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TOGETHER  作者: SINO
~第二部 切り札~  一章 八人目は居候
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ナンバリング・21

 護が、二階から降りてきた。

 ハンドミキサーに翻弄されている絵里が、声をかける。

「どうしたの?」

 気を抜けば、手から飛んでしまいそうなボウルを、当の護がさりげなく支える。

 そのついでに、夕子に声をかけた。

「ミノルの食べるものはあるか?」

 オーブンを覗き込んでいた彼女は、

「熱は下がりましたか?」

と、尋ねた。

「まだだ」

「それなら、冷たいほうがいいかもしれませんね」

 どうやら、温かいものと、両方を用意していたらしい。

 冷蔵庫から、小さな片手鍋を取り出すと、中身をマグカップに移し、トレイに載せて、テーブルに置いた。

「マモル、あたしのほうはいいわ。持っていってあげなさい」

 言われるまでもなく、そのつもりだった彼は、ボウルから手を離し、トレイを取り上げると、部屋に戻っていった。

 夕べからずっと、タオルを目に当てていた実は、音だけで判断するしかなく、ぼやけた頭で、ドアが開いた音を聞き分けると、その向こうの大きな音に、顔を向けた。

「なんだ……あれ……」

 ほとんど聞き取れないほど、掠れてしまっている。

 無理もない。

 夕べから、寝ていたというよりも、熱にうなされていたと言ったほうが近い状態で、やっと、明け方になって、呼吸が楽になった程度に落ち着いただけなのだ。

 熟睡などできたわけでもなく、寝ていないから、頭の中に、霞がかかったような状態が続いている。

 いつもなら、音を聞き分けるくらい、たやすいはずの質問に、護は、トレイをサイドテーブルに置いて、カーテンを閉めてから、額のタオルをとった。

「ケーキを、作っている」

 言いながら、体を起こそうとする実の背中を支えた。

 ベッド自体をリクライニングにすればすむことなのだが、護は今までも、彼のすることに提案のひとつもしなかったため、今回も、自分の枕を彼の背中に当てるだけだった。

 それだけの動きに、実が大きな息をつく。

 護は、マグカップを実に手渡した。

 スプーンを渡そうとしたが、実はそれを押しやって、カップの中身に、眉をひそめた。

 健の話では、昨日も、玲の作ったコンソメスープだけだったというが、食欲がほとんどないらしく、どうも、無理矢理飲んでいるという感じで、すぐにため息をついた。

「できれば……コーンスープがよかったな」

「違うのか?」

 実と違い、護は料理自体、ほとんどできない。健ほどではないが、食材などにも興味がないため、このスープも、何を持ってきたのか、知ろうとしなかったのである。

「これはカボチャ」

と、言いながら、また一口。

 好き嫌いのない彼だから、確か、カボチャも平気だったはずだが……。

 今は、その気分ではなかったらしい。半分ほどでやめてしまった。

「もう、いらない」

 渡されたカップをサイドテーブルに置いて、護は椅子に腰を掛けた。

「ケンは?」

「出掛けている」

と、なると、やはり志乃も一緒ということか。

 落ち着き払った護の様子から、健が無事だということは判断できるが……。

 ふと、手首のリストバンドに目を落とし、彼はごそごそと身を捻ると、横になった。

「風呂に入りたい……」

 熱で汗ばんだ体が気持ち悪い。

 結局、着替えもできない状態で、服のまま寝込んでいるのだ。

 体を拭くこともできないのは、護が手伝おうとするからで、見られたくない手首の傷に、触れられたくないからでもある。

 だから、愚痴にするしかない。

 ここまでひどくなるのなら、最初から健に話しておけばよかったと思う。

 結果的に、健が志乃をつれ回しているのなら、自分が今まで黙っていた意味がない。

 志乃とのことを、健だけには知られたくない。

 しかし、黙っていたことで体を壊しては、本末転倒もいいところだ。

 護のためにと考えていたことが裏目に出たか。

 いや、彼だけのためにしたことではない。

 隆宏にしても、高志にしても、志乃の性癖は無縁であり、近づけてはいけないものだ。

 まして、健がそのことを知れば、体を張って、メンバーを守ることを選んでいた。それどころか、遅れて現れた、同じノーセレクトの、志乃の望みを受け入れていたはずだ。

 できもしないことを、リーダーだからという理由だけで、引き受けていただろう。

 だから、言えなかった。

 今なら、志乃に言い聞かせてあることが、歯止めになる。

 問題は、自分たちのことを健たちが知らない状態で、どこまで志乃を信じればいいのか、ということだ。

 意地だけで実の口を割らせる、と言ったのは、最初のころだけだった。

 しかし最近、志乃のようすが変わってきている。それを、肌で感じられたから、なおさら、素直に信じることができない。

「話して……おくべきだったかも……」

 その呟きは、静かに毛布がかけられたことで、止まった。

 ハッとして見上げると、そこにいることを忘れていた護が、心配そうに覗き込んでいるのに気がついた。

「あまり……考え込まない方がいい。何をするにしても、熱が引いてからだ」

「……おまえ……ずっとここにいるつもりか?」

「邪魔、ということか?」

 夕べも、護が傍にいながら、健にいてほしいと言っていた。

 志乃を一人にできないとわかると、無理がきかない体で部屋に戻ろうとしていた。

 やはり、実もまた、志乃を仲間として、認めている。

 彼の言動にも、考えにも、反対するつもりはない護だったが、やはり、どこかで自分の心境が変わっていたようだ。

 微かに、心の中に、蠢くものがある。

 実は、関心もなさそうに仰向けになると、自分から、サイドテーブルにあったタオルを額にのせた。

「別に……邪魔だとは言っていない」

 その返事に、護は心の中で問いかけた。

“言葉では、だ。けれど……心の中は……?”

 このところ、実はまともに護と話をしていなかった。

 意識的になのか、無視、とまでは言わないが、彼のほうから護に話しかけようとはせず、そして、護も、それに合わせて黙っている。

 護にしてみれば、それで充分だったはずだ。

 実が傍にいる。それだけでいい。

 そのはずだったのだが……。

「傍にいる。オレは、ここに……」

 こうでも言わなければ、もう、伝わらないのか……。



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