないとは言わせないとばかりに、隆宏はベッドから足を下ろすと、実のほうに身を乗り出した。
「タカシたちが気づいていたかどうかは判らないんだけれど、司令室で君が出ていったあと、ケンは何もしなかったんだよ」
全員で寄ってたかって夕子を慰めても仕方がないことではあった。
その役目は、両側にいた高志と絵里が引き受けていたからだ。
だが、リーダーだと言うのなら、そして、その責任を果たそうという気持ちがあったのなら、せめて一言くらい声をかけてもよかったのではないかと隆宏は言ったのだ。
「元の席に戻って、オレに一言だけだったよ。君の腕のことは責任がないから気にするなって。あとはただ、ユウコたちのほうをぼんやりと見ているだけだった」
「それがおかしいのか?」
「そうじゃなくて、的はずれなんじゃない? 実際にケガをしたのはマモルなのに、彼に対しても、キャップにも心配する素振りもなかったし、君たちが戻ってからはあの通り、仕事の話をきくだけだったろう?」
「ああ……そうだな」
実と護が戻ってからの司令の話は、渡したカードの使い方と、ここ横浜地区での仕事の内容だった。
全員で話を聞いたものの、隆宏はやはり健も気になっていたのだという。
彼は、そのときも、ぼんやりと聞いていただけのように見えた。
そして、いざ、移動するというときも先に立つことはなく、行動が早かった高志についていくようなものだった。
かと思うと、別行動をとろうとした護とともに隆宏たちを待たせるし、駅に行く前には、実に腕を引かれるまま先に行ってしまった。
だから、隆宏たちは健を頼りなく思い、逆に、反発はあるものの実のはっきりとした態度は認めるしかなかったのである。
「さっき言っただろう? オレは、素直に君には納得できないんだ。反対したくはないけれど、あれだけ頼りないのなら、彼を中心にして自信をつけさせるべきじゃないか?」
実は、じっと隆宏を見つめていたが、ホッと息をつくと、右のピアスに手を掛けた。
「……やっぱり、おまえにも感じられないのか……」
「えっ?」
健は仕方がない、実はそう思っていた。
あの『感じ』は、恐らく、ノーセレクトの中でも特殊なものだろう。
自分の持つ能力がなくても支障がない。
だが、まさか、自分のほうが違うのだとは思っていなかった。
ノーセレクトには当たり前の能力だと思っていたのだ。
これでは、健が超能力と勘違いしたのも当然だ。
「感じられないって、なんだよ?」
隆宏の問いかけに、実は小さく舌打ちをすると改めて彼に向き直った。
「なんでもない。それよりも、おまえはこれからケンよりもオレたちのことを把握する必要があるんだ。目先のことだけに囚われては判断を誤る。おまえの考え方では、ケンに自信をつけさせるどころか、却って潰すぞ」
「だから、どうしてそうなるんだよ? オレは君ほど頭が働かないよ。もっと分かりやすく教えてくれないか?」
「……仕方がない……」
ノーセレクトの能力の一部だと思っていたのが自分だけのものだとなれば、確かに漠然とした説明では、一生かかっても隆宏には伝わらない。
出来ることなら、表面だけを捉えるに留めたかったのだ。
一度、自分を解放してしまえば、元に戻るのは容易なことではない。
けれど、あるいはこれも必然か。
実は、諦めたように腰を上げた。
「タカヒロ、話す前に、……おまえを見せてもらうぞ。オレが何をしても……驚かないでくれ」
「え? ……うん」
本当に、先程から実は意味不明なことばかり言っている。
自分では、それほど判断能力が劣っているとは思っていなかっただけに、隆宏は少しばかり自信をなくしていた。
言われたとおり、何をするのか待っていると、実は彼の目の前に片膝をついて、いきなりその体を抱き締めたのだ。
「ミッ……」
「動くな」
男に抱きつかれたことなど、今まで一度もない。
動くなというほうが無茶だ。
驚いて、早くなった鼓動が実にも聞こえそうで、思わず突き放そうと動かした両腕はだが、そのまま固まった。
「頼む……動かないでくれ」
懇願にも似た、弱い声だった。
“……ミノル……”
初めて会ったときの怒鳴り声、医者としての真剣な眼差し、結果が腹立たしいことだったとはいえ、僅かな間でもみえた、和らいだ表情、そして、人を突き放した冷たい言葉……関わらなくてはならない七人だけのノーセレクトだから、実は今まで、必死に自分を隠そうとしていたのではないだろうか。
本当は、寂しいのではないか?
