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TOGETHER  作者: SINO
~第二部 切り札~  一章 八人目は居候
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ナンバリング・22

 喫茶店を渡り歩いた感じだな、と、昨日も思った。

 とはいえ、ここは普通の喫茶店ではない。いわゆる、インターネットカフェ、というところか。

 健は、昨日もここで、夕方になるまで何やら、調べごとをしていた。

 耳にはめているものから、何か聞こえるごとに、手を止めてはいたが、それ以外は、志乃の存在を忘れたかのように、コンピューターを操作していたのだ。

 志乃自身は、コンピューターをまったく扱えないわけではない。

 学校でも使っていたくらいだから、操作は人並みにできるのだが、昨日は、手伝いをするつもりがなかったため、隣の席で、下らないゲームをやって過ごした。

 昨日のように、デスクの前に腰を下ろしたものの、健は、ディスプレーには向かわず、志乃のほうに椅子を向けた。

「ここなら、多少物騒な話をしても平気だからね」

「護衛をしてるんだろ? 物騒な状態なのかい?」

「受け取り方によってはね。それで……何から聞きたい?」

「この仕事に関する、最初から全部だ。本部に依頼が入ったところから」

 健は、快く頷いた。

「本部に入った依頼は、あの男性の護衛だよ。オレたちの仕事の大半は、警察からのものだということは、知っているね?」

「うん」

「今回も同じ。だから、護衛をしているけれど、あの男性は、そのことを知らない」

「はぁ? なんで? あのおっさんが警察に頼んだわけじゃないのか?」

「違うよ。事の発端は、警察に捜索願いが出たことだ。一人の男性が行方不明になった。それだけなら問題はないんだけれど、いなくなった原因が、殺された息子の復讐だと聞けば、黙ってはいられないだろう」

 前の仕事が終わった時点で、健は、次の仕事の仔細を聞いた。

 それによると、行方不明者の捜索というものは、全国の警察に届けを回し、気長に探すということくらいしかできないそうだ。

 もちろん、ないがしろにするわけではなく、家族に事情を聞いたり、関係者に話は聞くらしいが、見つかる可能性は少ないという。

 息子を殺された父親が狙う相手はわかっている。それが、今、護衛をしている男性だ。

 そのため、警察は、自分たちも捜索するが、主に、健たちに護衛を依頼してきた、ということだ。

 志乃は、黙って聞いていたものの、話の節目になると、眉を寄せた。

「なんか、変じゃないか? それなら、おっさんに事情を説明して護衛すべきだろう? 第一、それ以前に、おっさんはその息子ってやつを殺したんだろ? なんで捕まえないんだ?」

「証拠がないからね」

「は? それもおかしいじゃないか。証拠がないのに、なんで父親はおっさんが殺したって思ってるの?」

 クスッと笑った健が、どこか安堵したように、デスクに肘をついた。

「鋭いね……。つまり、警察が本部に依頼した、本当の狙いは、この先なんだ。殺されたと言われている息子は、自殺だよ」

「自殺? ……ってことは、逆恨み? だから、おっさんを護衛しながら、警察では父親を探してるってことか?」

「はずれ」

「はあ? 違うの?」

「もし、君の言う通りなら、護衛のほうを警察でやっているよ。父親の捜索の方が難しいからね。そこまで人手を使うほど、警察には余裕がない。……大体、捜索願いが出た時点で、そのことを男性に言って、堂々と護衛しているさ」

「そっか。裏があるわけだ」

 護衛をしている男性に気づかれないように配慮する何かがあるということだ。

 考えてみれば、日本の警察が、そんな探偵まがいなことをするわけがない。事件にもなっていない段階で、そこまで関与するとも思えないのだ。

「で、その裏ってのは?」

「少し、考えてみようか。まず、息子が自殺をした。君はどう、判断する?」

 これも、誘導の一種だと、志乃は感じた。

 事件を説明するだけなら、きっと、健には容易いことだろう。しかし、それでは志乃のためにならい。そう思ってのことだと考えられる。

 それならば、一緒になって考えるべきだ。

「そうだなぁ。……判断、ってより、まず、遺書とかそういうのを探すな。ホントに自殺だったかを考えなきゃ」

「自宅での首吊り自殺で、遺書は、彼の部屋の、机の引き出しに入っていたそうだよ」

「内容は?」

「両親に、先に死ぬことを謝っていた。それと、疲れた、という言葉があった」

 自分の膝に肘をかけて、志乃は屈むと、健を見上げた。

「と、なると、親子の確執はなかったわけだな。原因が他にあったとすると、……例えば友人関係か、仕事関係……くらいかな。疲れたってんなら、仕事だろうな」

「それが結論かな? 君の意見を聞かせてくれる?」

「う~ん……。仕事関係で、息子がポカをやらかした。それを徹底的に責められて、結局自殺に追い込まれた。……直接手を下したわけじゃないけど、間接的に殺したようなもんだから、父親がおっさんを狙ってる……ってところか?」

 健は、おもむろに椅子にもたれると、ゆっくり首を振った。

「ダメだな。勝手に話を作ってもらっては困る」

「えっ? だって……あんたが聞いたんじゃないか」

「そう。オレは、君の意見は? と聞いたんだ。もうひとつ、聞いたよ? それが結論か? とね」

「だから……」

「穴がありすぎるよ」

 志乃は、体を起こすと、言い訳をするように言った。

「だって、そんなのわかるわけないじゃねぇか。あんたが経過を話して、その時点で意見を求められりゃ、そう答えるしかないだろう?」

「シノ、君の、最初の間違いはそれなんだ。君は、オレに対して先入観を持っている。……聞くけれど、君は今まで、誰かからの依頼を、そのまま信じて仕事をしていたのか?」

「それは……」

「違うだろう? ……どうも、君には波があるみたいだね。鈍いところがあるかと思えば、鋭いところもある。けれど、それはあまりいい傾向とは言えないな」

「……ごめん……」

 思わず謝ってしまったのは、健の指摘が、それだけ志乃に真剣に向いていたからだ。

 健は、すぐに表情を緩めた。

「謝る必要はないよ。君を試したようなものだから」

 しょげてしまった志乃が、訝しげに顔を上げる。

「試した?」

「すまなかったね。手伝ってくれるというのなら、君の能力を自分で確かめるしかなくてね。でも、これでわかった。君は、ひとつの方向に引っ張られる傾向があるな。インパクトのあるものに向いてしまうみたいだ」

「そう、かな?」

 自覚がなかったから、彼は気恥ずかしげに頭を掻いた。

「わかりやすく説明するよ。まず、君は、息子が会社員だと思い込んでいるね? あの男性の部下だと思ったんじゃないか?」

「違うのか?」

「いや。結果を言えば、正しいよ。でも、これは先入観だ。息子さんと男性の関係を、なぜ、最初に疑問に思わなかったのかな? 会社関係とは限らないだろう? 親戚だったかもしれない。別の関係があったかも。……あるいは、会社相手のクレーマー……その逆も考えられる。可能性はひとつじゃなかったんだよ?」

 それだけ並べられては、志乃には二の句が継げなかった。

 力なく頷く彼に、健が続ける。

「次に、自殺の原因だけれど、これもひとつとは限らない。仕事関係と断定した時点で、君はそこしか見ていなかったことになるよ。……本当に、親子に確執はなかったか? 他の人間関係かもしれない。もし、仕事関係だとしたら、何が原因でそこまで追い込まれたかを疑問に思うべきだ。それから、父親が復讐を考えて行方をくらました。……これも、本当かどうかはわからない。警察の言うことを、鵜呑みにするわけにはいかないということだね」

「警察のことも疑っているのか?」

 思いがけない言葉に目を見張った彼に、健は目を伏せた。

「シノ……オレたちは、警察のために仕事をしているわけじゃない。だから、すべてに対してまず、疑うんだ。その上で、自分たちの目で見て、確かめる。そこから導き出した結論が、本来の依頼主と一致すれば、解決の方向が見えてくる」

「本来の依頼主って?」

「今回の場合は、捜索願いを出した、家族」

 ポツリと一言呟いて、健は、気分を変えるように腰を上げた。

「さて、改めて話を聞いてもらおうかな」

と、いいながら、店の隅にある喫茶コーナーに志乃を連れていった。

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