こうして、人の温もりを求めるほど……。
そう思うと、妙なもので、いとおしく感じる。
自然に、隆宏の腕が、実の背中に回りかけた。
途端に、実が隆宏を突き放す。
「動くなと言っただろう。オレに触るな」
いつもの、棘のある目で睨み付ける。
人を遮る頑なな変化に、隆宏は戸惑いながら言った。
「な、なんだよ。君のほうが抱きついたんじゃないか。寂しいからじゃなかったの?」
「甚だしい勘違いだ。おまえを見せてもらうと言ったはずだぞ」
「……見る? オレを? ……こんなことで一体何が……」
いや、それより何が『見える』というのだろう。
まるで、その言い方は━━
「まさか……超能力……」
実は、うんざりした顔で、顔を逸らした。
「またか」
「違うというの?」
「いや。どうとでも判断すればいい。それよりも、話の続きはどうするんだよ?」
コロコロと……よく、変化する……。
隆宏は、混乱しそうな気持ちを落ち着かせて、軽く手を差し出した。
「続けてくれ」
元のベッドに腰を掛けて、実はピアスに手を当てた。
「表面的なおまえたちを判断するのはそれほど難しくはない。けれど、おまえは、全体を把握すべきだ。だから、これから説明することは、間違いのないことだと思ってくれ」
「うん」
「まず、おまえは、何事に対しても真っ正直で、言い方を変えれば誠実だ。だが、それがすべて正しいわけじゃない。人には隠すことがあるだろうし、触れられたくないこともある。その秘密を知ったときに、隠し続けることができない。……違うか?」
「……当たっているよ」
今日まで、大して会話もしていなかったのに、なぜそこまでわかったのか、不思議に思うより、呆れてしまう。
「おまえの課題は、そういう隠し事にどう対処するかということだ。ストレスが体調を変えると言っていたな。ならば、秘密や嘘を、自分の中で正当化して均衡を保つんだ。おまえには、相手を思いやる優しさがあるからな。相手のためだと思えば難しいことじゃない」
「……よく、わからないな」
「すぐに理解しろとは言わない。それなら、わかりやすく解釈するんだ。『優しい嘘と、残酷な真実のどちらを口にすべきか』と」
「ああ……そういうことか」
優しい嘘が必要なときもある。
もちろん、たとえ相手を傷つけても、本当のことを言わなければならないときもある。
だが、その判断を誤れば、その時はうまくいっても後々こじれることもないとはいえない。
目先だけの見方と、先を見据えた見方の違い、ということだ。
「何となく、わかる気がするよ」
「よし。次はタカシだ。あいつは、単にガキっぽいわけじゃない。判断力はユウコより劣るだろうが、おしゃべりな分、言葉には敏感だ。おまえの考えに、言葉で対抗できる。納得ができないことは突き詰めてくるボキャブラリーはあるだろうから、おまえに求められるのは説得をするちからだ。頭はあいつよりもいいからな。それに、エリのフォローが入れば、計画をたてるのに支障はないし、より完璧になると思ってくれ。その、エリだが……」
と、ここで何故か、実が苦笑する。
「……今言ったように、おまえのフォローをするのに充分な判断力がある。多分、他人にも、自分にも厳しいだろう。彼女は、自分に、確固とした自信を持っている。だから、自分が間違っていれば素直に反省できるタイプだ。出来事をいつまでも引きずるような女じゃない。おまえにとってはやりにくいサポートだろうが、それは、彼女の気の強さにおまえが負けているからだと考えたほうがいい」
絵里たちの部屋で、彼女が実に対して怒鳴ったことを思いだし、隆宏はクスッと笑った。
あれだけハッキリとした勢いの女性に会ったのは初めてだった。
新鮮というよりも、一瞬にして好意を持ったことを、彼女は迷惑に思うだろうか……。
彼女は、どういうタイプの男性が好きなんだろう……。
「片想いで終わらないように努力するんだな」
唐突に心の中を言い当てられ、隆宏は真っ赤になって眼鏡を外した。
「いっ、いきなりそんな……」
実が笑い出す。
「ずるいよ、その能力は……」
これが超能力なら、滅多なことを考えられないではないか。
そう責めた彼に、笑いを噛み締めながら実は否定した。
「こんなもの、超能力でもなんでもないさ。エリの話をしたときのおまえの顔を見れば誰にでもわかるぞ」
「えっ!?」
顔に出ていたというのか?
「それにな、オレは他人の考えていることがわかるわけじゃない。何を考えているかは、ある程度の推理だ。これは、おまえたちにも出来ることじゃないか」
「推理?」
頷きながらも、大したことじゃない、とでも言いたげに実が首を竦める。
思い返してみれば、最初に会ったときも、隆宏のことを言い当てたのだ。
あのときも不思議だった。
それを聞くと、実はまた見下すように鼻で笑いながら説明をしてくれた。
たった一言だ。
『ここ、ミノルの部屋だよ』
それだけで、彼には判ったのだという。
唖然とした。
それが超能力でなくて、なんというのだ。
到底、納得できる説明ではない。
しかし、実に言わせると、それが推理なのだという。
つまり、隆宏が『ミノルの』と呼び捨てたことで、本部スタッフではないと判断できたと。
だが、男性メンバーは、実を抜けば四人だ。
それを、過去の訓練データから推理した、と言われても、信じられない。
「そんなこと……オレにはできない……」
瞬時に、そういう推理ができること自体、驚異的ではないか。
第一、ならば、先程のことは何なのだ?
「じゃ、オレを見るとか言ったのはどういうことだったの?」
あれこそ、超能力者のセリフではないのか?
問いかけに、ここに来て初めて、実が言い淀んだ。
気まずそうに頭を抱える。
この先、隆宏に重要な役目を任せるのなら、自分のことを隠しておくわけにはいかないのは確かだ。
そして、それは健にも言わなくてはならない。
そうでなければ、彼らと同じことをやっていけない。
これが、ノーセレクトの能力であればどんなによかったか。
対処の方法を知っているものがいるだけで、どれほど楽になれるかわからないのに。
仕方なく、実の口が重く開いた。
「わかるのは……見たのは、おまえの感情だ」
「か……んじょう?」
「誰もが超能力だというのなら、否定しても無駄だろう。オレは、ノーセレクトの能力の一つだと思っていたんだ。他人の感情を取り込める……いや、入り込んでしまう。何を考えているか、じゃない。そのときに、そいつがどう感じているかがわかる。だから……他人を遠ざけてきた。……一度自分を解放してしまえば、おまえだけじゃなく、周囲の感情が入り込むのを止めることが簡単にできなくなる……」
「だから? ……だからオレたちからも離れようとしていたというのか? オレたちの感情が入るから?」
「それだけじゃない。そうじゃ……ないんだ。けれど、これから先は、オレだけの問題だ。おまえに秘密を増やすことになるが、他言はしないでくれ。話すことは、あいつらにとって……」
「残酷な真実になる……というのか?」
「そうだ」
そんなはずは……とは言えなかった。
他人の考えていることがわかるという超能力ならば、小説やドラマで見ている。 ある程度の想像はつくのだが、感情となると実感がない。
どういう状態なのか、どのように伝わるのか、それがわかるのは目の前の彼だけだ。
恐らくメンバーに話したところで、自分と同じく誰も理解できないだろう。
これがもし、理解されないから黙っていろというのなら、慰める術はある。
だが、実の様子だと、まだ他に理由がありそうだ。
だからこそ、
「わかったよ。誰にも言わないから」
そう答えるしかなかった。
そして、こうして自分のことを話してくれた実に、気恥ずかしげに言った。
「でもさ、なるべく遮断してくれる? さすがに恥ずかしいよ。一目惚れだけでも何を言われるかわからないのに、将来フラれたらばつが悪いじゃない。そんなことを感じてほしくないな」
開けっ広げな笑い声が部屋に響いた。
実は、初めて楽しそうに笑ったのである。
「わかった……努力しよう」
隆宏が目を細める。
「君は、優しいね」
言った途端、実の声が止まった。
次第に表情が暗くなり、ピアスに手を当てて、顔を逸らす。
「そう……言われるのは嫌いなんだ。……やめてくれ」
聞き飽きるくらいに言われていた━━鈴のように軽やかな高い声が、隆宏の言葉に重なる。
『あなたは優しい子ね』
そう言い続けてきたレイラーの最期の言葉もまた、実の記憶に鮮明に残っている。
『ノーセレクトが……許せない……』
彼女に対して何もできなかった自分の罪を、メンバーと生きていくことで償うしかないのだ。
「ごめん、改めて本題に戻ってくれる?」
雰囲気を察した隆宏は、外していた眼鏡をかけ直し、表情を改めた。
これ以上突っ込んでも、実が困るだけだと判断したのだ。
顔を逸らしたまま、実は続けた。
「ユウコは……さっきも言ったように、戦力外と考えておいたほうがいい。けれど、状況整理は注目できる。閃きも悪くない。その点で言えば、タカシよりも頼りになる。だが、こちらから率先して意見を求めるべきじゃないな」
彼女の性格までも断言した彼に、隆宏はもう、一欠片の疑いも持たずに頷いた。




